Sports Business 115 I Bリーグ決算プレビュー / 女性スポーツMCO I #2-241115
ざっくばらん
先日、バルセロナのホームにてラ・リーガの一節を観戦しました。前回の分析でも言及した通り、現在バルセロナの聖地であるカンプ・ノウ・スタジアムは改修中であり、ホームスタジアムは一時的にバルセロナ市内のオリンピックスタジアムに移転しています。
スタジアムはその名の通り、オリンピックに合わせて建設されたものであり、写真の通り、サッカー専用ではなくトラック種目にも対応できる設計となっています。そのため、カンプ・ノウや一般的なヨーロッパのフットボールスタジアムに比べるとやや臨場感は劣るものの、やはりバルセロナのゲームというだけあり、それなりの盛り上がりを見せていました。
観戦の際に、選手情報を調べていたところ、TransferMrktというサイトを見つけました。このサイトでは各選手の評価額が紹介されており、若干17歳の「神童」ヤマル選手が1億5,000万ユーロと紹介されており、さすがの欧州フットボールだなあと驚愕しました。(算出ロジックは分かりませんが、若い方が将来CFを生み出す期間が長い分価値が高く算出されやすい、というのはあるかもしれません)
ピックアップニュース
B Premier具体制度発表
日本のプロバスケットボールリーグ「B League」は2026-27シーズンよりリーグの構造改革を行うことを決定しており、12日に当該制度のより詳細な内容が発表されました。
以前からの公表内容のおさらいも兼ねると、現行B1から新「B Premier」への以降に際しての主要な変更(及び維持)は以下の通りです。
・外国籍選手のロスター登録は3人、オンザコートは2名まで(帰化及びアジア枠はロスター登録オンザコート共に1名まで)
・B Premierではサラリーキャップ8億円、フロア5億円として設定。算出においては、全選手の契約はグロス扱いとなる(いわゆる額面契約。対する概念としてはネット契約があり、税引き後の手取り額を規定するもの)模様。
・B Premierでは最低年棒が800万円として保証
・ドラフト制度の開始。ただし、若手選手の待遇が保証されるよう、チーム側のトレイナーや練習設備配置の義務を明記
一時期は外国籍選手のオンザコート制限無しという方向性も囁かれていたものの、各方面からの反対意見が出たことでリーグとしては妥協し、現行制度の継続に落ち着いたものと見ています。また、サラリーキャップも同様に選手からの反対意見があったものの、ここはリーグの理事会や実行委員会の多数を占めるクラブ関係者にとっては経営の生命線になるため従来の改革案を通しながらも、最低年俸を保証する折衷案に至ったと考えます。
Bリーグ、秋田と三遠にB Premier審査通過に暗雲立ちこめる
上述のB Premier移行に際して、ライセンス基準の一つとして一定の要件を満たしたアリーナの確保が求められているが、現在B1に所属する秋田はアリーナ建設の入札が1件も集まらなかったため現状では建設不可となり、また同じくB1所属の三遠ネオフェニックスは豊橋市と連携してアリーナ建設計画を進めていたものの、直近の選挙で当選した市長がアリーナ建設反対を訴えたことで、それぞれアリーナ要件を満たすことが困難となっている。
個人的には、日本各地でのアリーナ建設はやや過熱気味であり、特に地方におけるアリーナの収支見通しは不透明であることから、特に公的な資金が絡む状況下ではB Premierの審査に煽られて拙速な判断を下さずに、しばらく様子見することは寛容であるようにも思います。
Jリーグ大宮、「RB大宮アルディージャ」へ名称変更
グローバルエナジードリンク大手のRedbullがマルチクラブオーナーシップモデルの一貫として大宮アルディージャの買収に踏み切ったが、海外の他のポートフォリオクラブと同様に、チーム名にRedbullを連想させるRBを追加すると発表。
