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男同士が理想の賃貸マンションを見つけるまでの苦労話

賃貸マンションで立退にあった記事を書いてから早10か月、今度は賃貸探しの話を書いてみたいと思います。


1.同性カップルの賃貸探しは二重に大変

5年ほど前、同居している同性パートナーと「もう少し広い家に住みたいね」という話になり、通勤の便がよく友人が住んでいるエリアで物件を探し始めました。

でも賃貸探しは本当に大変。良い物件を見つけても全然契約に至りません。以下にその理由を書いていきます。

1-1.人気の物件はすぐに埋まってしまう

例えばSUUMOで水曜日に良さげな物件を見つけたとします。自分は土日休みなので土曜の朝いちばんで内見の予約をとります。でもダメなんです。良い物件は木金の間に内見をした人が先に申し込んで負けてしまいます。週末に内見なんて悠長なことは言っていられない。

1-2.不動産会社が信頼できない

上記で負けた物件なのに、その後も二週間くらいSUUMOに載っていたりします。「もしかして先に申し込んだ人がキャンセルしたのかな?」と淡い期待を抱きつつ掲載している不動産屋に問い合わせたら「空いている」とのこと。「次こそ!」と期待しつつ週末その不動産屋に申し込みに行くと、「直前で申し込み入っちゃいました」とか言われます。仕方なくほかの物件を紹介されて帰るのですが、その不動産屋はなぜかその後もずっと同じ物件を載せ続けています…。申込入ったって言ってたくせに…。

そう、これは釣り物件。一部の不動産屋はもう申込で埋まっている物件なのに載せ続けて客を呼び込もうとするのです。客は無駄足を食わされるだけ。こういうことは一度や二度ではありませんでした。

ちなみに自分は、単なる不動産屋の手違いではなく本当に釣り物件なのかを検証するために、わざわざ貸主に近い企業(「代理」といいます)から既に物件が埋まってしまっている確認を取ってから、その物件をいつまでも載せている不動産会社に問い合わせたことがありました。でも、こちらから「きちんと貸主に空き状況を確認してほしい」と依頼しても、そういう会社は「確認しました!まだ空いてます」と平気で嘘を言って内見の約束を取ろうとしてくるのです。やっぱ釣りじゃねーか!今思い出しても本当に腹立たしい…。

もちろんですが、ほとんどの不動産会社はちゃんとしてて、埋まった物件をすぐに賃貸情報サイトから消してくれます。でも一部のズルをする会社のせいで、消費者はこのように苦労するのです。賃貸業界は闇が深い。


ここまでは一般的な賃貸のむつかしさです。でも同性カップルの場合はここからもう一段、困難があります。


1-3.同性カップルの賃貸探しがむつかしい

不動産屋に行き、素直に「男同士のカップルで住みたい」というと断られることが多いです。

一番多かったのは「同性同士だとルームシェア扱いになっちゃうんですよね。この物件はルームシェアNGなんです」という回答。自分一人だったら審査が通って住めるはずの物件でも、二人になるとNG。

そのまま引き下がっては何も始まらないので、以下、自分なりにいろいろ不動産屋に話してみました。

a. いま住んでいる賃貸では自分が契約主となって全責任を負い、パートナーを同居人とすることで同居ができている 。自分一人だったら審査が下りるのであれば、同様に自分が契約主となることで処理できないか

b. 自分たちは直近5年以上同居の実績があり、それは住民票でも証明できる。ルームシェアの懸念点である「片方がすぐに出ていく」という心配はない

c. 今住んでいる地区には同性パートナー制度はないが、その物件の地区では同性パートナー制度がある。必要あれば、二人でそれに申し込んでも良い

d. 今回の物件は自分だけでなくパートナー単体でも審査が下りる(これは担当者に確認済)。それぞれ単身で契約できるレベルの部屋に二人が住むのだから、与信的にはより安全なのではないか

e. 必要あれば、家賃を先々まで前払いすることも可能

全部だめ。もうほんとなに話してもだめ。どれだけ関係性や与信の話をしてもとにかく「ルームシェア扱いだからNG」しか言わない。一人で住める賃貸に、二人で給料が二倍になってるのに住めないってどういうこと…。

