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緊急事態宣言解除後の広告会社の働き方まとめ

2020年5月25日、緊急事態宣言解除が発表された。

広告代理店で働いている人間として、働き方がどう変化するのか、企業の価値観がどう変化するのかに興味を持っています。コロナ渦で日本の多くの広告業界従事者は「遠隔でも仕事ができるから」という理由でリモートワークを体験しました。緊急事態宣言が解除された後、広告会社の働き方はどう分岐していくんだろうか?と思って始めたのが本調査です。

日系→外資という順番になっています。
(しばらく2020/5/25以降も各社の発表を追って更新します)

2020/5/26:売れるネット広告社 追加
2020/5/26:GMOインターネットグループ 追加
2020/5/27:電通 追加


電通(2020/05/27追加)

電通および電通グループ各社のリリースが5/27に出ました。

6月以降の業務体制を「リモートワーク(を基本とした業務体制)」に変更するそうです。

6月1日より下記の通り業務体制を「リモートワーク※を基本とした業務体制」(以下、本業務体制)へ変更します。

その中身は2つのフェーズに分かれています。

6月1日からの「フェーズ1」は、段階的緩和の導入期とし、1日当たりの各執務エリアへの出社人数を20%以下に抑えて運用します。会社運営上必須かつ各オフィスビル内でなければ遂行不可能な業務に限定して、本人の意思確認を行った上で上長の指示に基づき、必要最小限の人数でその業務にあたります。

「フェーズ2」では、1日当たりの執務エリアへの出社人数の割合を最大50%に緩和して運用する予定です。「フェーズ2」への移行時期については、政府および各自治体の方針や感染状況等の社会情勢を踏まえ改めて決定します。

電通は当面リモートに寄り添って歩んでいく意思決定のようです。大企業らしい無難な内容かと思いきや、この部分に特徴が出ていると思いました。

いずれのフェーズでもこれまで同様、全従業員による毎日の検温と健康状態のチェックを欠かさず、安全に業務を行うためのレギュレーションを順守した上で業務を推進していきます。

毎日の検温です。「ひと目でわかる電通」のウェブサイトによると、電通グループは全世界で66,000人以上の従業員が居るようです。(2019年末時点)

そのうち日本で業務をする全員が毎日必ず検温しているわけです。その統率力が凄いなと。やらせるチカラと、やるチカラみたいなものが電通グループらしさなのかなと思いました。

2021年にオリンピックが控えていることもあり、他の企業よりも従業員の健康ありきでリモートワークを意思決定している印象を受けました。

GMOインターネットグループ(2020/05/26追加)

日本のリモートワークのパイオニアであるGMOでは、解除日である5/25に以下のリリースだしています。

「新しいビジネス様式 byGMO」の体制へと移行するようです。

<緊急事態宣言の解除後、リモート制度稼働前>
(1)在宅勤務が業務に影響しない場合は、原則として在宅勤務の継続を指示。
(2)在宅勤務が業務遂行に影響を及ぼす場合、ならびに法令対応やお客様対応など業務上出社が必要な場合については、グループ各社・上長の許可のもと出社を認める。

<リモートワーク制度の稼働後>(6月上旬頃~)
・週の1~3日を目安に在宅勤務とする。
*本人の体調・健康状態が良好であり、糖尿病などの持病を持っていたり、妊娠していたり十分な健康配慮が必要なパートナー、および同居するご家族に同様の方がいる場合は、健康状態を問わず対象外とします。

攻守のバランスがよく模範とされそうな内容だと思いました。多くの大企業は、これくらいの内容で様子を見始めそうです。早くからリモートワークをされていた熊谷社長のインタビューが興味深いです。

正直なところ、2カ月あまり在宅勤務をして、実はオフィスは常に必要じゃないんだと気付きました。ただしオフィススペースはゼロでもいいとかテレワークだけでよいといった考え方は極論です

オフィスは常に必要ではない。ただしゼロは極端な考え方だそうです。

「在宅勤務を取り入れれば、オフィスを増やさなくても今より多くのパートナー(従業員)を雇えます。つまり『未来の家賃』を削減できる。削減できる未来のコストのうち50%を従業員に、残りの50%は株主に還元します」

