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ネタバレあり 自意識碇シンジくん『シン・エヴァ』観てきましたスペシャル

シン・エヴァンゲリオン劇場版
観た。

俺は碇シンジくんなんですよね〜。

前から彼とは気が合うなあと思っていて、優しくて、臆病で、地獄のような優柔不断さ、すぐ音楽に閉じこもるし、友達とも異性ともあまり双方向的に接することができない。でも、それはそれで状況に立ち向かっていくし、思い切りの悪さから絶望的な失敗もするけど、ぼんやりと再起する。もちろん全然違うところもあって、シンジくんは家族が複雑だし、生活力があって、ピアノが弾ける。エヴァへの適性というオンリーワンの特技によって世界の主役たり得ている。でも同様に、俺は俺の人生の主人公であって、人生の決断に困難がある時、俺はシンジくんだったんですよ。

前作の『Q』までのエヴァは、結果論的には「頑張ったけどダメ」がテーマの作品だったんじゃないかなーと思う。頑張ったけどダメだったという物語には、頑張ったけどダメだった人を慰める力がある。そこにしか生じない、高い文学性や教訓が宿る。でもエヴァに限って言えば、旧作品群によって、世の中にすごく大きなマイナスのインパクトを残したのは間違いない。頑張るのを諦めて、対話を放棄する病理と相性がよかった。そのやり直しの物語が、今作で遂に完結する。今までの作品観がひっくり返ることは大いにあり得る。でもわからない。何か全く新しいタイプの冷や水を浴びせてくるかもしれない。旧劇場版のラストを見て、それをなんとか噛み砕いて消化して、呪いを解こうとしてきた昔のファン達の歴史を知っている。でも当時のファンには、劇場を出てからどんなに解釈を重ねても、どんなに実生活の努力を重ねても、作品の中で壊れた関係を作品の中で修復するチャンスはなかった。もちろん当時とは何もかも状況が違う。今度こそ本当のハッピーエンドがあるのか、無いのか。それは「頑張ったけどダメ」の未来を現実に生きるシンジくんこと俺にとって、とても重大な問題だった。

今回、コロナで公開が伸びに伸びている間、エヴァのことは半分忘れるくらいまで意識しないようにしていて、公開が3月8日の月曜に決まった時も、チケット予約がいつ始まるのかなんて調べなかった。だけど、TLにちらほらと「予約決めました」「初日行ってきます」みたいに言う人たちが現れて、こうなると途端に、この人たちが初日終わったあと『庵野監督……!』とか『見れてよかった。ありがとう🙏』とか書いたのが目に入ろうものなら、一番重要な”ハッピーエンドか、どうか”がわかっちゃうんじゃないか???と思ったら居ても立ってもいられなくなって、とりあえずTwitterは「エヴァ」とか「庵野」とか、30ワードくらいミュートしたけど、全然「エヴァ」って入ってるツイートも流れてくるし、なんなら『ウー!!』とかだけでも全然ネタバレだし、防御不能じゃない??

耐えられないよ!!!

と思って、夜3時にTOHOシネマのサイトと格闘して、金曜朝一のチケットを取ったのだった。

IMAXの最後列の、すごくいい席だった。買った飲み物は、一口も飲まなかった。

結論から言うと、シンジくんは変わった。それはもう劇的に、人が変わったようになった。シンジくんは、絶望の中で、周りの人達の優しさに涙し、綾波に名前を付け、アスカの謎かけに正答し、そこから先はまるでジョースター家の血統だったみたいに、全てのミッションと対話を迷いなく遂行した。「自分は辛くても大丈夫だと思う、みんなを助けたい」と言って。そして、好きだった人達を見送って、新しく知り合った女の子と手を繋いで、街に走り出していった。

TOHO新宿を出て、30分くらい映画館の周りをうろうろして、急に号泣しそうになったけど、それも変だなと思って、やめた。

映画体験としては素晴らしかった。ちゃんとオチがついた。シンジくん、立派になったな〜〜と思った。だけど、同時に、なんだかスポーツ選手のインタビューみたいな、進研ゼミみたいな、心を決めて頑張れば夢は叶う!新しく彼女もできる!みたいな話だったな……とも思った。シンジくんが覚悟を決めて、運命を変えた。都合よく巻き戻ったものと、不可逆的に戻らなかったものがあって、そこから自分の意志で立ち直った。本当に良かったよ。それがこんなにモヤモヤするなんて……。

でもストーリーの側の理屈もわかる。シンジくんは子供のキャラクターで、未来が開けたエンディングの方が良いに決まっている。エヴァは国民的な大作アニメで、大量のお金と人員と時間がかかっていて、セカイ系の清算をする責任と、今の沢山の社会問題に答えを出す責任を背負っている。視聴者は『破』や『シン・ゴジラ』みたいなカタルシスを求めている。ある程度ストレートなハッピーエンドが一番相応しいんだと思う。

それに、物語後半でシンジくんが起こしたようなブレイクスルーは、俺の人生にも、途切れ途切れに、きちんとあった。覚悟を決めたり、誰かにきちんと想いを伝えたり、伝えられたりする瞬間があった。高田馬場のロータリーで「ここにいてもいいんだ」と思って、笑ったことがあった。それらは俺にとって本当に特別な経験だったけど、全体として見たら旧作からQまでのシンジくんのようにずっとうじうじしていたし、突然魔法みたいに人生が前向きになることもなかった。ショックなこともあったけど、それはただのショックで、それがスイッチになって、本当に勇気のある自分が動きだしたりもしなかった。だからこそ、覚悟や答え合わせが素晴らしい体験だったんだと思う。

寂しいね。全然「ありがとう」なんて気分じゃないよ。でもうじうじしてもいられないんだよね。対話は気合いと勇気だからさ、全部わかってるよ。ちょっとずつ実践してもいる。それでも思い切りよくなんかなれないよ。もう30代だし、色んな時間切れもある。俺にも俺の物語が必要で、救いが必要で、それは自分で獲得するしかない。

神木隆之介になれないかもと思うと、シンジくんが行ってしまったと思うと寂しいよ。だけど、明日も程々に自分を律して、できることを少しずつ、前向きに……。





……






(なお今回の日記は、緒方恵美ボイスで脳内再生しながら、一人称を「僕」に変えていただくと、よりウザくなり、さらに楽しむことができます。)






……








余談だけど、劇場から出た時に最初に見たのがこれだった。

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「モテるって、楽しい。」

「胸の大きな、良い女。」

クソッ……神木隆之介め……




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