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宮沢孝幸准教授、 藤井聡教授が語った「ライブビジネスを安全に再開する方法」

先日、SUPER DOMMUNEで「Talking About With / After CORONA『ライヴエンターテインメントの行方』」と題したトークセッションが開催されていました。

ものすごく有意義な内容で、僕としても、いろいろと目から鱗が落ちる内容だった。普段はアーカイブの残らないプラットフォームなんですが、これは広く沢山の人に伝えるべきだということでYouTube上にアーカイブが公開されています。

第一部、第二部、第三部、そしてDJセットの第四部という合計5時間の内容。全編、とても興味深い内容だったのだけれど、特に印象的だったのが「新型コロナウイルスと共生するライブミュージック」と題した第三部だった。

パネラーは

宮沢孝幸(京都大学ウイルス再生医科研究所准教授)
藤井聡(京都大学大学院工学研究科教授)
清水直樹(クリエイティブマン・プロダクション代表)
加藤梅造(LOFT PROJECT代表)
林薫(京都 CLUB METROプロデューサー)

という面々。事前に告知されていたサカナクションの山口一郎さんは体調不良で急遽不参加となった。いわゆるライブハウス事業者とコンサートプロモーター、そしてウイルス学やリスクマネジメントの専門家によるセッションで、テーマは「コロナ禍以降ライブビジネスはどんな打撃を受けたか」そして「ライブビジネスを安全に再開する方法はあるのか」。

ここ数ヶ月はずっと悲観的な話ばっかりだったので、宮沢孝幸准教授、藤井聡教授の、「ちゃんと根拠のある合理的な対策を徹底すれば、満員に近い状況でもライブハウスの営業を再開することができる」という話は、とても刺激的だった。ポジティブで、熱い語り口で、かつ実証と知見に基づいた知性的なロジック。とても勉強になった。

最後に、藤井先生が「こういう議論をしていると音楽業界の人間が自分たちのためにやっていると思われる。でも、そうじゃない。でも、音楽というものは、公共的なもの。パブリックのためにある」と言ったのも、宮沢先生がライブ事業者に向けて「みなさん被害者です。もっと怒ったほうがいい」と言ったのも、とても印象的だった。

以下は動画からの書き起こしまとめです。

ソーシャルディスタンスの意味と飛沫感染のしきい値

――今のライブハウスのガイドラインはどう評価しているか。

宮沢「前々からライブハウスでも安全にやる方法があるから再開できるということを言ってきた。国が定めた『新しい生活様式』にソーシャルディスタンスをとるということがあったが、僕らのようなウイルス研究者からするとナンセンス。業種によってはソーシャルディスタンスを守れないところがある。そうしたときにどうすれば安全にできるのかを提言するのがウイルス研究者の役割」

――ソーシャルディスタンシングというのはどこから言われたことか。

宮沢「そもそもはアメリカのCDCやWHOが前回のインフルエンザの感染拡大のときに言い出したこと。2メートルのソーシャルディスタンシングが必要というのは、マスクなしで会話するときに飛沫がそれくらい飛び散ると言われたことからの対応。しかし、マスクをしていれば飛沫は防げる。欧米ではマスクを忌み嫌う文化があるので、ソーシャルディスタンスという考え方が出てきた。日本ではマスクの文化があるのでそれを取り入れればいい」

――飛沫がかなりの距離を飛ぶという実験もあるが、感染のリスクは。

宮沢「飛沫を浴びたら即危ないというのは、ウイルスの感染実験をやっていない人の発想。感染が成立するためには、ある程度のしきい値を超えることが必要。ウイルスごとに異なり、少量でも感染するウイルスもあるし、大量に浴びないと感染しないウイルスもある。いずれにしても1個のウイルスでは感染しない。しかし今行われている飛沫のシミュレーションではそのことが完全に無視されている。ウイルスが漂う間に感染性を失うことも言っていないし、何個のウイルスを吸い込んだら感染が成立するのもわかっていない。にも関わらず『これだけ飛沫が飛ぶから危ない』と喧伝するのは全くナンセンスな話。それをちゃんと説明してないのはウイルス研究者としては非常に腹立たしい」

