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書籍解説No.16 「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」

こちらのnoteでは、毎週土曜日に「書籍解説」を更新しています。
※感想文ではありません。

本の要点だと思われる部分を軸に、私がこれまで読んだ文献や論文から得られた知識や、大学時代に専攻していた社会学、趣味でかじっている心理学の知識なども織り交ぜながら要約しています。
よりよいコンテンツになるよう試行錯誤している段階ですが、有益な情報源となるようまとめていきますので、ご覧いただければ幸いです。

それでは、前回の投稿はこちらからお願いします。

16弾の今回は【愛着障害 子ども時代を引きずる人々】です。

従来、愛着の問題といえば、特殊で悲惨な家庭環境で育った子どもの問題として扱われがちでしたが、近年は、一般の子どもにも当てはまるだけでなく、大人にも広くみられる問題だと考えられるようになりました。

例えば、うつ病や不安障害、アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症、境界性パーソナリティ障害や過食症といった現代社会を象徴する精神的なトラブルの多くにおいて、その要因となっているだけではなく、離婚や家庭の崩壊、虐待やネグレクト、結婚や子どもをもつことの回避・恐れ、社会に出ることへの拒否、非行や犯罪といったさまざまな問題の背景の重要なファクターとしても、クローズアップされていると著者はいいます。

愛着の安定性や様式は、その人の仕事や恋愛をはじめとした対人関係のスタイルや親密さの求め方、子育ての仕方、ストレス耐性や健康状態にまで深く関わっており、その人の心理と行動を支配していきます。

【キーワード】
重要な他者
愛着パターン
愛着スタイル
安全基地

【子どもの成長に欠かせない「愛着」】

愛着とは、人と人との絆を結ぶ能力であり、人格のもっとも土台の部分を形作っている。
(本文より引用)

子どもの愛着形成においては、いうまでもなく良好な人的環境のもとでの安定した関わりが重要となります。しかし、たとえ多くの人がその子を可愛がり、十分なスキンシップを与えたとしても安定して成長できるとは限りません。
ある特定の存在(愛着対象)との関わりこそが、子どもにとって特別な結びつきとなります。

その特定の存在というのは「母親」です。

【「重要な他者」の存在】

個人の愛着スタイルの大部分は幼少期の関わり合いをもとに形成され、子どもにとって「重要な他者」である母親との関係が出発点となります。

子どもは、愛着によって生じる「安全基地」が確保されることで、探索行動が可能となります。遊びや探索活動をしている際に何か不安や脅威に直面したとしても、「安全基地に戻ることができる」「自分は常に守られているという安心感が保障されることで、子どもは好奇心を発揮し、活発に行動できるのです。
しかし、子どもが助けを求めているにも関わらずそれを無視をしたり、反応が気まぐれなものであったり、はたまた過保護になりすぎて子どもの主体的な行動を制限したりすれば、基本的安心感や基本的信頼感というものも育まれず、不安定な愛着が形成されてしまいます。
そのため、あくまでも子どもが助けを求めているときには手を差し伸べ、抱きしめてあげるという姿勢が大切です。
こうして、子どもは母親との関係によって構築された「安全基地」を拠点としながら、親族や近所の人など母親以外の人とも関わるようになっていきます。

こうして幼少期に形成された愛着スタイルは、大人になってからの対人関係のスタイルや親密さの求め方、仕事や人生に対する姿勢など、あらゆる場面で大きく影響を及ぼします。

【子どもの4つの「愛着パターン」】

幼少期の愛着パターンは固定化されたものではなく、関わる相手によって、あるいは相手からの接し方によって変化します。
そのため、この時期の愛着の傾向は愛着スタイルではなく「愛着パターン」と呼びます。

●安定型(子どものうち約6割強) ― 母親から離れると泣いたり不安を示したりするが、その程度は過剰というほどではなく、母親が現れると素直に喜び、母親に抱かれようとする。

●回避型(1割5分~2割) ― 母親から引き離されてもほとんど無反応で、また、母親と再会しても目を合わせず、自分から抱かれようともしない。親の関心や世話が不足して放任になっている場合にみられる。

●抵抗/両価型(1割程度) ― 母親から離されると激しく泣いて強い不安を示すのに、母親が現れて抱こうとしても拒んだり嫌がったりする。しかし、いったんくっつくとそこから離れようとしない。親がかまってくれるときと無関心なときの差が大きい場合や、神経質で厳しく過干渉な親の場合が多い。

●混乱型 ― 回避型と抵抗型が入り混じった、一貫性のない無秩序な行動パターンを示す。虐待を受けている子どもや、精神状態がひどく不安定な子どもにみられやすい。

(本文より一部簡略化)

