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書籍解説No.30「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」

こちらのnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。

前回の投稿はこちらからお願いいたします。

今回の投稿で「読書解説シリーズ」は30本目となりました。
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

1つの節目ということで、今後は新たな試みとして「多国籍料理シリーズ」を始めていく予定です。
読書関連の投稿も引き続き投稿しますが、自身のスパイスコレクションを駆使した料理や使用方法などもまとめていく予定ですので、そちらも覗いていただければ幸いです。
具体的は内容は以下の記事でまとめています。

それでは本題です。
今回取り上げる書籍は「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」 です。

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【利便性の向上と生活習慣の変化】

科学技術の発展は、私たち人間を取り巻く環境や生活様式などあらゆるものを劇的に変化させてきました。それは安価で利便性の高い商品やサービスといった恩恵をもたらした一方で、人間の種の存続を脅かすほどの脅威ともなっています。

かつては中高年の病気だった生活習慣病も、今や若い世代の人たちにも広まりつつあり、大多数の人たちが肥満や疾病といったリスクに見舞われています。世界保健機関(WHO)の発表によると、このような現象は世界的なものであり、青少年の運動習慣が低下しているという結果を示しています。
生活習慣病をはじめとした多くの疾病の原因として挙げられる要因としては「運動不足」「偏った食習慣」そして「ストレスの蓄積」があります。
今回は著書は、とりわけ「運動」に重点が置かれています。

運動によって筋力や心肺機能が高まることは周知の事実ですが、著者にいわせればそれは副次的な効果に過ぎません。
運動をすることは脳を育て、より良い状態を保つために必要不可欠であり、更にはストレスの増加やうつ状態に伴う脳の萎縮をも逆行させるといいます。
つまり、老後の認知症の予防にも寄与するということです。

反対に、自発的に動かない生活を続けることは脳を弱体化させ、更にいえば自ら脳を殺すことになります。

脳は筋肉と同じで、使えば育つし、使わなければ収縮してしまう。

(本文 P.10)


【ネーパーヴィルの奇跡】

本著では、運動が健康と学力の向上に目覚ましい影響を与えた例として「ネーパーヴィル203学区」での教育実験の取り組みが挙げられています。

ネーパーヴィルとは、アメリカ・イリノイ州にある地区ですが、この学区で実施されたある革新的な教育実験が話題となりました。
それは「0時限体育」です。

「0時限体育」

つまり1時限目の授業の前に運動することで、学業における読解力やその他成績の向上の可能性を明らかにするために始められた実験でした。
しかし、たとえ運動とはいってもその内容は昔ながらの体育の授業とは一線を画しています。
たとえば、ネーパーヴィル・セントラル高校では以下のような活動が実際に取り入れられていました。

●心拍計を装着し、各々が自分のペースでランニングをする。順位やタイムを気にする必要はないが、平均心拍数は185以上に上げる。
●運動の苦手な生徒でも、空き時間に5マイル(約8㎞)分エアロバイクをこげば、割り増し単位が与えられる。
●かつて日本でも流行った「ダンスダンスレボリューション」を、心拍計をつけてプレイする。
●運動、そして人との交流はストレスを軽減させることから、3対3のバスケットボール、4対4のサッカーといったチームスポーツをする。

このほか、カヤック、ダンス、ロッククライミング、バレーボールといった幅広い選択肢が生徒たちには与えられ、自分自身に合ったフィットネス計画を立てていきます。
それらの活動を通じて健康であるための実践方法、そして健康の大切さを実際に身を以て学ぶことが、本カリキュラムの目的です。

また、例にあるような有酸素運動は普段の生活に溢れる不安を和らげ、心身のシステムのバランスを整え、その能力を最大化しようとする機能を高める効果があるとされています。老化によってストレス耐性の閾値は下がっていきますが、有酸素運動はそれを復元させる効果があるといいます。
そのため、生徒たちは心拍計を身に付け、最大心拍数の80~90%の間で運動することを指示されていました。

最大心拍数 ― 一般的には大人の場合、220から自分の年齢を引いた値を理論上の最大値とみなす

(本文 P.18)

この最大心拍数のノルマというのは、実際にやってみるとハードであることがわかります。
なお、たとえ生徒たちがゆっくり走っていたとしても、この授業の目的は競争ではないことから心拍数のノルマさえクリアしていれば、先生から「ダラダラ走るな」「ペースを上げなさい」などと叱責を受けることはありません。

