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恨みの呪い


人生最悪の目覚めだった。


私はその日、夢を見た。
夢の中の私は、コンビニおにぎりのパッケージになっていた。


商品棚の、おにぎりの棚に陳列されていた。
私は、私より何倍も大きな生き物に乱暴に掴まれた。
痛い!
と喚いても、それを伝える口はない。
私はおにぎりのパッケージなのだから。


大きな生き物は、コンビニを出て車に乗り込むと、先ほどと同じように粗暴に私を掴んだ。
背中の、真ん中の辺りをまさぐられて、ぞわぞわした悪寒がした。
その瞬間。
これまで経験したことないくらいの激痛を感じた。
大きな生き物が、私を真ん中から裂いたのだ。


大きな生き物が、クチャクチャクチャクチャと米粒を潰していく。
私はのたうちまわる。
のたうちまわる体はないけれど、のたうちまわる。
大きな生き物は、クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャと米粒を頬張っている。
のたうちまわる。
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
のたうちまわる。
クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。
のたうちまわる。


そうして気付いた時には、真っ暗な中にいた。
真っ暗な中は、地獄のような恨みつらみとうめき声で溢れていた。
痛い、痛い、助けてくれ、どうして私が、なんで、苦しい、殺して。
私の気持ちを言い当てられているかのように、周りから声が聞こえる。
どうやらここは、コンビニのゴミ箱のようだった。
痛みにのたうちまわっている間に、私はここに捨てられたらしい。
ゴミ箱の中身がひとつの生命体であるかのように、みんな、私と同じだった。
みんな、私と同じように痛み、苦しみ、けれども、その想いは誰に聞き届けられることもなく、放置されていた。

そして、声は大きく、たくさんになっていく。
ゴミ収集車を経由して、ゴミ処理場に着いた時。
そこは恨みの海だった。


子供に壊されたぬいぐるみの、片方しかない目が怒りに燃えていた。
シュレッダーにかけられた紙たちが、苦しみにゆらゆらとざわついていた。
何の容器かも分からない何かの入れ物が、悲しみにカタカタと震えていた。


人間たちに捨てられた「私たち」が、上から上から降り積もってくる。
人間たちに捨てられた「私たち」は、次から次から燃え溶けていく。


私の人生はただ、誰かの中に残ることもなく
認識されることすらないままに消えようとしている。


誰にもこの痛みを知られることなく
誰にもこの絶望を知られることなく
誰の、何のためになったのかも分からないままに、死んでいく。


溶け落ちる最後まで、私は反芻していた。
あの大きな生き物の、ぞわぞわする手つきを。
クチャクチャクチャクチャと、嘲笑うようだった咀嚼音を。


生まれ変わったら
必ずあの大きな生き物に復讐する。




人間を許さない。




お前を許さない








咀嚼音が消えた瞬間、私は目が覚めた。


夢の中で最も恨んだ「人間」という存在に、私はなっていた。

人生で1番死にたい朝だった。







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