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「酒器サロンたびと」 酒器を愛で、日本酒を楽しむマニアックな世界へ(日曜限定)

器によってお酒の味が変わる、というのはよく聞きます。「ワイングラスでおいしい日本酒」、みたいに。しかし「酒器」の世界には、そのような「形状や材質による感じ方」とは別次元の楽しみがあるそうです。

「器」だけで日本酒が進む。

というほど器と日本酒に魅了された器マニアが開いた、器とお酒と本の空間「酒器サロン たびと」。器とお酒の魅力についていろいろ聞いてきました。

日曜日限定、ビル3階でひっそり営業

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JR三鷹駅徒歩5分。ビルの3階です。手書きのかわいい表札です。

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結構急な階段を3階まで登ります。

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入り口は紙の暖簾。ガサガサと持ち上げて下をくぐる。

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中は10畳ちょっと、お店にしては狭いスペースです。しかし壁面の棚にはたくさんの「酒器」が並んでいます。何の専門知識もない人間がのぞいていいのか、一瞬ひるみました。

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「ようこそいらっしゃいました」と、店主の平田健太郎さん。素人が質問してもやさしく教えてくれる、ソフトな物腰。安心しました。

酒器マニアが集めた「現代陶芸」の酒器が集まる

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「酒器サロン たびと」は「酒器」のためのサロン。備前、唐津、丹波の焼き物が揃います。

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お酒もスタンバイ。酒器をながめて、ちょっとお酒を交わしながら会話する場所なのだそう。右下に写るラジオから流れる番組がいい感じです。

「実は私、普段は書店の店長をしているんです」と平田さん。器好きが高じて、書店がお休みの日曜だけ営業しているのだとか。

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「たびと」という店名は、酒聖として知られる歌人・大伴旅人からきています。飾られているこの和歌(平田さん直筆)は万葉集にも収録されています。

(要約)なんかあっても、くよくよすんな、濁り酒飲もうよ。

という意味だそう。悩みには濁り酒。なんかわかります。さらりとした清酒より、どろっとした舌触りが、いろいろどうでもよくさせてくれそうです。

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(万葉集の本を手に)

「私はもともとお酒なしには生きていけないような人でして、若いころから日本酒や焼酎を飲んでいました。40歳を超えたころかな、体調を崩したこともあり暮らしを見直すことにしたんです。お酒を飲むにしてもちゃんとした酒器で飲んでみようって。まだ5年くらいですね」

酒器って、なにがどう違うの?

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全く素人の私には、最低でも数千円以上(数万以上がザラ)する作家ものの酒器は未知の世界。味が変わるのか?形状が違うから?などと不思議だったのですが、どうやらそんな次元の話じゃないみたいです。

作家もの酒器のここが好き①ひとつひとつ表情が違う

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「この器、いいですよね。この模様、表情、ひとつひとつ違います。作家さんによって異なりますし、焼く窯の中の手前か奥かでも、違う」

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「器好きは裏側の高台もみる。ほら、同じ作家さんだとわかりますよね。私たちはここもよく見ます」

ここまでは想定の範囲内でした。そりゃそうでしょう、と。しかし

作家もの酒器のここが好き②使うほど「育つ」

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(釉薬を使わない素焼きの器は変化が分かりやすいそう)

「陶器は、使うほどどんどん染みて色がかわります。これが本当におもしろい。それに、みた目だけじゃなくて『味』も」

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え、味もですか?

「ええ、それもじわじわではなく、ある日急に、美味しくなります。長年蓄積してきたものが急に表に出るのでしょうか。

よく使い込んだ器はね、ねっとりというか、艶っぽいんですよ。20年、30年育ったものは、いいですよ。器業界の人はよく『トロトロになる』といいますね」

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トロトロになる!?

私も、俄然作家ものの器がほしくなりました。酒器をトロトロにしてみたい。

「ま、実際はただの劣化かもしれませんがね(笑)。なにに価値を感じるかという骨董の見立て、ですよ。では、実際にお酒を注いでみましょうか」

作家もの酒器のここが好き③見込み、を愛でる

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「酒器の中、注ぐところ、ここを見込みといいます。お酒を注ぐと、表情がかわるんです。これをみるのが楽しいのですよ」

液体を注ぐための「器」。だけど器に液体を「注ぐということ」が楽しみ……。僕の中で器の意味そのものが揺らいできました。

お酒を注ぐと、器に魂が宿った!

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お〜!と、思わず声がでました。

器にお酒が入ると、確かに表情がかわります。濡れて色がパーッと明るくなり、液体のゆらめきにあわせてキラキラと煌きます。器の見込みが、何かの「画面」のように思えてきました。「見込み」という言葉すら知らなかったのに。

器、すごいかもしれない。

ここから、平田さんが作家の酒器の「見込み」を愛でて、お酒を味わう様子をご紹介します。

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(見込みの素晴らしさに思わず笑顔)

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(うまい!)

めちゃくちゃ美味しそうに飲まれます。僕もいただきます。

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(お酒はいづみ橋。常温がいい)

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白地で、幅が広い器をチョイス。大きな「見込み」にお酒がはいり、僕だけに見せてくれる「顔」が生まれます。少しゆらしたりして変化を楽しみ。飲む。

……いい! これまで僕が使っていた「美味しい」とはジャンルが違う「おいしい」を感じます。これは楽しい。

器が楽しければ、それだけで酒がすすむ!

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「平田さん、器だけで飲めますよね?」と聞いてみると、「ええ!酒器が楽しければつまみはいらないです」と笑顔。

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つまみは器と、あと器の本です。「目の眼」こういう専門誌があるんですね。

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ここに載っているこの人から器を購入して〜など、そういった話をしながら杯を重ねます。スイスイすすみます。

「作家さんが手間隙かけたものって、雑には扱えないですよね。お酒も大切に選びたくなるし、ガブ飲みもできなくなる」

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「この世界は本当に広いですよ。ここで扱うのは現代陶芸ですが、まず骨董の世界がある。さらに器のルーツを探るとエジプトとかオリエントとか世界につながる。器は一生楽しめる遊びですよ

20年後の「トロトロ」を目指して

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使わせていただいた、唐津焼の酒器を購入しました。作者は鳥巣窯の岸田匡啓さん。同い年でした。

平田さん、本日はありがとうございました。
「新しいお酒の楽しみ」の入り口をすこし覗かせていただきました。

20年かけてトロトロにしていきます!

(店舗情報)
酒器サロン たびと

https://twitter.com/b68LsDqiF6X3vO0?s=20

(今回購入した作家・岸田さんのページ)


もちろん、お酒を飲みます。