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今、改めて「獺祭」がおもしろい!ソーシャルグッドな酒蔵の仕掛け力

「おいしい日本酒教えてください」といわれると困ります。
一方「面白い日本酒蔵は?」と聞かれると、ここぞとばかりに紹介します。2021年の今、僕がおもしろいと感じるのは「獺祭」の旭酒造さんです。

日本酒界の革命児・獺祭とは?

獺祭とは、山口県にある「旭酒造」の地酒。もともとは小さな酒蔵でしたが(今も「山奥の小さな酒蔵」を自称)、「二割三分」という高精米、最高級山田錦使用という「日本酒の王道にフォーカスした戦略」で大ヒット。1990〜2020の約30年間で一躍大手メーカーと肩を並べるまでになりました。

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銀座、三越の1Fに直営ショップを構えています。写真はクリスマス前、ライオン象との並びが強い。

獺祭インパクトの90〜00年代

90年代、獺祭は前述の高級路線で大ヒット。アニメ「エヴァンゲリオン」でも登場するほどの知名度を得ました。

日本酒を飲み始める入り口に「獺祭」は非常にわかりやすく立っています。獺祭は「高級酒・高精米」に商品を絞ることで自身の存在をシンプルに表現(普通酒蔵はいろいろな商品つくる)。なので日本酒を知らないけれど外したくない時、まっさきに「獺祭」の存在があります。

また、旭酒造は「幻の酒ではなく、どこでも同じ獺祭が飲めるように」を目指しており、販路を拡大。なんなら近所の東急ストアとかで買えるのです。

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(獺祭ストアに飾られていた獺祭クリスマスツリー。ツリーというより獺祭という概念の塊にみえます)

「大手・大量生産」という呪縛

私が日本酒を好きなったのは2010年代前半。獺祭インパクトはまだありつつも、日本酒業界には「新政」をはじめとした「入手困難だけどおいしい一期一会の味」に注目が集まってきていました。

一方、獺祭は世界輸出に力を入れており、いかに「獺祭の味」を劣化させず届けるかというところに力をいれていました。

この「ここでしか飲めない地酒」と「どこでも飲める獺祭の味」という対比はとても興味深いのですが、日本酒にかぎらず嗜好品は、マニアックな方向に進むもの。私も「ここでしか飲めない」「微生物の神秘!」といった世界に惹かれるにつれて、近所のスーパーで手に入る獺祭は、徐々に飲まなくなってきました。一般化しすぎて、わざわざお金を使う「嗜好品」という存在から離れていったのだと思います。

「島耕作」で見方が変わった!

獺祭を再び手に取ったきっかけは2018年に西日本を襲った豪雨。旭酒造も甚大な被害を受け、一時停電などにより製造中の獺祭の温度管理(=味の調節)ができなくなり、「美味しいが、獺祭ブランドを守るためには通常の販売できない」という状況に陥りました。

この窮地を救ったのが、かねてより旭酒造と親交があった漫画家の弘兼憲史氏。ラベルに「島耕作」を描き、特別verの獺祭として販売することにしたのです。それも「最高級酒(数万円)から通常の大吟醸まで、どのタンクのお酒が入っているかわからないガチャ的な日本酒」として。さらに売り上げの一部は災害復興に寄与。

獺祭・島耕作は注文が相次ぎ、実に65万本が1、2日のうちに完売したそうです。

…すごい。島耕作もすごいのですが、「本来の獺祭ではないけど、超高級酒がでるかもしれないガチャで、普段より安い、そして支援につながる」「ブランド価値は下がらず、応援の機運が高まる」というところに感動しました。

この「島耕作」は特にエポックメイキングなできごとでしたが、知るほど獺祭の取り組み面白さが見えます。

ニューヨークに蔵を建設!

まずは海外展開。かねてより海外への輸出には力を入れていました(それも、輸出した先でどう品質が変わるかのチェックなど)が、ついにアメリカ・NYに自社の「酒蔵」を建設。アメリカ産の獺祭造りが動いているのです。(2021年に予定)

コラボがすごい!

