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書籍解説No.23【ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か】

こちらのnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。

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今回取り上げるのは「ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か」です。

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【ポピュリズムとは】

近年の欧州におけるポピュリズム政党の台頭、EU離脱を巡るイギリスの国民投票、アメリカ大統領選挙でのトランプの勝利など、世界各地でポピュリズム勢力が存在感を増してきています。

そもそもポピュリズムとは何を意味するのでしょうか。
端的にいうと、「人民(people)」に依拠してエリートを批判し、人民の意思を直接的に政治に反映させることを主張する急進的な改革運動です。
ポピュリズムは、現代の政治が一部のエリートや既得権益に関わる個人・団体によって支配されているという主張をし、既存の政権が主導する民主主義・自由貿易・移民政策などに異議を唱えることで変革を訴えます。

そして、政治から疎外され無視され続けてきた多様な層の人々(農民や労働者、中間層など)の政治参加と利益表出の経路として、ポピュリズムが積極的に扱われました。
つまり、ポピュリズム勢力は既成政治から見捨てられた人々の守り手を任じ、自らを「真の民主主義」の担い手と称しつつ、エリート層を既得権益にすがる存在として断罪することで、「下」の強い支持を獲得しています。

このようなポピュリストらの扇動に人々が応える形となったのが、EU離脱を巡るイギリスの国民投票であり、2016年アメリカ大統領選挙でのトランプの勝利です。

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(画像の出典: pixabay)

ポピュリズム研究をリードするK.ロバーツは「社会経済的な変容が進み、改革を求める政治的・社会的圧力が強まるなかで、既存の政治構造が変化に対応できず、ポピュリズムの出現をみる」としています。

また、ポピュリズムと聞けば「右派」あるいは「極右」と見られがちではありますが、左派ポピュリズムも存在します。以下、右派ポピュリズムと左派ポピュリズムの特徴です。

【右派ポピュリズム】
排外主義、反移民・反イスラームなどを主張する。
ex.)国民戦線(フランス)、ドイツのための選択肢(ドイツ)、自由党(オランダ)

【左派ポピュリズム】
反緊縮、反格差を主張する。
ex.)急進左派連合(ギリシャ)、五つ星運動(イタリア)、ポデモス(スペイン)

核となる理念は左右で異なるものの、両者には共通点があります。それは既成の政治家・政党を批判し、自由貿易や国際主義に反発し(反EU)、自国第一主義を唱える部分です。

更に近年のポピュリズムの主張で見逃せないのが、民主主義的な手法を以て既成政治を非難するとともに、移民の存在を問題視する排外主義的主張を繰り広げている点です。
現代では、ポピュリストの唱える民主主義的主張が排外主義と結びつけられ、なかでも象徴的な事例として挙げられるのが、イスラーム系移民を標的にした主張です。彼らは「イスラームは男女平等を認めず、民主主義的価値観とも相いれない」「ほかのいかなる宗教よりも狂信者を生み出す傾向がある」というロジックを展開し、ジェンダーの平等や民主主義を擁護しながらイスラーム系移民を排撃するというものです。

2015年の西ヨーロッパでは1月初旬のシャルリー・エブド襲撃事件に端を発し、イスラーム過激派に関わる事件が相次ぎました。欧州のポピュリズムはこれらの事件によって自らの主張が立証されたとし、既成政党の無策を批判するとともに反イスラームを旗印に掲げて支持を拡大し続けています。


【反イスラームの急先鋒、ウィルダース】

オランダ自由党の党首であるG.ウィルダースは、反イスラームを掲げるポピュリストの代表格ともいえる存在です。

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(画像の出典: REUTERS)

党首とはいっても自由党の正式な党員はウィルダース一人です。
彼を応援する支持者やボランティアが選挙に協力したり、「自由党友の会」に寄付を行うことはできますが、入党することは制度上できません。党大会や党支部などの公式機関も一切存在せず、党員集会や機関誌もない、異例の政党ともいえる存在です。

党員一人で実績が伴うものなのか疑問なところではあります。しかし、2017年にオランダで行われた選挙では137万票を獲得し、第二党に躍り出ました。
彼の手法は、Twitterやメディアを通じて急進的で過激な主張を繰り広げ、有権者に直接的に訴えかけるというものです。中間団体が弱体化する現代社会では、巨大な政党に所属せずとも、既存メディアを出し抜いて個人がSNSを通じた発信をすることで市民と直接コミュニケーションをとって意見を吸い上げ、影響力を有することを証明しました。