そして気になる実験結果ですが、その成果を確かめるために「0時間体育」を受講した生徒とそうでない生徒で、リテラシー力(読み書き)と理解力のテストを実施しました。
すると、普通の体育のみの参加した生徒のグループは成績が10.7%向上したのに対し、「0時間体育」を取り入れたグループは17%の伸びを記録しました。

更に1999年、ネーパーヴィルの8学年の生徒は世界の約23万人の生徒が参加するTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)という国際的基準のテストを受けました。当時のアメリカは、中国、日本、シンガポールといったアジアの国々に水をあけられてきました。しかし、ネーパーヴィルの生徒はそこで数学では世界6位、理科では世界1位という結果を出したのです。

この「0時限授業」というプログラムによってネーパーヴィルの生徒は国内有数の成績優秀な生徒へと変貌を遂げ、一連の実験が学業成績に影響を及ぼしたことが証明されました。
その成果に感銘を受けた学校側は、「0時限」を「学習準備のための体育」と名付け、一時限目の読み書きの授業の一環としてカリキュラムに組み入れることになりました。


【運動-心と体にかかるストレスのコントロール】

ストレスは人間にとって悪影響を及ぼすものだと思われがちですが、実は一概に悪いものとはいいきれません。

脳は少々のストレスを受けることで傷を受けますが、そこから修復されていく過程を通じて丈夫に生成されていきます。これは、ハードなウェイトトレーニングやワークアウトによって筋組織が壊され、そこから回復していくプロセスと極めて類似しています。
しかし、過度なストレスを蓄積したり、心や体にかかるストレスをうまくコントロールできなかったりした場合には、うつ病や疾病といった症状を招くことになります。

これまで述べてきたように脳は柔軟で適応性があることから、情報のインプットとアウトプットを繰り返すことで鍛えることができます。これは効率の良い学習法としても知られています。
その詳細は以前まとめた「使える脳の鍛え方 成功する学習の科学」の記事をご参照ください。

本著で例に挙げられているネーパーヴィルの体育では、スポーツではなく健康(フィットネス)について教えています。
つまり、人間が自身の健康に目を向け、生涯にわたって幸福感を覚えられるような「ライフスタイル」を身に付けることを目標としているのです。

また、運動をすることは「自分は変えられる/成長できる/コントロールできる」といった自信をもつことができます。
体重・体脂肪の減少、筋肉量の増加といった外見的なものやパフォーマンスやタイムの向上などはもちろんのこと、脳を活発化させ、認知能力や思考の傾向といった人間の内面的な部分にも好ましい効果を与えます。
そして、たとえ困難や逆境が本人の前に立ちはだかったとしても「必ず乗り越えられる」という自信とバイタリティーをもつことができるといえるでしょう。


【まとめ】

昨今の平均寿命の延びは「健康寿命」という新たな課題を生み出し、いらつき、不安、恐怖、うつ病といった症状を抱えがちな社会へと突き進んでいます。現代社会において、私たちはあらゆるストレスから逃れることはできず、そのなかで生きていくことを余儀なくされています。
そこで「人生100年時代」を健康に、そして幸福感を感じて過ごすために必要な要素が、本著のテーマである「運動」です。

本著では、運動が私たちの心身にもたらす効果を、最新の科学実験や調査を基にまとめられています。
例えば、運動をすることはストレスやうつの抑制、幼児期におけるIQと言語能力の向上、ガン予防、認知症予防にも効用があることを示しています。
繰り返しになりますが、運動は心肺機能や筋肉の増強を促進し、更には認知能力や心の健康にも強い影響力をもっているといいます。

ちなみに、ラットの実験により、強制された運動では自発的な運動ほどの効果が出ないことがわかっています。そのため、もし運動をするのであれば、運動が脳に与える効果を理解したうえで自発的に生活のなかに取り入れることが必要であるとしています。
ラットの実験を人間に適用できるのかは、私自身専門家ではないため不明ですが、人間の心身におけるメカニズムなどは徐々に明らかにされつつあります。

本著は、運動が「体の健康」のみならず「心の健康」に寄与することを示しています。
この世に生を授かった以上は、徐々に体の機能が衰えていくことは不可避ですが、継続的な運動によって悲惨な衰えを抑制することができるようです。

「本著ではほかにも、ストレスを解消するため、集中力を高めるため、更年期障害を乗り切るため、賢い赤ちゃんを生むため、そして、老後も明晰な頭脳を保って明るい気分ですごすために、運動がどれほど役立つかが、数かすの証拠とともに語られます」

(訳者あとがき P.344 より引用)

具体的な脳の機能やメカニズムと併せて詳しく知りたい方は、本著を手に取ってみることをおすすめします。

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