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NFT市場が抱える課題と解決に向けた世界の動き

NFT(Non-Fungible-Token)を代表する規格であるERC-721が提案されたのは2018年1月24日。2年半後の現在、NFTは世界中に大きなパラダイムシフトを起こし始めています。

Dolce&Gabbana、GUCCI、Louis Vuittonなどのファッションブランドが参入、ShopifyのNFT機能追加の発表。日本でも、LINE、メルカリ、ソフトバンクなど、ITの巨人達が次々とNFT領域への事業・投資を通して参入を始めています。

また、コンテンツを保有する伝統的な企業や個人だけでなく、世界中のEthereum長者を中心とし、Crypto PunksやBored Ape Yacht ClubなどのNFTを起点とした新たなコミュニティが形成されています。

NFTマーケットプレイスの筆頭、Openseaの取引高は2021年8月の1ヶ月間で1700億円相当にも昇り、盛んに取引が行われていました。

NFTの現状とバブルの収束

現在、NFTマーケットプレイスの現状は、Openseaがトップ、Axie Infinityが続いており、約5000億円の月間取引高が上位3位によって占められています。Lootなど注目を集めるプロジェクトが次々と立ち上がっております。

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NFTは「一意性のあるデジタルデータ」「ロイヤリティ(発行元に還元される収益)の自動分配」という特徴により注目を集め、収益化の方法が確立されていなかったデジタルアーティストを切り口に、2021年から世界中でブームとなりました。

同時に、Crypto Punksをはじめとした「コレクティブス」というカテゴリが台頭しました。コレクティブスはNFT保有者間のコミュニティ形成を促し、HashMaskからMaskDAOが形成されるなど、NFT自体がコアなクリプトコミュニティへのアクセスチケットのように利用されることも増加しました。

しかし、2021年8月に起きたNFTの価格高騰は2020年末から2021年3月までの暗号資産の価格高騰の恩恵を受けたEthereum長者が先導。現行のNFTの構造的な問題を無視した上で、持続的ではない市場の過熱が起きました。2021年9月時点で、その過熱はようやく収束に向かっています。

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現在のNFT市場の問題点

NFTはいきなり生まれた魔法の技術ではなく、およそ2年半かけて世界中のハッカーとイノベーターの絶え間ない努力が生み出し育ててきた、革新的な概念です。

今回のNFTバブルは技術的なブレイクスルーを契機にしたものではなく、明らかに投機主導の市場形成でありました。投機主導の市場形成は悪ではなく、認知拡大と業界への人材流入に大きな貢献をしますが、冷める時も早いことが特徴です。大きく分けて、現在のNFT市場は3つの問題があると言えます。


ロイヤリティの問題ー「プラットフォーム間のロイヤリティ」

ひとつ目はロイヤリティの問題です。ClubhouseやTwitterでNFTを語る方は「NFTはこれまでのデジタルデータと異なり、収益の分配が自動でなされるからアーティストやコンテンツホルダーにとって革新的な出来事だ」とする主張がされます。

しかし、実態としてはプラットフォーム間でのロイヤリティの互換性がありません。例えば、Openseaで発行されたNFTがRaribleやSuperrareで取引される際、Openseaで設定したロイヤリティは無効となります。よって、ロイヤリティが発生するのは特定のプラットフォーム内に限定されているのが現状です。

NFTビジネスを展開する事業者や、それに乗ってNFTを喧伝する個人がロイヤリティをNFTのメリットとして謳っているのは、現時点では過剰な宣伝であり、現行のプラットフォームのロイヤリティに関して言えば、NFTである必要性がありません。元来、NFTを含むブロックチェーンの魅力はパーミッションレスな取引が可能な部分にあります。現在のNFTは、発行者が副次的な経済的恩恵を受けられる状態にはなっていない、ということを多くの方にはっきりと認知していただく必要があります。