【大人の4つの「愛着スタイル」】

親を出発点として、関わる人間関係の幅が広がるにつれて、その人の愛着パターンが定まってきます。そして、成人する頃には「愛着スタイル」として確立されていきます。
子どもと同様で、大人の「愛着スタイル」も4つに分かれます。

●安定型 ― 率直さと前向きな姿勢をもつ
自分が愛着し信頼している人が、自分をいつまでも愛し続けてくれることを確信している。自分が困っているときには相手がそれに応えてくれると信じていることから、気軽に相談したり助けを求めたりすることができる。
人の反応にあまり左右されず、愛情を失ってしまうことや嫌われてしまうことなどを不安に思い悩むことがない。仕事と対人関係のバランスが良く、ストレスを溜め込みにくい。

●回避型 ― 葛藤を避けようとし、距離を置いた人間関係を好む

何に対しても醒めており、本気で熱くなることが少ない。親しい関係や情緒的な共有を心地よいとは感じず、むしろ重荷に感じやすいことから、親密さを回避しようとする。人に依存もしなければ、人から依存されることもなく、自立自存の状態を最良とみなす。
情動的な強い感情を抑えるのが得意で、それに囚われることがない。また、自己開示を避ける傾向があることから、(とりわけ喜びや関心の)表情や感情表現が乏しい。

●不安型 ― 否定的な感情に囚われやすく、嫌われることを恐れる
「愛されていたい」「認めてもらいたい」という気持ちが非常に強く、拒絶されることや見捨てられることに極めて敏感であり、「嫌われていないか」と不安に苛まれている。相手の表情に対して敏感ではあるものの、それは不正確であることが多い。
恋愛モードに発展しやすく、仕事のような利害に基づく連携に過ぎない関係を愛着関係と錯覚し、親しくなることが恋愛関係や肉体関係に結びつく。そして、相手と親密になるほど「見捨てられる」という不安が強まり、猜疑心や嫉妬心が燃え上がる。

●怖れ・回避型 ― 愛着回避と愛着不安が混在する

対人関係を避けようとする人間嫌いの面と、人の反応に敏感で見捨てられる不安が強い面の両方を抱えるため、対人関係は不安定なものとなる。人と仲良くしたいと思う一方、親密になることで強いストレスを感じたり、傷ついてしまうというジレンマである。
この複雑な愛着スタイルは、養育者との関係において深く傷ついた体験(虐待・ネグレクトなど)に由来する。

(本文より一部簡略化)

以上が、愛着スタイルの4パターンです。

対人関係においては、言うまでもなく安定型の愛着スタイルの人同士がパートナーになったほうが関係はうまくいきやすく、反対に不安定型(回避、不安)の愛着スタイルをもつ人同士が関わり合うと、些細なことからトラブルになり、状況が混迷しやすくなります。しかし、不安定型の人であっても、どちらか一方が安定型であれば、関係の安定性は格段に上がるといいます。

恋愛面において、愛着スタイルごとの行動を深掘りし、それをもとに相性診断などを綴っているのがこちらの書籍です。
※来週土曜日の投稿ではこちらを取り上げます。

【まとめ】

愛着障害における対人関係の特性は、相手との距離が近すぎるか、遠すぎるか、どちらかに偏ってしまい、ほどよい距離がとれないということである。
(中略)
相手との距離を調節する土台となっているのが、その人の愛着スタイルである。不安定型の愛着スタイルでは、ほどよく距離をとった、対等な関係というものの維持が難しいのである。

(本文より引用)

愛着障害は、幼少期に親から肯定的な評価を受けられなかったことが多いことから、それが回りまわって自分に対して、また周囲に対して否定的な評価を抱いてしまいます。そして、対人関係に問題が生じたり、自身をネガティブに捉えてしまうことに繋がります。
つまり、幼少期の養育環境が成人後の対人関係及び夫婦関係の維持、そして子育てに影響し、その結果として再び子ども自身の愛着の問題へと繋がっていく可能性があります。そのような負の連鎖を断つためにも、自分のところで愛着障害を克服することが重要になると著者はいいます。
本著では、愛着障害の概要や克服の仕方、各愛着スタイルの解説などが詳細に綴られています。

性格特性は、半分が遺伝、半分が環境(人間関係)をもとに構成されています。
先天的なものである遺伝は、言うまでもなく変えることはできません。しかし、ここまで述べてきた「愛着」は守ることができる要素です。そして、繰り返しになりますが「愛着スタイル」は生涯にわたって影響が持続するものです。

親が愛着形成のために子どもにできることは、家庭で愛情をもって育て、よりよい養育環境を創出し、人間関係を構築する機会を保障することです。また、親子関係だけではなく、学校や近所、習い事の教室といった、子どもにとって良好な対人関係を築くことができる環境を提供してあげることも、親の大事な役割といえます。

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