noji 野地秩嘉

『キャンティ物語』が最初の本です。それまではまったくの素人で文章はおろか日記も書いたこ…

noji 野地秩嘉

『キャンティ物語』が最初の本です。それまではまったくの素人で文章はおろか日記も書いたことありません。しかし、それから30年近く本を書いて生活しています。最近では『トヨタ物語』『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』『カーレース入門』(横山剣さんと共著)と車の本ばかりで…。

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  • 『トヨタ物語』続編連載にあたって

    7年以上の単独取材を通して、トヨタ自動車の創業以来の歩みと「強さの本質」に迫った『トヨタ物語』刊行から約3年。続編となる『トヨタ物語―ウーブン・シティへの道』https://note.com/tsnoji/m/ma0483e8ff0a0 の連載を始める。まずは本編スタートの前に、新たな連載を書くにあたっての経緯や前作の概要などを記しておきたい。

最近の記事

トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第46回(最終回) ジャスト・イン・タイムの未来

■自動車保険も「つながる」 自動車保険もまたコネクティッドされている。  グラブとトヨタの協業にはもう1社、コネクティッドから生まれたサービスを提供している。それがあいおいニッセイ同和損保だ。同社のシンガポールにある現地法人はコネクティッドカー専門の自動車保険を開発し、販売している。  現地で同社のマネージングディレクターをやっている建守進はトヨタのe-TOYOTA部に出向した経験がある。トヨタ生産方式について一から学び、トヨタのカイゼンチームと一緒に働いた。その経験があ

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    • トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第45回 シンガポールで育てる

      ■コネクティッドとシェアリングの融合 eパレットはコネクティッドと自動運転、EVが融合したものだ。  一方、トヨタにはそれよりも2年近く先んじて実現しているコネクティッドとシェアリングの融合がある。  シンガポールでトヨタとグラブが協業しているビジネスがそれである。  グラブはマレーシアで起業し、東南アジア一帯でライドシェアや食事の配達などのサービスを行うアプリの運営会社。コロナ禍では相乗りサービスのGrabHitchこそやめているものの、配送サービスGrabExpre

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      • トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第44回 そして、eパレットへ

        ■オリンピックを支える トヨタとトヨタコネクティッドの協業が結実したモビリティがeパレットだ。  コネクティッド、EV、自動運転、シェアリングとCASEのすべてを具現化したモビリティで、初のお目見えは豊田章男が「トヨタはモビリティサービスになる」とスピーチした2018年1月のCES会場だった。  eパレットはバスのようなボディの四隅にタイヤがついた箱型の乗り物で、自動運転のEVである。  2021年の東京オリンピックでは豊洲にある選手村のなかを24時間走り、選手たちをピ

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        • トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第43回 最先端の製販一体とは

          ■伊藤誠のコネクティッド 現在、トヨタコネクティッドの常務を務めている伊藤誠が友山茂樹に請われて入社したのは2001年の冬のことだった。    伊藤は企画会社で働いていたのだが、友山からさまざまな仕事を言いつけられているうちにスカウトされたのである。  「伊藤、うちに来いよ」  「友山さん、でも、オレ、髪の毛、変えないですよ」  当時、伊藤は髪の毛を金髪に染めて、長くのばしていた。そんな髪の毛をした人間がお堅いトヨタの関係会社に入社できるはずがないと伊藤は思い込んでいた

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        • 『トヨタ物語』続編連載にあたって
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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第42回 歯科口腔外科のカイゼン

          ■「ありがとう」が参加意欲を高める  トヨタ記念病院で現実的に成果を出しているカイゼンがある。歯科口腔外科と待合場所のそれだ。歯科口腔外科では待ち時間が短くなり、診察時間が増えた。病院の待合室のカイゼンでは滞在時間が劇的に減った。  患者にとって、病院で嫌なことの筆頭は待たされることだろう。コロナ禍では病院に行くこと自体、気がすすまないのに、そのうえ密に近い待合室で長時間、待機することは耐えられない。  トヨタ記念病院ではコロナ禍の以前から着実に具体的な取り組みをしていた

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第41回 病院のカイゼン

          ■できることは対応と対処 トヨタのカイゼンは生産現場から始まり、世界各国の生産現場、協力会社、販売店と広がり、物流から、開発、経理、広報といったセクションにも導入されていった。そして、関連施設にもいきわたるようになり、食堂に続いて、トヨタは病院でもカイゼンをしている。  すべての職場にカイゼンと原価低減が普及しているのだけれど、忘れてはならないことは将来予測に重きを置いていないことだ。  トヨタ生産方式の原則は「将来予測が100パーセント当たることはない」というものだ。ど

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第40回 迷走からテレマティクスへ

          ■人とつながるサービス 迷走の後、結局、コンビニの情報端末事業は始まってから5年後の2006年に大手システム会社に売却した。  社名はガズーメディアサービスからデジタルメディアサービス(2003年)、トヨタメディアサービス(2008年)と変わり、2017年にはトヨタコネクティッドになっている。  その間、彼らが進めたのはテレマティクスサービス、つまり、車載通信器を装備した車に必要な情報やサービスを提供するビジネスだ。車載器もソフトもすべて開発は自前である。