また、ウィルダースはヨーロッパの「デモクラシー」や「リベラル」的な価値と相反する「イスラーム」というレトリックで主張を展開し、排除の論理を正当化します。
つまり、反民主的な人種差別的イデオロギーに基づいて移民排斥を訴えているのではなく、あくまでも「リベラルな価値」と「民主主義」を守るためにイスラーム移民を排除する、という論法を取っています。そして、ヨーロッパにおける政教分離や男女平等、個人の自立といったリベラルな価値に基づいて「政教分離を認めないイスラーム」「男女平等を認めないイスラーム」「個人の自由を認めない」を批判します。

このような論法は、欧米と比較して移民人口が低い日本では馴染みがないものですが、オランダに限ったものではなくヨーロッパでは浸透しつつあります。


【中抜きの時代】

著者は、ポピュリズムの伸長の背景を3つ挙げています。

①冷戦終結と左右対立の変容
②既成政党や既成団体の弱体化
③産業構造の変容とグローバル化(移民の増加、欧州統合の進展)

特筆すべきは、近年の社会の仕組みが「中抜き」構造にあり、これを20世紀型の組織政治の凋落としている点です。

例えば、日本では有権者の団体加入率の低下が顕著になってきています。ここでの団体とは自治会や農業団体、労働組合、経済団体をさし、これら団体は戦後の日本において無所属保守系の母体として機能していました。
しかし、これら団体に加入する人数は減ってきており、それに伴って中間団体が弱体化しつつあります。

そのため、現代の選挙で勝つためには既成政党や団体に所属して勝負に挑むよりも、むしろそれらを既得権益の温床として批判する手法がより有効になるといいます。
著者は、東京都知事である小池百合子氏が2016年東京都知事選挙の折に自民党と距離を置き、無組織層に訴えかける手法を以て選挙に臨んだことを例に挙げています。

「中抜き」社会に関する詳細はこちらの動画を参照ください。
著者が「ポピュリズムと「中抜き社会」の到来」をテーマに解説したものです。


【欧米と日本の違い】

ポピュリズム的政治手法を用いた日本の政治家の代表格として名前が挙げられるのが、橋下徹です。橋本は、特権的なエリートに対する市民勢力というロジックをメディアを通じて発信することで、無党派層の幅広い支持を集めることに成功しました。

しかし、日本と欧米のポピュリズムには大きな違いがあります。
それは、上述したように欧米諸国のポピュリストの多くは「移民問題」を掲げている点です。アメリカではトランプ大統領がメキシコからの移民を受け入れない方針を大統領選挙の時点から声高に掲げ、ヨーロッパのポピュリスト政党及び政治家もまた反移民・反イスラームを掲げており、それが支持者を獲得する要因ともなっています。

日本では在留外国人数が増加傾向にありますが、欧米各国と比較して自国民に対する外国人の比率は未だ大きいとはいえません。また、国内には排外主義的な団体があるものの、反移民を掲げたとしてもそれがまだ大衆的な影響を及ぼすほどの段階ではないと著者はいいます。

ただし、将来的には少子高齢化によって日本人の人口は確実に減少していく一方で、好むと好まざるとに関わらず外国人数は増え続けていきます。
今以上に外国人の存在感が高まった時代に何かの重大な出来事が起きたとき、反移民を掲げる急進的な政党や個人が台頭する可能性があるといえるでしょう。


【まとめ】

現代デモクラシーを支える「リベラル」な価値、「デモクラシー」の原理を突きつめれば突きつめるほど、それは結果としてポピュリズムを正統化することになる
(本著より引用)

ポピュリズムは、ある種のカリスマ的な手法を以て市民の政治参加を促し、政治エリートが支配する既成政党への反発や移民増加への強い警戒感を煽り、直接的な民主主義によって人々の思想の実現を志向します。

民衆の不満や願望を聞き入れながら政治エリートに対抗するポピュリズムは、国民の声を汲み取る理想的な政治手法と映るかもしれません。しかし、その手法は民主主義的・自由主義的・世俗主義的ではありますが、それは移民や外国人の排斥・差別をも正当化する側面も有しています。
ときにその扇動的な手法は、民衆の理性的な判断を機能不全化させるほどの威力を発揮します。

ここでポピュリズムが正義か悪かは述べませんが、一ついえることは日頃から情報をすべて鵜呑みにするのではなく理性的な判断ができるような訓練をしておく必要があるということです。
大衆に大きな影響力を持つメディア自身が、ポピュリズムを助長してしまう可能性もあります。そのため、私たちは盲目的にメディアの情報を信じるのではなく、自分なりの真偽を判断するスキルを身に付けていかなければなりません。
イギリスにおけるEU離脱の国民投票後には、メディアやインターネット上では驚きとともに、根拠のない主張を掲げて離脱を先導した政治リーダーへの非難、無責任な票を投じた離脱賛成者への厳しい批判が噴出しました。2016年のアメリカ大統領選挙後にも同様の反応が起きました。

ポピュリズムの歴史は、国民の未来に重大な提言を与えています。

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