同社は事業会社として展開するマルチクラブオーナーシップが有名であり、主力製品のRedbullのブランディングとクラブ経営による価値向上(それに伴うインカムゲイン、キャピタルゲイン)を目的としているが、今回の名称変更は前者に紐づくものとなる。リーグの規定により直接的に親会社の名前を冠したチーム名にすることはできないため、RBというやや抽象化した名称で着地したものと見られます。
DeNA日本シリーズ制覇
横浜DeNAベイスターズが日本シリーズ優秀を達成。同チームはDeNAによる買収後、チーム改革やスタジアムのTOBによる内製化等の様々な取り組みが順調に進み、今ではDeNAグループの収益の柱とまでなっています。
FIBA Migration Report 2024発表
全世界のプロバスケットボール選手の移籍動向をまとめたレポートを発行。日本に関連するポイントとしては、以下のような点が見られます。
・Export / Importのバランスとしては、直感通りに日本はImport過多ではあるものの、その比率は世界では13位。レポート内の数値では、日本でプレーした後に海外リーグに移籍した外国籍プレイヤーがExportとして算出されているはずで、そのためネットで-38という数値になっているはずです。
・FIBA Licensed Agentの数は日本人登録者が12人となっており、世界では13位。全世界のエージェント数は722人で、過去10年では右肩上がり。
・リーグ別のチーム数、試合数においては、日本がダントツの一位。やや供給過多となっている可能性はあります。尚、チーム数が多い試合数が多くなるのは当然だが、試合数÷チーム数を手元で計算してみたところ、1チームあたりの試合数も日本は高い水準にある模様。
・また、リーグ別の平均年齢及び身長を比較したチャートにおいても、日本は圧倒的に身長が低く、また年齢が高いリーグとなっています。理論上は試合数が多いほど選手が酷使され選手生命が短くなるはずだが、外国籍選手のプレータイムが長く、日本人選手はタイムシェアができているのかもしれません。
米系投資銀行のスポーツ業界カバレッジ
スポーツ市場がその他地域に比べて一回り大きい米国では、周辺領域も充実してきている模様。その証左として、米系投資銀行がサービス展開を始めている。
JP Morganは3月にスポーツ業界専門のカバレッジチーム立ち上げを発表しており、米国で増加を見せるクラブのM&Aに対するアドバイザリーを提供する模様。また、Morgan Stanleyはスポーツ領域に関連したIndex Fundを組成し、投資家によるスポーツ業界の成長にベットした投資をサポートする。
同様のサービスは日本で立ち上がってもおかしくなく、事実一部の証券会社(投資銀行)はJリーグクラブの買収/売却案件を取り扱っているとも聞きます。
井上尚弥、サウジアラビアと30億円の契約
プロボクサーの井上尚弥選手がサウジアラビアのボクシングイベントと30億円規模の契約を締結したと発表。契約にはロゴ掲出、観光大使の役務が含まれるものの、サウジアラビアでの試合の実施は含まれていないとのコメント。
サウジアラビアやUAEによるスポーツ投資は過去10年超にわたり進んでおり、これまでは欧米のフットボールが主な投資先だったが、多様化が進みついには日本へ上陸したかたちとなります。
中東のオイルマネーは引き続きグローバルのスポーツ界で存在感を維持することは間違いなく、日本の他スポーツも連携の方法を考えていると推測します。
分析&論考
Bリーグ決算プレビュー
例年11月下旬には、前シーズンのBリーグ各クラブの決算サマリーが発表されます。今年も同じ時期に発表がなされるはずですが、その前に昨シーズンまでの決算概況をおさらいしてみたいと思います。
まず、リーグのこれまでの各年の経過です。下記抜粋画像内のコメントにもある通り、各主要財務数値は順調に経過しています。(ただし、抜粋する決算年度はコロナの影響を受けた2019-20シーズンから始まっており、右肩上がりのイメージを与えやすいやや恣意的な選び方ではあります)
