センター試験の思い出

私はセンター試験を2回受けている。


高校卒業後、私は1年間浪人した。
最初のセンター試験を受けた高校3年生のとき、
私は1分も勉強せずに受験した。

高校2年生の半ばくらいから徐々に体調が悪くなった私は、日中起きていられなくなっていた。
きっかけは分からないけれど、いわゆる自律神経失調症とか慢性疲労症候群とかそういったものだった。
とにかく朝布団から出られない。
眠くてたまらない。
学校に行けない。

3年生に上がってからは勉強どころではなかった。
1週間一度も休まずに登校することは出来ず、登校しても保健室でよく寝ていた。
授業中に起きて机に座ること自体が無理だった。
帰宅したらすぐに昼寝ならぬ夕寝。
ご飯を食べて風呂に入ったらすぐに就寝。
どれだけ寝ても朝は起きれなかった。

三者面談はまさかの五者面談。
担任、学年主任、養護教諭、両親というラインナップ。肝心の私はいない。
母は
 娘は今受験どころじゃない
 定期テストの勉強も無理
 成績については何も責めないでやってほしい
と言ったそうだ。
学校側からは
 とにかく出席日数だけは誤魔化せない
 卒業するためには学校に来てくれ
 追試が無理なら代わりに課題提出を検討する
と言われた。進路指導とは…?

私は親の為にも卒業できればあとはどうなってもいいと思っていたし、卒業できなければ死ねばいいか、と考えていた。

周囲から聞こえる「絶対浪人したくない」とか「早く受験終わりたい」とかいう声は違う世界の話に聞こえた。
今は高校生という肩書きがあるけど、これがなくなってしまったら私はどうなるんだろう。
何もなれず、何もできず、通う場所すらなくなれば本格的に布団の中から出られなくなるだろう。

友達と一緒に卒業したい。
でも卒業してしまうことがとても怖かった。

センター試験はとりあえず受けるだけ受けて来いと担任に言われて受けに行った。

学校ではなく大学に行くので変な話、遠足のような気分だった。
いつもと違う、これだけで不思議と朝起きれた。
母はお弁当を作ってくれて、「名前書くだけでいいから!」と言って送り出してくれた。
受験生の母とは思えないセリフだ。

地元の大学が試験会場だったので下見もしなかった。
思っていたよりも遠くて、ちんたら自転車をこいで会場に着いた時にはもう疲労困憊だった。
今すぐ寝たい。試験が始まったら寝よう。

直前に見直す参考書も持っていなかったし、携帯電話はガラケー全盛期だったので時間を潰す手段もない。
休み時間も本当に暇だった。
大学に住み着いてる猫を撫でてやり過ごした。


試験は国語は解く気はなく、ただの読書だった。
しかし、やはり眠気には勝てず30分くらい解いて適当にマークしてあとは寝た。
数学や化学は問題の意味が分からず、名前だけ書いてすぐに寝た。
他の教科も似たようなものだった。

試験後、周囲が今年の問題ヤバいだの平均下がるだの何だの言っている横で、
 あーあ
 私4月からどうやって生きていくんだろう
 …4月に私は生きてるのかな
とぼんやり考えていた。

センター試験は完全に他人事だった。


2ヶ月後、高校を卒業した私は少しだけ元気になっていた。
大学に進学した友人が多かったが、浪人する友人も同じくらい多かった。
私が通っていた高校では一浪や二浪は割と普通だった。

体調は疲れやすくてすぐに眠くなるのは変わらなかった。
学校よりも休むハードルが高い仕事(就職)をするよりもまずは規則正しい生活を送る為に、と予備校に通うことにした。
働きたくない(働けない)から大学を目指すという選択だった。

予備校代を出してくれた親には感謝しかない。
甘過ぎる環境だったと今でも思う。
父も兄も大学浪人した経歴があるので、家族全員が浪人生という立場に抵抗がなかったのも幸いした。


次の年、2度目のセンター試験は前回と全く同じ会場、同じ席で笑ってしまった。
周りは全部現役高校生。
私だけ私服の浪人生。アウェー感すごい。

前回、開始5分で寝た数学は最後まで解いた。
休み時間はちゃんと参考書を見直した。
でもやっぱり猫は少し撫でた。

点数は良くなかったけど、第一志望がセンター試験を重視しない学部だったので問題なかった。
無事に大学生になり、8時40分に始まる1限の為に朝起きる生活を送った。
起きれるようになったことが嬉しかった。

私と同じように他人事だと思いながらセンター試験を受けた子は今年もどこかにきっといる。

来年また受けてもいいし、別の道を探してもいい。
大学受験だけが人生を決めることではないと、どうか知っておいてほしい。
努力をする時期は人によって違うと気づいて欲しい。

そして、社会に出るまでに周り道をすることを許せる社会であって欲しい。

受験生の努力が報われますように。




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