在宅勤務をオフィスの拡張、組織の拡大の文脈で捉えているのが印象的です。緊急事態宣言解除後の具体的なアクションは多くの企業が出し始めていますが、ビジョンまで表明しているのは、GMOくらいだと思いました。すぐに踏み切れた背景にも触れています。

――すぐに踏み切れた背景は。

 「準備と訓練をしていたからだ。社外から社内ネットワークに安全に接続できるシステムを整えてきた。東日本大震災での経験を踏まえ、年1回の在宅勤務の訓練もしてきた。仕事の習慣付けも大切だ。社内では普段から仕事の期限管理を『今週末』などあいまいな形ではなく、『何月何日の何時まで』、と細かく決めている。そういう習慣があるからこそ、在宅で対面できなくなっても、普段と同じように業務が回る」

朝日新聞:2020/04/04
在宅勤務で考え直す、オフィスの意味 GMO社長の決断

GMOはこの手の意思決定と発表に迷いがなさそうに見えます。いかに考えて抜いてきたかが伺えるかのようでした。

売れるネット広告社(2020/05/26追加)

加藤公一レオさんのfacebookに投稿がありました。

なんと約3,700文字の長文でした。要約すると「全社員 出社」の一言に尽きます。サイバーエージェントも出社寄りでしたが、売れるネット広告社は勤務形態に月曜休みといったリモート余地を一切残さないあたり、清々しさを感じます。遠隔会議などは積極活用されるようです。

緊急事態宣言が発表されて約1ヶ月半、売れるネット広告社は「原則テレワーク」にしていましたが、解除されたので『全社員 出社』に戻すことにしました

個人的に注目したいのはこのポイントです。

テレワークが解除された会社で働いている方で、テレワークに慣れてしまい、出社することをネガティブに考えている方もいるかもしれません。ただし、まずは大前提として、テレワークは「特権(privilege)」であり、「権利(right)」ではないことを再度認識してください。

真正面から大前提を伝えているという点で「らしさ」を感じます。ここまで単刀直入に言ってる広告会社は今のところ他に知りません。この後に続くメッセージは会社員なら一度見ておいたほうが良いと思いました。

余談ですが3月の私は、レオさんのfacebook投稿で触れられている「今年のボーナスやばい」と思っている程度の会社員だったのでドキッとしました。内緒ですよ。

オプト(2020/05/27追記)

オプトはリモート寄りに舵を切った形ですね。本社ビルの一部解約まで含まれているので、今後もリモート寄りの意思決定をしていくようです。広告業界に限らず「オフィス費削減」とセットの発表が増えてきました。

5/26にオフィシャルでもリリースされていました。鉢嶺さんのツイートのほうが生の声として今後についての情報量が多く、想いが伝わってきますね。

サイバーエージェント(2020/05/25)

藤田社長がブログで語っています。

まず、大部分の仕事がリモートワーク可能と言っています。

当社の場合、やろうと思えば大部分の仕事がリモートワークで遂行可能ということです。それはやってみて初めてよく分かりました。

会社のカルチャーとの相性を考慮。

リモートでは一体感、チームワークは損なわれます。また、リモートではかなり極端に成果主義、個人主義に振らざるを得なくなり、それは当社の根本的なカルチャーと相性が悪いです。それらは数値には出来ないですが、当社にとっては強みが失われかねない由々しき問題です。

その上でだいぶオフィスワークに戻す寄りの意思決定をしています。

・無駄な移動を伴う会議、9人以上の会議は原則Zoom
・月曜は全社員リモートワーク(=それ以外は出社)
・6月の状況を見て、再検討

その一方、オンライン営業特化という取り組みを2018年からしているのが、サイバーエージェントらしくて強いなあと思うところです。

アナグラム(2020/05/25)

