アメリカにおける組織運営 (マイクロマネジメントと権限委譲)

前回のNews Letterでも書かせていただいた様に、日本とアメリカでは会社の雇用形態や雇用スパンが異なるという特徴があります。それだけではなく、アメリカでは職務や責任がそれぞれのポジションに帰属している事も大きなポイントです。つまり、一般的な日本の会社に見られる様なマルチタスクな業務というよりも、どちらかというとある程度範囲が決まった中で各々の業務を全うする形が取られています。

そのため、組織の運営や管理方法も日米で異なって来る部分もあるかと思いますので、今回はそこに着目してみました。


組織運営や人材管理に関してよく耳にする言葉で、”マイクロマネジメント”というものがあります。これは簡単に表現するのであれば、タスクを全うするためのプロセスにおいても上司が指示あるいは把握するという形とも言えます。これはミスを防ぎやすい他、人によって作業や結果のクオリティーが変わりにくい利点がある一方で、上司が細かくチェックする事や都度確認や了承を得なければならない事によって、タスク完了までに費やさなくてはならない労力が大きいとも考えられます。

日本ではExemptやNon-Exemptという定義がなく、また残業や残業代に関して不透明な時代もあったからなのかもしれませんが、クオリティーのためであれば残業もいとわず時間や手間をかける傾向がある様にも思われます。また、タスクを任されていたとしても上司の確認や了承が必要だとすると、見方によっては結局自分に任されている訳ではないとも捉えられ、責任の所在も曖昧になる場合もあります。

その一方で、アメリカではNon-Exemptの従業員には必ず残業代を払わなければならない事や、仕事の分担や責任もある程度明確になっているためか、タスク完了までの細かいプロセスは各々に任せ、そのアウトプットを評価するのが一般的な形を取っている事が多い様に思います。ExemptであるManager (上司)には、部下の目標あるいはタスクを明確化し、それを達成させるためのレールを敷くのも役割としてあるため、それができるとプロセスを細かく管理する必要がないという事なのかもしれません。ちなみに、これはExemptクラスの社員を部下に持つ人にも同様の事が言えます。

つまり、タスク完了まで各々に裁量を持たせるという事になりますが、その結果や責任も含めて”権限移譲”をしているのだと思います。そのため、アメリカではプロセスを細かく管理する様な日本型の”マイクロマネジメント”は敬遠される傾向にあるのではないでしょうか。


ただし気を付けなくてはならないのが、あまりに任せ放しになってしまうと、業務のブラックボックス化やポジションの聖域化が起こってしまう可能性もあるので注意が必要です。実際にその担当が何を行っているのか、行っている事が本当に正しいのかという点を上司が理解していないと、例えばその担当の判断基準が適切でない場合があった場合に、そのまま思わしくない方向に進んで行ってしまうかもしれません。

また、”権限移譲”を行うためには、相手がそのタスクや責任を全うできる人である事が前提になるため、組織の人員構成が重要になります。つまり、定められた役割ごとにその職務や責任に見合った人を雇えている状態でなければなりません。

アメリカでは、ポジションの難易度や責任に応じて給与が変わって来る事は皆さまのご存知の通りですが、こちらで人員を雇用する際に難しいのが、日本の給与水準と大きく異なるという部分も挙げられます。例えばアメリカでManager、つまり日本でいう仮に課長クラスを適切な給与で雇用しようとすると、日本の部長や社長と同様の水準になってしまう事もあります。そういった状況下で、給与を日本の水準に合わせざるを得ないとすると、募集する際の給与を下げざるを得ず、その場合は本来求めているレベルの人材を雇えない事にも繋がりかねません。

そうなってしまうと、”権限移譲”はできないため細かい管理が必要になって来る、あるいは組織全体の機能が高まらないという事もある他、責任が取れる立場の人員に業務が集中してしまうという事も考えられます。そのため、求めている役割を全うできる人をしっかり雇う必要があり、そこには適切な給与というものが付随する事も踏まえて適切な市場相場も把握しておく事も欠かせません。

ただし、市場相場をそのまま払える予算がない事も考えられますので、その場合は、対象となる人員の能力に対して何が任せられるのかという部分を整理する事が重要になります。ポジションや肩書ばかり重視して業務や責任を与える形を取ってしまうと、求めている結果が生まれない事や、担当でない人員の負担が増えてしまう事も考えられます。いずれにしろ、給与市場相場や対象者の能力など、状況の把握がポイントになって来る事に変わりはないのかと思います。


アメリカでの組織運営を考える上で、各ポジションや人員ごとの役割をある程度明確にして、それに対して業務や責任をどの様に分配していくのか、またそれをどの様に管理して行くのかという事は、非常に重要なポイントだと思います。また、管理の仕方は”権限移譲”ができる度合いで変わって来る可能性もあり、場合によっては”マイクロマネジメント”が適切になってくる事も考えられます。そして、これは人員の管理方法だけには留まらず、社内の全体最適にも繋がってくる要素なのかもしれません。

在米日系企業の皆さまの多くが新しい年度をスタートされた4月、一度社内状況を整理して、各ポジションの役割や責任などを見直す機会を設けてみるのはいかがでしょうか。 (2016年3号)


関連動画: 【収録】生産性を向上させる「権限移譲」

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