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第39回 迷走の中の模索

          ■コンビニへ ガズーメディアサービスの資本金は6億円。この時にマイクロソフトとセールスフォースドットコムが出資している。トヨタは今、ソフトバンク、NTT、アメリカの空飛ぶモビリティ開発会社、ジョリー・アビエイションなど、さまざまな業種の企業と提携するようになったが、最初の事例はマイクロソフトとセールスフォースドットコムだった。  2001年、「トヨタ自動車株式会社公式サイト」の運用が開始される。トヨタだけでなく、日本の大企業がホームページを作り始めたのがこの時期になる。これ

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第38回 危機感から迷走へ

          ■販売カイゼンから生まれたチーム  トヨタコネクティッドという会社がある。テレマティクスサービスを行っている会社で、創業社長は豊田章男。二代目が友山茂樹で、現在は山本圭司だ。社員のなかにはトヨタから出向している人間もいるけれど、大半はトヨタコネクティッドで採用した人間である。同社はトヨタだけでなく、マイクロソフト、セールスフォースドットコムとの合弁でもある。製造業ではなく、ITを駆使したサービス業である。そのせいか、社員もごつい感じではなく、愛想がよく、しかも腰が低い。

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第38回 危機感から…

          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第37回 停滞とは何か

          ■カイゼンの元は調査と分析 生産現場のラインで滞留が出ないようにすることをトヨタでは「整流化」と呼ぶ。  一方、食堂で並んだ列に渋滞が出ないようにすることもまた整流化だ。ご飯やおかずを取る列を1本にせず、丼、メインといった複数の列を作った、くふうもまた整流化のひとつだ。  こうしたくふうを考えつくにはまず状態を調べ、原因を追究する作業がいる。トヨタ生協の夏目英司、宇井和義は「時間をかけました。カイゼンには着手してから45日かかりました」と言う。  「流れをスムーズにする

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第37回 停滞とは何…

          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第36回 食堂のカイゼン

          ■利用者は毎日6万5000人 トヨタの国内従業員数はグループを合わせて約37万人。従業員食堂の数だけで全国で107もある。毎日、食堂を利用する人数は約6万5000人。食堂のひとつ、本社工場で炊く米の量(1日)は約8000人分だ。  そして、ご飯を作る側のスタッフ総数は1800人。ちなみに餃子の王将チェーンの店舗数は737店で、従業員数は2200名。トヨタの従業員食堂は大手外食チェーンとほぼ変わらない規模だ。ただし、外食チェーンの店舗よりも一店当たりの規模が大きいこと、さらに

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第35回 池渕浩介の記憶

          ■トヨタ生産方式は完成されていた ――僕が入る前、昭和25年(1950年)から30年の間に大野(耐一)さんはずいぶんと力を入れて、トヨタ生産方式を導入したんです。最初は機械工場を中心に猛烈にやった。昭和27年に役員になって全工場を見るようになってから、塗装から車体、組み立て工場まで、うまくつなげるようにした。僕らが入った時には本社工場の流れは全部できてました。  ベルトコンベアだけではなく、上から吊り下げるチェーンコンベアやキャタビラコンベアを駆使して、大型トラックやランド

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第34回 最高の生産現場

          ■できるのは考えることだけ それにしても、その頃の生産現場はどういった様子だったのだろうか。 人がいない、高性能のマシンもない、カネもない。できるのは考えることだけだ。(トヨタ生産方式を生んだ)豊田喜一郎が社長を辞任した後、(トヨタ生産方式を体系化した)大野耐一は毎日、何かを考え、現場をカイゼンしたのだろう。作業者たちもまた働いた。職人気質の熟練工は人員整理の対象になっていたから、若い作業者たちが先頭になって働いた。  わたしは長い間、トヨタ生産方式の現場を見てきた。だが、

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第33回 大増産、4つの理由

          ■ないないづくしの中で 戦後、人が増えていない6年間の間に、トヨタは大増産している。1950年の生産台数は1万1706台で、6年後のそれは4万6417台。生産台数は4倍以上だ。人も増えず、機械を一新したわけではないのに、短期間で生産台数が激増した。  果たして、そんなことがありうるのだろうか。  「労働強化して、24時間、働かせたのではないか」  そう思う人もいるかもしれないが、それも違う。争議が終わったばかりで、組合の力は強かった。それに6年もの長期間、年中無休の労働

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第32回 「大増産の6年」の謎

          ■「あの時」と同じだ 物流カイゼンの現場を見ていて、「ドライバーを増やせない状況、つまり、人手を増やそうと思っても簡単にはできない状況は、あの時とまったく同じだ」と直感した。  あの時とは戦後の一時期であり、人手を増やせない危機的な状況のなかで、トヨタは生産現場をカイゼンし、自動車の生産台数を増やした。トヨタが車を増産したのはモータリゼーションの時になるが、その時は工場を増設できた。しかし、人手を増やさなくとも車を増産したのはトヨタが危機に陥った直後だった。  それは倒産

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第31回 清々しい空間

          ■ひとりの人間として たとえば、以前はサプライヤーが「今日の午前中に前日と同じだけ部品を出します」と伝えたとする。搬送を担当するカリツーが「午前何時に出ますか? 前日と同じ量とはたとえば何立方メートルですか?」と聞いたとする。  カネを払っているから立場が強いと思い込んでいる、あるサプライヤーは「うるさいな。午前と言ったら午前だ。きのうと同じ量と言えば同じだ」と答える人間もいた。  だが、トヨタがサプライヤーに「部品は午前何時何分に出庫できますか?」と訊ねたとする。  

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          トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第31回 清々しい空…