たまに「男同士は汚すから」「男同士は騒ぐから」とか言われるけど、本当にそういう経験があったのか聞いたら「知らない」っていうんですよ。そりゃそうだ。そもそも貸してないんだもん。
百歩譲って、男同士が汚すとか騒ぐのは、一部の人はもしかしたらあるかもしれない。でもそれってだいたい血気盛んな若者の時じゃないですか。自分もパートナーもこの時アラフォーの年齢。まっとうに生きてるつもりのアラフォーおじさん二人が、不動産屋から「男性同士のルームシェアは騒ぐから」と言われて賃貸を断られてしまう悲しさ…。これって50歳、60歳になっても言われるんだろうか。つらすぎる。

中には大家にかけあってくれるような良心的な不動産屋もいるようですが、基本的に彼らは、物件紹介して契約とって仲介手数料をもらうのが仕事。不動産屋の中には、すぐ埋まる人気物件なら大家に確認・交渉とかめんどくさいことせずに僕らを切って、ほかの人たちを入居させたほうが効率的と考える担当者もいるようです。

1-4.不動産会社が信用ならない(2回目)

上記のような関係性や与信の交渉をしていると、たまに担当者から言われる言葉があります。

「では、いったん tachinokiさんお一人で申し込んでみてはどうですか?お一人なら間違いなく審査は通るので、単身で審査を通して、実際には二人で済むのはどうでしょう。そうされる方もたまにいらっしゃいますよ」

いやいやいやいや、そんなことできるわけない。もし大家に黙って二人で住んだら、大家にバレたら最悪追い出される可能性あるじゃん。そんなリスクのあることできないよ。

こちらも、ちゃんとした不動産屋ならこんなことは言いません。でも適当な不動産屋からすれば、契約さえ成立すれば仲介手数料がもらえるので、契約後に住民が大家ともめようが追い出されようが痛くもかゆくもないんですよね。


何度も書いたように、ちゃんとした不動産屋だってたくさんいます。でも、これまで釣り物件をつかまされ、大家への交渉もしてもらえず、大家に黙って住めばいいじゃんみたいな適当なことを言われ、当時は不動産屋への不信感がかなり高まってしまいました。こっちは困ってるのにな。


2.自分なりに調べて考えてみた

そして月日は流れ、もう引っ越しをあきらめていたころに当時住んでいた賃貸マンションで立退にあいました。今度は立ち退き期限までに必ず引っ越し先を見つけないといけません。

この時も、希望の物件を見つけて申し込みに行ってもやっぱりうまくいかない。そこで物件を探しつついろいろ調べてみたところ、いくつかわかったことがありました。

2-1.通常物件、二人入居可、ルームシェア可の違い

以前、不動産屋から「この物件は二人入居可なのでNGです」と言われたことがありました。俺らも『二人』なんだけど?どういうこと?調べてみたら以下のようです。

a. 通常物件(言い方がわからないので勝手に名付けた) → 「二人入居可」でも「ルームシェア可」でもない普通の物件。単身もしくは、男女夫婦や子供を含めた世間一般的な「家族」が対象

b. 二人入居可 → 上記 aに加えて、結婚予定の男女、兄弟など親族が入居できる物件。貸主によって条件はいろいろ違うらしい

c. ルームシェア可 → 上記 bに加えて、友人同士でも入居できる物件

つまり a → b → cの順番で、入居できる人の基準がゆるくなってるってことです。

2-2.通常物件、二人入居可、ルームシェア可の物件数

そして、賃貸情報サイトでそれぞれの物件がどれだけあるのか調べてみました。(以下はHOMES、東京都の賃貸、2021/02/20 午後 時点の情報です)

物件全体:220,870件
 a. 通常物件:153,759件(全体の69.61%)
 b. 二人入居可:66,020件(全体の29.89%)
 c. ルームシェア可:9,390件(全体の4.25%)
※二人入居可物件の一部はルームシェア可でもあります。bとcは重複しているので、a+b+c=100%にはなりません。

ざっくりいうと、物件全体を100としたら、二人入居可が30で、そのうち4がルームシェア可なイメージです。ルームシェア可な物件ってめちゃくちゃ少ないな。

※ちなみにSUUMOには「LGBTフレンドリー(物件)」という検索項目があるのですが、こちらは東京都内物件全体のたった0.4%。まだちょっと実用はむつかしいです。今後の発展に期待です。

2-3.なぜ、通常物件、二人入居可、ルームシェア可と扱いが分かれているか

これは主観なのですが、ルームシェア可の物件にはあんまり魅力的でないものが多い気がします。どこか古かったり設備が悪かったりする。あと賃貸情報サイト上に情報がずっと残ってるんですよね。なんだか売れ残ってるかんじもする。

