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持続的な経営で社会課題の解決を目指す“ゼブラ企業”を支援する。SIIFがZebras and Companyに出資

2021年6月21日、SIIFは“ゼブラ企業”を支援する株式会社Zebras and Company(以下、Z&C)への出資を発表しました。“ゼブラ企業”とは、社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す企業です。短期的成長によるEXITや、大きな市場の独占による利益追求を目的としないため、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資対象になりにくく、まだ資金提供や経営支援の仕組みが確立されていません。社会にゼブラ経営を実装するために、これから何が必要か。Z&Cの共同設立者で代表取締役の阿座上陽平さん、陶⼭祐司さん、⽥淵良敬さんと、SIIF常務理事の工藤七子、インパクト・オフィサー古市奏文が語り合いました。

全員

(上段左から)Z&C 代表取締役 阿座上陽平さん、SIIFインパクト・オフィサー 古市奏文、Z&C 代表取締役 陶⼭祐司さん(下段)Z&C 代表取締役 ⽥淵良敬さん、SIIF常務理事 工藤七子(以下敬称略)

経済に、ヒューマニティを取り戻せ

古市 Z&Cの本格始動から1ヶ月余り経ちましたが、周りからの反応や手応えはいかがですか?

田淵 ありがたいことに、各方面から多くの問い合わせをいただいています。起業家からの投資や経営支援の相談もあれば、協業の打診もあります。特に協業では、「Z&Cのリリースやローンチ記念イベントを見て、自分たちが模索していたのはこれだ! と膝を打った」という反応をいただくんです。水面下で、われわれと同じようなことを考えていた人が、案外たくさんいたんだなと実感しています。

阿座上 メディアからの関心も高いです。取り上げてもらえるといいな、と考えていた媒体の、すべてが記事にしてくれました。スタートアップやユニコーン企業に代わる次のトピックが求められていて、そこにゼブラという概念がぴたりとはまったのだと思います。

田淵 リリースもイベントも日本語なのに、海外からの問い合わせもありました。ゼブラには、世界共通で、人の心を捉える何かがあるのでしょう。

古市 それはいったい何だと思いますか。

田淵 いきなり核心の質問ですね(笑)。

陶山 ひとびとの問題意識に訴えたのではないでしょうか。社会課題の解決を目指す起業家も投資家も、現状にフラストレーションを抱きつつ何が問題なのかをうまく言語化できずにいた。それをゼブラという概念がクリアに示して見せたので、ひとびとの胸を打ったのかなと感じています。

阿座上 ローンチイベントでは「社会へのインパクトを目指したファンドが、顧客資産の最大化を目指したファンドよりも高い収益を上げた」という事例が語られました。ちゃんと結果を出している先達がいて、これから行くべき道筋を示し、そこにゼブラという名前を与えたことで、共感を得られたのかな。アメリカではヒューマニティを重視するスタートアップが現れている、という話題もありました。

陶山 今までとは違う経済や経営のかたちを追求していくべきだと。

工藤 Z&Cのローンチイベントでスタンフォード大学教授のVictoriaさんが語っていたように、経済にヒューマニティを取り戻せ、ですね。キーワードの一つは“経済合理性”だと思うんです。事業に一定の経済合理性は必要だけれど、それでは人の心は動かせない。ゼブラには経済合理性一辺倒なビジネスへのアンチテーゼがあって、それがひとびとの琴線に触れるのかな、と。

今、新しい投資のあり方が求められている

阿座上 2011年頃からスタートアップが盛り上がって10年が経ち、ビジネスでは成功を収めたから、次はもっと社会にインパクトをもたらしたい、という新たなフェーズに入ってきたように思います。その中で、これからスタートする20代・30代は、初めから社会課題の解決を目指したいけれど、それではVCの支援は得られない現状がある。

古市 起業家のフェーズは変わったけれど、投資家はまだ変われないということですか。

田淵 VCの人は現場を熟知しているから課題はよく分かっている。けれど、資金の性質が異なるので、VCが自らゼブラ投資はできない。一方で、間違いなく世の中に投資マネーは余っていて、これまでとは違うタイプの投資家が現れ、これまでとは違うタイプのリスク・リターンのあり方や投資先を模索しています。私の主観では「くすぶっている」という感じ。日本より一歩先を行っている欧米ではゼブラ的な投資家も生まれているし、特にアメリカではレベニュー・シェアード・ファイナンス(※1)を手掛ける人も増えています。

