牡蛎フライ
食べたら絶対に美味い、と予測がつくのに……まともに口にしたことのない食品が僕にはいくつかある。
その一つが牡蛎フライである。
随分前のことだが、弁当屋でバイトをしていた時……つい牡蛎フライを摘み食い(店長の許可もと)をして……それまで敬遠していたのだが……あんがい美味いかも、と思ったことがあった。
家族の話によると、僕は子供時代「牡蛎」は全く受け付けなかったようで、食卓に上ったことはない。
それでも、家族は全員牡蛎フライが好きで……実際、僕が調理したことも屡々であった。そんな時、僕だけはトンカツだったが……
美味いから食ってみろ……と家族からは再三言われていたのだが、……僕の気性として、とにかく不味いモノを口に含むことくらい嫌悪を催すことはないのだ。
そして時が流れ、先の弁当屋での一件であった。
確かに初めて味わう美味さでもあり……いずれオカズとして食べようとも思ったのだが……たまたま読んでいたジョイスの、「ユリシーズ」の中だったと思うが……なんと、「牡蛎」のことを「痰の塊のよう」と描写されていたのだ!
文章の力とは恐ろしい。牡蛎のフライ=痰のフライ。
一気に、牡蛎フライへの好奇心は薄れてしまった。
思えば以前、似たようなことがあった。夢野久作の作品で……「人間腸詰め」だったろうか? ……ソーセージの中からズルッと人毛が出てくる描写があって……しばらくホットドッグも食えなくなったことがあった。
僕はつくづく損な性格らしい。
まともに口に入れ、咀嚼したことのない食品は先の牡蛎フライ以外にも、例えば「納豆」「イクラ、スジコ」「牛タン」「焼き鳥の肉以外の内臓系」「ムール貝」「サザエ」「海鼠」……考えればもっと出てくるだろう。「刺し身一般」も、一時は食べてもいたのだが、地元のすし屋で恐ろしいまでに不味いランチを食べてからは、いっさい食指は動かない。
こんなコトでは、いずれ食べるものがなくなってしまいそうである。いい大人のくせに……時として、夕食をシュークリームとエクレアで済まそうの考えたこともあった。
ぜひとも、今年中には「牡蛎フライ」に挑戦したいと考えている。決してジョイスの描写は思い出すまい。
貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。