Gas代の問題ー「Ethereum Layer1の手数料高騰」

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次に、Gas代の高騰が挙げられます。NFTの発行・送信など、ブロックチェーン上の情報を更新する際、GAS代(ネットワーク手数料)を支払う必要があります。GAS代を安くするために様々な解決策がEthereumコミュニティで提案され、開発を進める動きがありますが、NFTの主戦場はEthereum Layer1 mainnetです。(Openseaを経由する取引では、Ethereumに払うGAS代だけで24時間で2億円を記録しています)

NFT初心者がはじめに降り立つのはGAS代が高騰しやすいEthereum Layer1であるため、1~10,000円の価格帯のNFTは発行する時点で損をすることがほとんどです。また、購入する層もEthereum長者であることが多いため、一攫千金を夢見てプロジェクトを立ち上げる人がいたとしても、Ethereum長者のインナーサークルで話題になり、かつ価値が認められないとバブルの恩恵を得ることができませんでした。

世の中にある素晴らしいコンテンツやIPも全てが高価格帯であるわけではないため、Ethereum長者以外へのマーケティングが実質的にできなくなっています。また、GAS代を支払うために暗号資産が必要というだけでも、初心者が気軽にNFTを保有する体験の妨げになっています。


開発コストの問題ー「Solidityを書けるエンジニアが少ない」

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最後に、開発コストの問題です。NFTの主戦場はEthereumと言いましたが、NFTサービスを作る場合、Solidityを書く必要があります。フロントエンド、バックエンド、ブロックチェーン全てを考慮したアーキテクチャを設計する必要があるため、経験のない多くのエンジニアに対して大きな壁を築いています。

また、事業者がNFTサービスを作ろうと構想や事業計画を立てても、希少価値の高いブロックチェーンエンジニアを採用することができません。世界的にそもそも人数が少なく、多くのブロックチェーンベンチャーはブロックチェーンエンジニアの不足を嘆いています。

さらに、世間がNFTと騒いでいる時には、ブロックチェーンエンジニアは全く別のプロジェクトやブロックチェーンの中でも最先端の技術に興味を示している場合が多いため、採用は難を極めます。


NFT市場が抱える課題解決への世界的な動き

ロイヤリティの問題解決ーEIP-2981
現在、NFT市場が抱える課題解決に向けて、世界の様々なプロジェクトが同時進行で進んでいます。

ロイヤリティを解決する共通規格として「EIP-2981」が提案されています。KnownOrigin の創設者をはじめとして提案されたものですが、要約すると「プラットフォームを横断してもロイヤリティが発生するようにコードを書くにはこう書くといいのではないか」という提案です。

これを様々なNFTサービス提供者が適用することで、現在抱える「プラットフォームを横断して取引をするとロイヤリティが発生しない」という問題を直接的に解決します。


GAS代の問題ーLayer2, サイドチェーン
次にGAS代です。Ethereum Layer1は、DeFiとNFTの発達により、高級なブロックチェーンとなりました。GAS代の課題は、Layer2やサイドチェーンにより解決の方向に向かっています。

Optimism, ArbitrumなどのLayer2、Polygon等のサイドチェーンの技術の台頭により、NFTが一般に流通するきっかけになります。


開発コストの問題ーNFTの開発ツール

次に、開発コストの課題です。NFTサービスを開発しようとすると、Webの技術とブロックチェーンの技術、どちらも必要になります。学習コストを考えると、全てのエンジニアがNFTサービスを開発できるようになるまでに多大な時間がかかります。

これを解決するプロダクトが、最近多く出てきています。The graph、Alchemy、Infuraなど、開発者のためのツールがどんどん充実しはじめており、NFTの生産体制を充実させるためのツールが整いはじめています。

弊社もNFTの発行・償却・売買・分配収益の設定などを数行のコードを書くだけで実装できるHokusai APIを開発しており、エンジニアのNFTサービスの開発コストを下げるサービスを開発しています。


NFTは今後、さらに一般に普及するためには様々な障壁を乗り越える必要がありますが、それに対する解決策が出てきており、数年以内にはアクセスしやすい土壌が完成すると考えています。

NFT界のStripeを目指すHokusai APIは、バックエンドエンジニアを募集しています

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