意地悪な人【会社哀愁歌_七海Ver.】|短編小説

繁田さんは、いつもムスッと不機嫌な顔をしている。


岡崎七海(24)は繁田さんが苦手だ。意地悪な人だと思っている。
七海が「お疲れ様です」と挨拶をしても返してくれない。
挨拶を返さないどころか、七海の粗探しをするかのように上から下までジロリと見て不機嫌そうに顔を逸らす。

システムトラブルが起こった。
七海は、何とか自分で解決できないかと争闘したがダメだった。信頼できる同僚にもみてもらったがやっぱりダメだ。

彼女を尋ねるしかなかった。

前も別のトラブルで繁田さんに依頼をしたことがあるのだが、エラーアラームが鳴りっぱなしの方が100倍マシと思えるほど彼女の対応は非情なものだった。

「手順を言いますので、覚えてください。」

繁田さんはエラー解除の手順を口頭で説明した。人間の口はそんなにも速く動くものなのかと感動すら覚えるほどの早口だった。

七海は何一つ聞き取れなかった。

やっぱりエラーアラームが鳴りっぱなしの方が100倍マシだ。
数日後、不機嫌な繁田さんのデスクのそばを通ると課長が額に汗を滲ませタジタジになっていた。

誰に対しても意地悪な繁田さんは、誰かに優しくしてもらえているのだろうか?

業者からサンプルが届いたとの連絡が入ったので、配送室まで受け取りに行った。
貸出している台車もあったのだが、後で返却しに行くのがめんどくさかったので箱を積み重ねて両手で抱えた。

前が見えにくい。

会社の各フロア入り口自動ドアにはセキュリティーがついていて、退室は自由にできるが入室の際には社員証をかざし開錠しなければならない。七海は社員証を自分のデスクに置いたまま出てきてしまった。

ちょうどガラス扉の向こう側を会社のマドンナである清野先輩が通った。

チラッとこちらを見たような気もするが、七海に気が付かずに行ってしまった。

残念

女子が髪を切ったタイミングを絶対に見逃さない事で有名な芳一君が、ガラス扉の向こう側を通った。

目が合った!

何故か「クッ」と目に力を入れて二重にしたと思ったら、そのまま目線だけ残して通り過ぎた。

‥‥

女子のヘアスタイルの変化はほんの数ミリでさえも気が付くくせに、七海が立ち往生している事には気が付かなかった。


彼女が通った。


一歩、ガラス扉に近づいて自動ドアを開けてくれた。

「ありがとうございます!」

彼女は何も答えずに七海を上から下までジロリと見ると、抱えていた箱を半分持ってくれた。

七海の胸にジーンとあったかいものが広がった。

「繁田さん、ありがとうございます!」

不機嫌な背中に向かってもう一度お礼をいった。

後日、またシステムトラブルが起こった。
前回繁田さんに超高速早口説明を3回程繰り返してもらって必死に覚えたため、七海は誰にも頼らずにエラー解除することが出来た。

繁田さん、ありがとうございます!















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?