陶山 金融が先行して事業が後からついてくるってことはありませんよね。金融側から見れば規模は大きいほど儲かるし、一方で、事業は小さく生まれて大きく育っていくものですから。まずゼブラ起業家を増やし、ネットワークし、盛り上げていけば、結果的にお金はついてくると思います。

古市 そう考えると、投資側の資金規模が重要なのかもしれませんね。パフォーマンス重視でまとまった資金を出すのではなく、本当に共感できる事業に少額ずつ投資し、きめ細かく運用する。Z&Cの事業もその一つでしょうか。

田淵 世界的に見ても、投資が分散する傾向はあります。例えばゼブラ関連では、Exit to Community(※2)というコンセプトもそれに似ています。会社の周囲にいるステークホルダーが株主になって、そのコミュニティーにエグジットするということだから。また一方で、ブロックチェーンのようなテクノロジーが分散化を後押ししている側面もあります。

ゼブラを社会に実装するためのツールとは?

古市 ここまでで、Exit to Communityやレベニュー・シェアード・ファイナンスという仕組み、ブロックチェーンなどのテクノロジーが話題に上りました。ゼブラ投資を社会にインストールするために、ほかに何かツールが必要でしょうか。

阿座上 ツールとは何か?という定義の話もありますが、我々はゼブラ経営を体系化した理論がそれに当たると考えています。Z&Cの事業の一つに書籍執筆を挙げていますが、「ゼブラ的経営とは何か」を体系化し、周知していくことがツールになるのでは。今、社会を良くするために事業を立ち上げようにも、資本構成や時間軸をどう設定すればいいのか分からないという声をよく聞きます。Z&Cとしては、起業家と投資家の両方に、それぞれプランやストラテジーを示すことができればと考えています。

田淵 まず取り組みたい事業が先にあって、そのために最適なファイナンスの枠組みを考えるという順番ですね。さらにそれを、企業の成長段階に応じて組み替えていく必要がある。

古市 SIIFとしても、起業家が成長段階に応じたファイナンスを選択する上で把握しておくべき選択肢や判断軸を示していきたいと思っています。

陶山 ファイナンスの選択肢や判断軸もツールといえますね。一方で、社会的インパクトを目指す会社にとって、インパクトマネジメントとビジネスマネジメントの間にある隔たりをいかにして埋めるかが問題ではないかとも感じています。手法や事例を積み上げていく必要があるかなとも思います。

田淵 大事なのは、企業の成長段階や時間軸に応じて、適切な資本構成が得られるエコシステムをつくっていくことだと思います。すでに起業家にも投資家にもゼブラ的な志向は存在しているのに、お互いの姿が見えていないのが現状では。その間をうまくつないで、それが断片的でなく、層になって重なっていけば、おのずとエコシステムが形成されていくはずです。それがSIIFとの協業を目指した動機の一つですね。SIIFとならビジョンを共有できるし、SIIFの周囲にはゼブラ的な志向を持つ出資者がおられるはずだと思うので。

古市 SIIFが目指すものとZ&Cが目指すものはかなり近いと思います。投資家としてゼブラ企業への投資をサポートするだけでなく、インパクト評価の指標や投資先の選択基準についても一緒に議論していきたいですね。一方で、起業家たちが抱える課題を共有し、支え合うための場も必要です。そのために今、SIIFでもコミュニティを準備しているところです。

ゼブラは、インパクト投資の重要な役割になる

阿座上 SIIFはZ&Cにどんな期待をしてくださったんですか。

工藤 これからは、ゼブラこそがインパクト投資において重要だと思うんです。Z&Cには、インパクト投資でなければ実現できないような、もっと多様性のある、人間にやさしい経済を、まさに経済そのものので実現することを目指していただきたい。非営利でも、行政でもなく、経済そのもので。市場経済自身が本質的な意味での社会課題解決を目指し、市場の機能を拡張して新しい経済をつくる。まさに、経済に「ヒューマニティ」を取り戻していきたいんです。