公式twitterと質問箱で語られてました。

質問箱ではこのように書かれていました。

出社について
・希望者のみ最大週3回まで出社OK
・出社受入人数合計1日14名まで出社可(様子を見ながらですが、徐々に許容人数を増やします)
その他
・出社希望者はGoogleカレンダー上で「事前申請」
・出社時マスク、手の消毒、ランチ時などもソーシャルディスタンス必須
・座席表で同じ島のメンバーが出社する際もどちらかが別の島に移動
・出社時は2か所ある扉を常に開放しておく
・出社時も別で勤務時間をカバーできていれば8時間オフィスにいる必要はありません

リモートと性善説に振り切った意思決定が、アナグラムらしくて素敵です。元々リモートと相性が良い組織&価値観であったように思います。

Google

Googleは私が勝手にリモートライクな印象を抱いていましたが、そうでもないようです。

Pichai氏は、「いつもは一緒に働いていないさまざまなチームが集まってブレーンストーミングをする、クリエイティブなプロセスで、われわれは素晴らしい生産性を発揮する」と述べた。

facebook

見出しが先行しているけど、中身は実に厳しいことが書かれている。

私は「一部」という表現が気になりました。そして以下の文章を見てアフターコロナの永続的なテレワーク(リモートワーク)はハイパフォーマーの特権なのだと解釈しました。

どのような場合にテレワークが認められるかについては、「多くのニュアンス」があると語った。永続的な在宅勤務を認められるのは、経験があり、直近で優れた実績を上げている従業員だという。また、所属するチームがテレワークに対応していること、さらにグループリーダーから承認を得ることも必要になるとした。

末尾に「新卒や経験が浅い人のリモート雇用はしない。」ともあります。「今後5~10年の間にFacebook従業員の約半数がテレワークになる可能性がある」と言っていることを踏まえると、新卒や経験の浅い人材の採用が渋くなるかもしれません。

twitter

ツイッターもこのニュース発表後はタイムラインで賑わいましたね。

羨ましい的なツイートも多々見られましたが、個人的には怖さを感じました。twitterにも「一部」の2文字。1年ほど経ったらtwitterやfacebookの人に「無期限リモートークを希望したのはどんな人で何割くらいか?」「出社せずにパフォーマンスを出し続けているのは、どんな職種のどんな人?」「逆にリモート脱落したケースは?」と聞いてみたいです。

雑感

・リモートワークの推進=「良い会社」と単純に思いがち
・実態は個人主義、成果主義へのシフト

調べていくほどリモートワークの推進は、経営判断として「成果主義、個人主義」に移行するジャッジに対して、どれくらいアクセルを踏み込んでいるのか?の表れだという見方に変わりました。

そう思うと、現時点でオフィス削減するのはだいぶアクセル踏み込んでいる方ですね。オフィスを残しているうちはどちらにも舵を取れます。

そして外資におけるアフターコロナの永続的なリモートワークは「一部」もといハイパフォーマーの特権になるようです。少しばかり暴論ですがGoogle、facebook、twitterは言い方と表裏どちらが見えているかだけで、根本は大して変わらないように感じました。

元々そうだった外資よりも、そうではなかった日系企業のほうがインパクトが大きい気がしていて、その動向や業績は引き続き追いたいところ。

「個人主義」「成果主義」に踏み切れない企業も多くありそうな中、サイバーエージェントは決める過程を「カオス」と表現しつつが強みを活かすために「出社」なのであると、5/25に対外的に出したのが凄いと思いました。

さいごに

・仕事に対してどんな価値観もっているのか
・どんな価値観の会社で働くのか
・どんな働き方をしながら
・どんな価値を会社に提供するのか

最後に怒涛の「どんな」押しですが、これらが重要になりそうです。広告に限らずデジタル人材はリモートの働き方次第で、価値観の合う同業他社へ移籍を検討する新しい転職軸が誕生する瞬間なのでは?と感じました。

今まではコロナありき、人命ありきで「遠隔でも仕事ができるから」という理由でリモートワークをしていましたが、今後はそうじゃなくなる。「個人主義」「成果主義」とのトレードオフで得られるもの。自分が望む、望まないに限らず、それはやってくるかもしれない。と思うことにします。

そんな私はもう田園都市線の満員急行電車に乗れる気がしないので、週1-2回出社するハイパフォーマーでありたいのでした。

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