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露の侵攻で欧州〝大転換〟 日本に必要な不動の決意と行動|【WEDGE OPINION】

2月24日、戦争が始まった。事態はウクライナとロシアに限らず、日本や国際社会も当事者となった。欧州は劇的に安全保障戦略を転換し、制裁強化を主導している。その中で日本は何をすべきか。

文・鶴岡路人(Michito Tsuruoka)
慶應義塾大学総合政策学部准教授
1975年生まれ。98年慶應義塾大学法学部を卒業。英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。防衛省防衛研究所主任研究官などを経て現職。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。著書に『EU離脱』(ちくま新書)

 ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が2022年2月24日、ついに始まってしまった。本稿を執筆している3月8日時点でも戦況は刻一刻と変化し、停戦協議の行方も不透明である。そうした中で、この戦争は、もはや「ロシアVSウクライナ」という枠では捉えられなくなっている。対立の構図は、「国際社会VSプーチン」になりつつある。日本も完全に当事者だ。

 この戦争により最も劇的に変化したのはドイツだろう。「2022年2月24日は、われわれの大陸の歴史における分水嶺になった」。独ショルツ首相は、2月27日の日曜日に開催した連邦議会の特別会合でこう宣言した。

 21年末にかけてウクライナ国境地帯へのロシア軍の集結により危機が深まってからのドイツの動きは、鈍かったというのが共通理解だった。ロシアとの天然ガスパイプラインである「ノルドストリーム2」を対露制裁の対象にすることに抵抗したほか、ウクライナ国軍への武器供与に関しても反対姿勢を貫いていた。

 北大西洋条約機構(NATO)内での批判が強まると、各国が対戦車砲や対空砲の供与を急ぐ中で、ドイツはヘルメット5000個の供与を決定して冷笑されるありさまだった。こうしたことから、「ドイツは信頼に足るパートナーなのだろうか」との議論が米国でも高まった。

 しかし、ロシアがウクライナ東部ドンバス地域の2つの「人民共和国」の独立承認に踏み切った2月21日の翌日に、ショルツ首相は、「ノルドストリーム2」の承認手続きを停止すると発表した。これは予想外の素早い動きであり、驚きをもって受け止められた。

 さらに、ウクライナ国軍への武器供与においても政策を大幅に転換し、対戦車砲などの供与を決定した。そして上述の議会演説で表明されたものの一つが、国防予算の大幅増額だった。不足していた装備品調達のための1000億ユーロ(約13兆円)の基金を創設するほか、今後、対国内総生産(GDP)比2%以上の国防予算を確保すると表明したのである。NATOの統計によれば、21年は1.53%(暫定値)だったため、最低でも3割以上の増額になる。

 これらの大転換が、伝統的にソ連・ロシアとの関係を重視するとともに、安全保障面ではより抑制的な姿勢をとってきた社会民主党が率い、緑の党を擁する連立政権が決定したことは、事の重大さを示している。

 その背景に存在したのは、ドイツにとって地続きであるウクライナの地において、むき出しの力による侵攻が起きたことの衝撃だった。「怒り」と言ってもよい。加えてショルツ首相は、直前までモスクワを訪問してプーチン大統領と会談するなど、仲介外交にも奔走していた。そうした努力が全く顧みられないような展開にも、憤りと無力感があったのだろう。

 その結果が、ドイツの外交・安全保障政策における、おそらく冷戦後最大となる大転換だった。欧州最大の国が〝目覚めた〟のである。

 ドイツ以外にも欧州の変化が止まらない。これまでNATOに加盟せず、「中立」を貫いてきたフィンランドとスウェーデンは、……

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