コメント欄にもある通りチーム人件費はコロナ禍以降高騰を続けており、入場料収入やスポンサー収入の伸び分の大部分はチーム人件費に吸収されたかたちとなります。
次に、このような「誰がどの程度の金銭を支払い」、「誰が受け取ったのか」というお金の流れをみていきます。以下は2016‐17シーズンと2022‐23シーズンのクラブ平均PLを図示したものです。
いずれの年度においても、売上の大部分をスポンサー売上が占め、そして費用の最も大きな部分をチーム人件費が占めているという構図は変わっていません。むしろ、このトレンドは加速しており、22‐23シーズンの方がスポンサー売上とチーム人件費の占める割合が増えていることは視覚的にもわかります。
背景には、M&Aにより大企業系オーナーが増え、またそうしたオーナーがチーム強化に積極的に乗り出したことで、親会社からのスポンサー売上がチーム人件費に充てられたという見方ができます(そして、見方によっては不健全なこうした流れを制限するB Premierの構造改革に至ります)。
今後数年間はアリーナ建設ラッシュにより入場料収入も増加することが見込まれるため、PLの構造は多少は変わってくるかと思います。しかし、放映権売上が大部分を占める海外のクラブとは大きな違いが見られます。
各クラブの売上を見てみると、東京、千葉、琉球と続きます。東京は27億円中22.5億円をスポンサー売上が占めており、トヨタの資本力が垣間見える一方、琉球はスポンサー売上は7億円程度に対し入場料収入が10億円と、バランスのよい売上構成になっています。
次に、各チームの人件費を見てみます。基本的には上記売上順にチーム人件費は並んでおり、稼ぐチームがチーム人件費を多く割くことができ、結果的にチーム強化に繋がるという弱肉強食の様相を見せています。一部イレギュラーなのは三遠で、9.4億円の売上に対して8億円のチーム人件費と身の丈に合わない支出をしており、結果的に7.4億円の赤字というおそらくBリーグ史上最悪の決算に至っています。
次に、このチーム人件費をチーム勝率と並べて見てみます。東京は圧倒的に高い人件費を費やした一方、最高勝率とはなっていません。一方、千葉ジェッツは東京よりは少ない人件費でリーグ最高勝率を達成しています。その他のチームについても、中央の平均線より上は比較的やすい人件費で高い勝率を残した「効率的なチーム編成」と言え、GMが高い手腕を発揮したと言えるでしょう。一方、チーム編成は単年で完成するものではなく長期的なものであるため、23‐24シーズンの動向も合わせて見てみたいと思います。
ざっといくつかの数値をピックアップしてみましたが、23‐24シーズンの数値では、以下の点に注目してみたいと思います。
・B Premierの審査に向けて売上水準がどのように変動したか(あるいは、不自然な水増しはなかったのか)
・サラリーキャップの制限が適用されない状態で選手人件費はどの程度高騰したのか
・「効率的なチーム編成」の観点では、どのチームが高いパフォーマンスを発揮したのか。また、そのチームにはどのような特徴があったのか
女性スポーツMCO
近年、FIFA女子ワールドカップや(前回紹介した)WNBAの人気上昇に象徴されるように、女子スポーツへの注目度は急速に高まっています。これまでの固定観念を打破し、女子アスリートたちは競技パフォーマンスだけでなく、経済的な側面でも注目を集めており、視聴率、スタジアムの観客数、メディア露出、スポンサーシップといったあらゆる面で記録を更新し続け、破竹の勢いで成長しています。
この女子スポーツの盛り上がりに合わせて、スポーツチームへの投資が急速に進んでいます。特にアメリカでは、WNBAやNWSL(ナショナル・ウィメンズ・サッカー・リーグ)のチームへの出資が増えており、企業や有名アスリートもその流れに加わっています。投資家たちは女子スポーツ市場の成長性と、その社会的な意義に着目しており、今や女子スポーツへの投資は単なるビジネスとしてだけでなく、ジェンダー平等の推進や社会貢献の一環として捉えられるようになっています。