でも一方、数日で申込が埋まってしまうような人気物件は、ぜんぜんルームシェア可にはなっていない。

そこから仮説を考えました。それは「そもそも人気の物件ならほっといても入居者がすぐに埋まる。貸主はすぐには埋まらない物件だけ、二人入居可やルームシェア可のように条件を緩和して入居者を集めているのではないか」というものです。もちろん今はルームシェア専用物件などいろいろなパターンはあるのですが、だいたいの物件についてはそう考えるといろいろなことがしっくりきます。

でもこの仮説が正しいとすると、同性カップルは賃貸物件100のうち4しか借りれないし、その4のほとんどはだれも選ばなかった人気のない物件ってことになるんですよね。なんなのこれ。もう地獄か。

2-4.不動産会社にもいろいろある。 貸主 = 代理 > 媒介(仲介)

賃貸情報サイトを見ているうちに気になる表記を見つけました。「取引態様」というものです。ここは「仲介」と書いてあることがほとんどで、ごくたまに「代理」と書いています。

※以下はSUUMO。右の赤囲みのところ。

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これが何なのかを調べたところ、以下のように分かれることがわかりました。

a. 仲介(媒介):単に入居者をとりつぐだけの代理店。ただの代理店なので、賃貸情報サイトでは1つの物件に5~10社くらい仲介がいたりします。ふだん私たちが問い合わせしている不動産会社は、この「仲介」であることが多いです。先ほど書いた何を交渉してもNGだった不動産屋たちは、すべてこの「仲介」でした

b. 代理:貸主の代わりに入居者と契約を取り交わす不動産会社。賃貸情報サイトではたまに見かけます

c. 貸主:大家のこと。ただこれは分類としては存在するけど、自分は賃貸情報サイトでは見たことありません。かなりレアかもしれない

最初に書いたたように、人気物件の申込はスピードが命です。どれだけがんばってもタッチの差で負けたりする。でもその申込のときって、よく担当者がFAXや電話でどこかとやりとりをしていた気がします。これって自分が行った不動産屋が「仲介」だったから、仲介から「代理」や「貸主」に連絡していたってことなのかもしれない。

ということは最初から「代理」を狙って申し込みに行けば、仲介を通さないので他よりも一足早く申し込めるのかも?

同性カップルの住みづらさは何も変わらないですが、人気物件の申込については少し見えてきた気がしました。

3.ルームシェア可じゃない人気物件に申し込んでみた

当時の立ち退きの期限は11月末。余裕をもって7月くらいには決めて9月には引っ越し完了しておきたいところです。でも結局、7月になっても物件は決まりませんでした。

焦りを感じていたこの時期、ある平日に SUUMOでかなり良い物件を見つけました。求めていた条件をすべてクリアしていて、しかも相場よりかなりお得。大島てる(物件で事故死とか不審死とか起きてないか調べられるサイト)を見ても問題なさそう。これは内見していたら間に合わない物件。速攻で申し込むしかない。

でもこの物件、「ルームシェア可」とは書いていません。まあそうだよね~。絶対すぐに埋まる物件だもんな~。俺たちやっぱここには住めないのかな~。死にて~。

でも、イチかバチか行ってみるか…!

SUUMOを見ると「代理」の会社が載っていました。仲介を通さず、すぐに「代理」に行けば今度は申込できるかもしれない。その会社の本社は家の近くだったので、翌日は仕事を午前休にして朝イチでそこに突撃することにしました。

翌日朝に「代理」の会社の本社ロビーに到着。ここはオフィスビルの高層フロアにあり、普通の人が行くような窓口はありません。タッチパネルと内線電話だけあります。タッチパネルを押すと「総務部」とか「人事部」とか「関東営業1部」みたいな部署ばっかり出てくる。

よくわからないので適当な部署に内線して「昨日SUUMOで見た●●マンションの申し込みに来ました」と伝えました。電話の向こうの人は「申込ですか?」ちょっと驚いた口調です。まあそうだよな…。本社にまで乗り込んで申込に来る人いないだろうしな…。申し訳ない…。「しばらくお待ちください」と、10分ほど待たされた後、書類をもって担当の方が出てきました。ちゃんと申込できるようです。ありがとうございます。

担当の方から書類を渡されて、必要事項を書いていきます。書き進めるうちに、同居人の欄に目が留まりました。以前不動産屋から言われたように、同居人は空白で書いておいて、実際は二人で一緒に住むって発想もあるかもしれない。でもバレたら追い出されるかもしれないし、あとあとリスクを負うのは自分なんだよな。どうしたものか。

