「中世化」する左派運動と「中世化」する現代社会

先日、藤田孝典さんという反貧困アクティビストの方とSNS上でちょっとしたやり取りがあった。ほんの数往復のやり取りだが、争点は「反差別運動の闘争手段として『キャンセル』のような私刑を選択することの是非」であったように思う。

「我々の私刑が怖ければ我々に従え」というメッセージ、それ本気で発信してるんですか？タリバンと全く同じことしてますよ藤田さん。司法には正統性が要る。 https://t.co/CzKfiBtabp

— 小山晃弘（狂） (@akihiro_koyama) August 17, 2021

我々に従え、ではなく、恐怖を心に留めておくことで、新しい規範が確立します。こうやってはいけないことなのだ、という規範です。規範ができれば、人々の行動原理に変化も起きます。 https://t.co/VI0fZbKLUo

— 藤田孝典 (@fujitatakanori) August 17, 2021

規範は法によって敷かれます。法は民主選挙を経た代議士たちと立法府によって作られます。あなたが勝手に「新しい規範」を作ることは許されない。 https://t.co/LLZtRnSNEU

— 小山晃弘（狂） (@akihiro_koyama) August 17, 2021

我々が主張することで立法府も動きますよ。いつでも立法府は後付けですから。欧州のように罰則規定付きで、ヘイトクライム規制法など差別禁止法制を整備していきましょう。
しかし、その議論は後です。今はきちんと差別に社会が向き合うこと。それでしか法整備も進まない。 https://t.co/ODvoIbsOfn

— 藤田孝典 (@fujitatakanori) August 17, 2021

「憎悪扇動は許せない。憎悪扇動を取り締まる法律を作ろう」なら社会活動の一環ですが、「憎悪扇動は許せない。憎悪扇動する人間は法を超えた私刑に処そう」は社会活動ではなくテロルです。テロに頼って社会を動かせば必ず反動が生まれます。それは遠からず運動そのものを破壊してしまう。 https://t.co/cZCvTDYnhC

— 小山晃弘（狂） (@akihiro_koyama) August 17, 2021

飛躍しすぎ。私刑、暴力を肯定していないでしょう。小山さんも批判、抗議の必要性は自覚されているでしょ。正当な批判、抗議を抑圧する言説を流布しないでください。 https://t.co/EsxTOSJKDo

— 藤田孝典 (@fujitatakanori) August 17, 2021

飛躍ではありません。正当な批判や抗議と、被疑者に抗弁する機会さえ許さない「キャンセル」は違います。藤田さんや渡辺さんが傾倒しつつあったのは「キャンセル」です。自分は藤田さんの口を塞ぐことを望みませんでしたが、藤田さんたちはメンタリストの口を塞ぐことを欲望しました。それは暴力です。 https://t.co/ka6tj5rmCq

— 小山晃弘（狂） (@akihiro_koyama) August 17, 2021

「キャンセル」「不買運動」も正当な弱者側の批判、抗議手法です。強大な権力との闘いの中で、運動側が勝ち得た手法です。それを抑圧する行為は悪質で、強者側、加害者側の擁護になります。すでに差別擁護者になっていますので、これ以上、差別扇動に加担しないでください。 https://t.co/vbAnjWwj2j

— 藤田孝典 (@fujitatakanori) August 17, 2021

もちろんテロルを闘争形態として選択することはあり得ます。圧倒的に不利な情勢ならそうすべきでしょう。でもあなたたちは大学の教壇に立ち、社会活動家として広範な支持を得て、堂々と社会に屹立しているでしょう。なぜそんな立場の人間がテロルという安易な道を選択しようとするのですか。 https://t.co/U34uvYz8gW

— 小山晃弘（狂） (@akihiro_koyama) August 17, 2021

おおむね、互いに敬意を抱きつつの意見交換に終始したのではないかと自分は思っている。1年以上前に書いた記事でも少し触れたが、自分は藤田さんに個人的かつ一方的な好意を抱いており、彼の仕事の多くに敬意を払っている。もちろん多くの点で見解の相違があり、共に仕事をすることはできないだろう。だが好意と思想は別物だ。

さて、以上のやり取りを見てもらえばわかるように

「目的のためならば私刑は許容される」

というのが現代における左派のコンセンサスであるように思う。それは藤田氏の言うように「弱者が強者と戦う手段」として正当化されている。「強大な権力と戦うためには多少のダーティーな手段は許容される」というロジックが流布した結果なのだろう。

特に反差別問題についてはゼロ・トレランス（不寛容）な方法で取り組むべきだとする意見が現在左派の中で急速に多数派を占めつつある。法に定められた処罰に依らず、公職から追放し、職業を奪い、メディアから追放し、公的存在としてのその人を消滅させる。そのような運動手段を著名な社会活動家や大学教員が真顔で主張しているのが現代という時代なのだ。

厳しすぎると言われるかもしれませんが、芸能人であれ、教員、議員であれ、社会に影響力を持つ者が人を死に追いやりかねない発言をした場合は、一発アウトで職を追われるという前例を積み重ねないと、社会は劣化する一方だと私は考えます。将来その人が生活に困窮するのであれば、もちろん支援します。

— 稲葉剛 (@inabatsuyoshi) August 15, 2021

しかし言うまでもないことだが、「近代」という観点からすれば彼らの主張は狂気に等しいと言える。彼らは「新しい時代」を築いていると思っているのだろうが、彼らが向かう先はよく知られた中世の暗黒だ。

本稿では私刑を濫用する社会運動が向かう暗い道のりについて綴っていこうと思う。