陶山 かなり高いハードルですが、SIIFもZ&Cと一緒に目指していくということですよね(笑)。

工藤 もちろんそうです。当初、私たちはZ&Cへの投資をメインストリームに対する“オルタナティブ”と呼んでいたんですが、最近規模の大小でも上場・非上場の問題でもないし、既存のファンドやVCの対象になるかならないかの問題でもないと思うようになりました。本当に経済にヒューマニティを取り戻そうとする起業家なら、メインストリームでもオルタナティブでも関係なく支援したいですし。「これこそが本当に市場のバウンダリーを超えたインパクト企業だ」という、シンボリックなものを打ち出せるといいですね。

阿座上 起業家が本質的なインパクトを生むために、資金以外に必要なことは何でしょう。

工藤 インパクトを追求するようなこれからの企業には新しい生存戦略が必要ではと思います。例えば、既存のビジネスに「いざというとき生き残るために余剰金を持っておく」というセオリーがときにあるとして、ゼブラ企業ではむしろお金以上に周りにいざというときに資金含めた支援してくれるステークホルダーがどれだけ作れるかが重要になる可能性があります。または、利益が出たときに、そのお金を株主や従業員に還元する以外の方法で、いかに効果的に使うかなど。新しい経済には、新しい経営学、新しい経営理論が必要でしょう。

陶山 それは、もはや経営学に留まる話ではなくて、哲学や歴史、近代思想とも通じる話ですね。近代思想は古典物理学から影響を受けていると言われており、法律や経済、その他の制度における考え方もその影響を受けていると言われています。つまり、この世界はそれ以上分割できないような「原子」が独立して存在しており、その原子まで分割して分析すれば世界の有り様が分かるといった要素還元的な考え方です。

同様に近代では、社会を独立した個々人まで分解し、その個人の振る舞いによって理解しようという考え方をしてきました。近代経済学が前提とする「合理的経済人」などはその典型的な考え方です。
この50年ぐらい、哲学・思想の領域では「近代をいかに乗り越えるか」、「ポストモダン(近代以後)といわれる時代はどのようなあり方であるべきか」という議論がされていますが、法律、経済、その他社会制度として、まだ十分に具現化されているとは言えません。いま工藤さんが言った話は、まさに人と人との間、会社と会社の間にあるものを捉えるべきなのではないかという問いかけに聞こえました。

僕たちは、「新しい社会へ リスタートしよう」というスローガンを掲げて活動していますが、今日の議論を受けて、今の法律、経済、金融の制度などをそうした視点から再度捉え直す必要があるのだということ、そして、そうした大きな歴史の転換点にいてその一翼を担うんだというような視座や問題意識、気概を持たなければいけないんだなと改めて感じました。
こうした大きなチャレンジは僕たちだけでは限界があります。SIIFをはじめとして、様々な方々と連携・協働しながら、取り組みを進めていきたいと思います!

z&C3人

       Z&C 田淵さん、阿座上さん、陶山さん

※1 レベニュー・シェアード・ファイナンス
レベニュー・ベース・ファイナンス、またはロイヤリティ・ベース・ファイナンスなどの呼び方でも知られ、投資家が資金提供と引き換えに、企業が運営する事業の売上の一定の割合を受け取る資金調達方法のこと。成長に向けた資金需要はあるが、株式を発行したくない企業などに向いているとされる。

※2 Exit to Community 
「コミュニティへのイグジット」を意味する言葉で、企業を投資家が所有するものから、その企業の直接的なステークホルダーが所有するものへ移行させていく考え方のこと。ここでいうステークホルダーとは「従業員」や「サービスの顧客」など、その企業の担い手や直接的な受益者、またはそれらの組み合わせのことを言う。直接的なステークホルダーがその企業の所有者になることで、ファイナンシャルリターンの最大化から離れて企業の維持・継続が可能になるコンセプトとして注目されている。

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SIIFプレスリリース

社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指すゼブラ企業を支援するZebras and Companyに出資

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