よく見ると、同居人の欄には性別欄がありません。そして僕のパートナーの名前は、偶然、男女共通で使われることが多い名前なのです。(例えば「カオル」みたいなかんじ) これはワンチャンあるかも…。

同居人の欄に、パートナーの名前を書きました。担当の方から「同居人の方は名字がtachinokiさまと違いますが、どういうご関係ですか?」と聞かれました。

一番緊張するシーン。
これまでここで正直に答えて何度断られたことか。
でも嘘をつくと後で困るかもしれない。
少し考えた後、こう伝えました。

「今も一緒に暮らしてるんですが籍は入れてなくて。事実婚みたいなもんです」

うん!
嘘はついてない!
籍は入れてないし、実際いま事実婚みたいな関係だし。内心ドキドキでしたが担当者の方は特に気にせず、そのまま申込を受け付けてくれました。

念のため、他の申込は来ているかを聞くと「まだどこからも来ていない」とのこと。うちが一番乗りです。やった。仲介をすっ飛ばして直接「代理」に申し込んだかいがありました。

また、今回は内見せずに申し込みましたが、後日の内見時には部屋を確認した上で申込をキャンセルすることもできることがわかりました。自分たちは立ち退きで期限に余裕がないので審査が通れば住むのは確定ですが、こういう仕組みがあるのはありがたいですね。

一週間後、無事に審査が通りました。ついに決まった~。本当にうれしい。本当に良い物件だったので、これまでの苦労が報われた気がしました。

ただ同居人が同性だとは「代理」の会社にはきちんと伝えていません。なので後日の内見は、男二人で行って怪しまれたくなくて、あえて友達も交えて三人で行ったり、「一緒に住むカオルさんってこの男性ですか?」と言われないように内見時は一緒にいるパートナーの名前を呼ばないように気を付けたりしました。なんでこんな苦労をしないといけないのかとは思いつつも、物件自体は実際に見ても素敵な家でよかったです。

内見も無事に終わり、二人で引っ越した後は立ち退きでもらったお金をもとに家具や家電を爆買いしました。新品の家具や家電がそろった家は気持ちが良いものです。

4.まとめ

賃貸探しの苦労話は以上です。これらの経験をもとに、自分なりに考えた賃貸探しのポイントは以下になります。

1. 良い物件を見つけたら「取引様態:代理(または貸主)」の会社を探す

2. 物件を見つけた翌日朝に、上記の会社に申し込む
※自分が「代理」に行ったときはSUUMOを飛ばしちゃったけど、これだとせっかく情報提供してくれたSUUMOに手数料が入りません。直接会社を訪問するときは、物件を見つけた賃貸情報サイトで事前に問い合わせを送っておくと良いかと思います。これで賃貸情報サイトに報酬が入るはず

3. 内見せずに申し込んでも、内見時にキャンセルできる場合もある(ただし会社によるので確認は必要)

ちなみに「代理(または貸主)」の場合、一般的には仲介手数料を払う必要がないようです。お金の面でも「代理(または貸主)」はお得です。ぜひ探し出しましょう。

同性カップルの賃貸探しのポイントは、正直わかりません。ただ一点新たに分かったのは、「二人入居可」や「ルームシェア可」の表示がない通常物件でも、同性カップルの入居が可能な物件はあるということでした。

なぜかというと、引っ越し後しばらくして、自分が契約した「代理」の会社へ同性カップルの入居をどう考えているのかを電話で問い合わせてみたのです。するとこの会社は「同性カップルはルームシェア扱いではなく、男女夫婦と同様に解釈して審査する」という回答でした。なんだ、申込や内見の時にパートナーの性別がバレることにおびえる必要はなかったのか…。まだまだ耳にすることは少ないですが、中にはこういうフラットな会社もあるようです。

あとはまだわからないですが、もしかしたら賃貸契約は大家との交渉次第なところもあるかもしれません。ただ、不親切な不動産屋(「仲介」)からNGをくらうと大家と交渉することすらできないので、直接「代理」や「貸主」に行って交渉するか、大家に交渉してくれるような良心的な「仲介」を見つけるのが良いと思います。不親切な「仲介」は、さっさと見切ったほうが良いです。

いろいろ苦労はあったものの、希望の賃貸マンションに住めて本当に良かったです。次は何年先になるかわからないけれど、今度賃貸を探すときにはもっと物件が探しやすくなってるといいなと思います。


2/23(火)13:40、続編として 同性カップルの賃貸苦労における2つの矮小化と男同士の賃貸問題の本質について考えてみた を書きました。同性カップルの賃貸問題に興味がある方はぜひこちらもご覧ください


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