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⑫ 北陸二部作2 われらのストイケイオン   砂でかいた文字

われらのストイケイオン  

     1

触れずに奏でる
妙なる音色の楽器を
(われらは)

            よもすがら咽ぶ歌の枕に
                  聞こえるのは
   竪琴の風鳴りか
    肌にかかる
           あなたの息か
           声は発せられた
                     
       抜かずに切る刀の使い手
青い刃をふところに深く忍ばせ
一閃する光のうちに勝利する
一滴の血も流さずに
(われらは)
  
              妙なる音色の
           壁を越えて響きあうように
             距ててもひとつになる
今宵 熾天使がおりてくる
  通信の時代に
    かんじょうというエネルギーを
      自在にあやつる

        交響曲を奏で
          朗々たる歌声を
            響かせる
  火を使わずに
   打ち上げる
      花火師
(われらは)

天翔る龍になり                
 光のことばを
  のみほす
                   
 夜と沈黙のある書物
(われらは)

         2
 
絵師が色で語るように
眼交で
幾多の記憶の層と
たがいの質量を増幅させる

ゆらぎのある  
 堅固な構造を形成する


けだし成層圏にたっする高さの
 現代のバビロン
   奉られ 高くそびえる 豊穣の仏舎利  
 
天空の綱渡り
 いかにも人間的な 軽業師  
    おおいを引っぺがされ
     引っ張りだされて
      生まれなければならなかった
(われら)
地上の生きもの

さまよう 
山ふところの月影に
岩のおもていちめん
宝玉の煌めきをちりばめて
張りつめる夜霜は
     はじめの光に溶かされ
                       
   熔岩の孔をつたい
 草木に吸われて
 森を造るつかの間輝くあの湖        
 野性の風にゆれる水は
地下でつながっている

 帽子を投げる 桂男
   眼路のはるかを昇る
    月に入り 
      豊かの海に泳ぐ


          3

離れていながら体温を鮮烈に見る
熱愛という調教
まなざしのなかの狂気が
夜と沈黙のある
われらの隠された本を
燃やしはじめる        
 香りの記憶に
ことばの匕首で
  空を切れば
赤い 
赤い 
血潮が滴る
 流れ 流れて
  開くのは
   世界という傷口

色を持たない血
   それは 涙
  かんじょうの高まりに滲み
     落下する 雫のなか
鷗がよぎり 白い船がゆく

流れおちて
  ころころところがり
  つなげれば
      生きものたちの
      それぞれの種の
        生存曲線を描いて
    首飾りになる

    4.
  
大航海時代の
不屈をもって
アンドロメダを過ぎ
         孤独の宇宙旅行へ
      羽根を静止したまま
     気流に乗る
    ことばは
 神さびた鳥となって
はじまりの地点にもどってくる
       砂でかいた文字で
       はじめる 歴史
       (われらの)

       風切り羽なく
         とびつづけ
   藍色へと南下せよ
 アルマジロの堅牢さをもつ
種子となり
嵐と闇と太陽の焦がす
酷薄な海峡にただよう
         
              
永劫のときの熟成する
うまし美酒の盃を 享け
   空の空をことほぎ
紙のない契りをかわす
       
       星雲の向こうがわへ
        地軸と同じ斜度をもって
        盃を傾ける
一杯 
一杯  
また一杯と



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