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獺祭といえば、日本酒好きでなくても知られている知名度。その理由のひとつが「コラボ」。最近ではモスバーガーの「獺祭シェイク」(2020年12月)。ほかにも、「獺祭&堂島クリームショコラ」「獺祭ショコラ」「獺祭アイス」、さらには「獺祭 ANNA SUI」「榮太樓×獺祭のスイーツ」「十火×獺祭の煎餅」など、なんでもあり!

日本酒の「既存の基準」を捨てる!

日本酒の高級ラインといえば「純米大吟醸・大吟醸」。日本酒はざっくりいうと「純米」「純米吟醸・吟醸」「純米大吟醸・大吟醸」という精米歩合によるランク(特定名称)があり、「純米大吟醸」と名乗れるとやっぱり注目を集めるものです。ようするに「どれだけ贅沢なつくりか」という基準です。

獺祭は長くこの「純米大吟醸」で戦ってきましたが、さらなる最高級ライン「獺祭 磨き その先」をリリース。「精米歩合非公開」。これまで獺祭が優位性を保っていた既存の日本酒の枠組みではないところで最高級品を打ち出したのです。

つまりこれは、これまでの区分の賞などには出せないということ。完全に獺祭の世界で完結する価値観のお酒なのです。自社の価値を表現してきた「精米歩合による特定名称」の枠組みを自らとっぱらうその姿勢、かっこいいです。

ショーレースでは上位入賞

品質もすごいのです。通常、コンペティションなどは「最高の1本で勝負する」ため、規模は小さくても技術の高いこだわりの蔵に脚光が集まるもの。大手メーカーはそもそも「同じ味をたくさんつくる」ことに力を注いでいるので、方向性が違うのです。

それなのに、獺祭はSAKE COMPETITIONをはじめさまざまなショーレースで入賞(または金賞)しています。「幻のお酒」に、「成城石井で売っている獺祭」が勝ってしまうのです。

CSVもすごい

獺祭といえば最高の原料・山田錦へのこだわり。こちらもただ使うだけではなく、「最高を超える 山田錦プロジェクト」を実施。取引のある山田錦を審査し、入賞農家には賞金を贈与するほか、山田錦を高価で買い取るということをしているのです!

農家さんと共存し、ともに高め合っていくことが、自社の味の向上につながるという取組です。飲み手としては、そんな姿勢に好感を抱かずにはいられません。

(ちなみに取引農家さんの最高級ではない山田錦も買取、自社ストアなど一部取扱店で「等外酒」として販売しています)

生酛!!!?そっちもやる?

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そんな獺祭が、2020年12月に「生酛」をリリース。これ、大手の造りではなく「クラフト的な」魅力のある江戸時代の手法。自社の酒質向上の一環として、これまでの「勝ちパターン」ではないアプローチにも取り組んでいるのです。

獺祭生酛の秘密を、桜井社長に聞きました!インタビューはこちら

https://note.com/00kub0/n/n0e3ffb44d33d

そして、やっぱりおいしい!

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(実は獺祭って熱燗もいけます)

と、ここまで獺祭の魅力を力説しました。

柔軟かつ多彩、しかし目指す「味」の軸はひとつ。一貫した姿勢が醸成する「ブランド」はとにかくすごい。認知の段階(90〜00年代)で一度熱狂を生み出したのち、さらに好意を生み出すブランド力の強さは、ユニクロや無印、サイゼリヤとか、そんな存在とも重なってみえます。

そして、獺祭、改めて飲んでみるとすごく美味しいのです。なぜか「大手=粗悪」なイメージがあるのですが、全然おいしい。むしろこれが近所で手に入ることにあらためて感動します。

もし、「日本酒好き、だからこそ獺祭はちょっとなー」と思っているのであれば、今一度最新の獺祭を飲んでみてください。結構、進化していますよ。


もちろん、お酒を飲みます。