現在、WNBAは視聴者数、チームの収益、スポンサー契約など、あらゆる面で成長を遂げています。今年、WNBAは新たに22億ドルのメディア権利契約を締結し、これによりシーズン試合数も増加する予定です。また、今後2年間で3つの新チームがゴールデンステート、トロント、ポートランドに設立されることが決まっています。さらに、16番目のフランチャイズチームの拡張を巡り、10~12の都市が名乗りを上げています。
その中で、NFLのスター選手Patrick Mahomesは、自身が一部オーナーを務めるNWSLのKansas City Currentを成功させた経験を活かし、WNBAチームをカンザスシティに誘致することを目指しています。Mahomesとそのパートナーたちは、NWSLでの成功事例を示し、WNBAチームでも同様の成果を期待しています。Kansas City Currentは2021年に設立されてからわずか数年で、NWSLにおける最も収益性の高いチームの一つに成長し、その価値は急上昇しています。このモデルをWNBAに応用することで、新たな成功を掴もうとしています。(ちなみに、Mahomesは、MLB、MLS、NWSLの各チームへの投資に加えて、F1チームへの出資も行い、スポーツ界での影響力を拡大し続けています。)
一方で、元EYのパートナーであり、その後Tech領域の起業家として成功を収めたMichelle Kangも、女子スポーツの成長に注目し、積極的な投資を行っています。彼女は新たに設立した「Kynisca」を通じ、複数の女子サッカーチームを統合的に支援し、女性アスリートのパフォーマンス向上を目的としたイノベーションハブも併設しています。
Kangは既にNWSLのワシントンスピリットや、フランスのOLリヨン女子チーム、ロンドンシティ・ライオネセスといった複数のクラブをポートフォリオとしてKynisca傘下に抱え、各国で女子サッカーの発展に貢献しています。また、スポーツテック企業にも投資を行い、女子スポーツ市場の拡大を目指しています。
日本では、女子スポーツの競技力は高いものの、商業面での成長は他国に比べて遅れを取っています。特に女子サッカーやバスケットボールでは、世界大会での成果があるにもかかわらず、国内でのマーケティングやメディア露出は限られています。しかし、これは逆に投資のチャンスでもあります。女子スポーツへの注目度が低い今こそ、戦略的な投資によって市場を開拓し、新たな収益源を確保する好機です。
現在、日本国内でも少しずつ女子スポーツへの関心が高まりつつあり、リーグの拡張や新たなスポンサーシップの獲得が進んでいます。この流れに乗り遅れないためにも、先行して投資を行うことで、市場の拡大に寄与しながら企業価値の向上を目指すことができます。女子スポーツは、未開拓の市場として今後も成長の余地が大きいため、早期に参入することで大きなリターンを期待できるでしょう。
メディアレビュー
面白かったスポーツビジネス関連の書籍を紹介していきたいと思います。まずは、前Jリーグチェアマンである村井氏のチェアマン時代のキャリアを深堀りした「異端のチェアマン」です。
リクルート出身という異色のキャリアでありながら、DAZNとの大型契約の締結や、コロナ禍の迅速な対応等、商売人かつリーダーとしての手腕を存分に発揮された、活躍の詳細が綴られています。特に個人的に刺さったフレーズは以下の点。組織におけるリーダーシップというのは、言語化が難しいものの、それ自体が一つの立派なスキルなんだと感じます。
Jリーグの内部を知ることができるだけでなく、リーダーシップのあり方についても学ぶことができる、非常に面白い書籍でした。
おわりに
前回に引き続き第二弾もかなりのボリュームになってしまいましたが、お読み頂いた方、ありがとうございました。せっかく発信するからにはより良いコンテンツにしていきたいと思いますので、質問/コメント/リクエストがありましたら、以下アドレスまでぜひお送りください!
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