空気感染と大規模イベント

――空気感染するという話があることについては。

宮沢「たしかにゼロではない。ただ、基本再生産数(R0)の数字を見れば、空気感染しないというのは明白。常識では、しないと断言していい。特殊な条件下でエアロゾル感染するという状況はある。けれど、それはごく稀であって、無視していい。たとえば交通事故が起こるからと言って全ての車を動かすのを止めるのではなく、交通ルールを守ればいい。けれど、今回のコロナに関しては誰もがゼロリスクを求めてしまっている」

――5000人以上のイベントは自粛という話もあるが。

宮沢「まったくナンセンス。麻疹のようなR0が12〜16のような感染症、空気感染するウイルスであればやってはいけない。警戒しないといけない。しかし今回のウイルスの感染経路はあくまで飛沫、あるいは接触感染であるので、感染者の周囲数名しかリスクがない。1000人だからダメ、1万人だからダメというのは理屈がおかしい。たとえ10人であってもリスクは同じ」

「念のため避けておくこと」と「絶対やってはいけないこと」

――藤井聡先生は「「半自粛」のススメ」ということを提言しているが。

藤井「僕の研究はリスクマネジメントやリスクコミュニケーションで、ウイルス学の専門である宮沢先生からレクを受けて、ウイルスの感染のメカニズムをしっかり理解した上で、それを止めるためにどういう社会政策をやったらいいのかということを研究してる人間です。京都大学のレジリエンス実践ユニットという危機管理の研究所に宮沢先生に入っていただいて、パンデミックを防ぐための研究を、経済学、心理学、都市計画、環境衛生の人間をまとめながらやっている人間です。安倍内閣の内閣官房参与を6年つとめて、危機管理のアドバイスをずっとしてきました。『半自粛』のススメも3月か4月の時点でまとめて公表して、安倍内閣や自民党の人間に全部提言しています」

――「半自粛」のススメとは。

藤井「政府の専門家委員会の自粛は『とりあえず、念のため』の自粛なんです。自粛することのコストがゼロだと思ってる人はやればいい。世の中には『絶対やってはいけないこと』と『一応やらないほうがいい』というものがある。『やらなくていいけど、やっておいたほうがいい』ということもある。とにかく無駄が多い。その一方で『絶対やってはいけないこと』を言ってない」

――絶対やってはいけないこととは。

藤井「ウイルスの感染には3つのルートがある。ひとつは空気感染、ひとつは直接飛沫感染、もうひとつは接触感染。多くの医師たちは、空気感染と直接飛沫感染はほとんどないと言っている。一番多いのは接触感染。飛沫を触った手で目鼻口を触ること。だからウイルスの感染を防ぐために最も効果的なのは『目鼻口を触るな』ということを徹底すること。顔を触らないことで感染のリスクを減らすことができる。このことが、政府や専門家会議から言われていない」

ライブハウスを安全に営業するために

藤井「ライブハウスを運営するときに一番大事なのは、観客と出演者の全員に『目鼻口を触るな』ということを徹底すること。それで接触感染が防げる。となりで大声で喋っていたら直接飛沫による感染が生じるが、それもマスクをしていれば大丈夫。2メーターという距離も無駄でしかない。喋らない人間が隣にいても感染しない」

――満員電車でクラスターが発生していないというのは。

藤井「そのことは、国土交通省に説明しました。『目鼻口触るな』『換気しろ』『黙れ』。しゃべるときにはマスクをする。これだけ。これを徹底する。それがいろんな交通機関のポスターに貼っています。この三つさえ守れば大丈夫。ただ超満員電車だけはやめといたほうがいい」

藤井「世の中はもう変わっている。実際に電車は動いているし、山手線では2メーターの距離をとって乗ることは不可能。実際、なし崩し的にソーシャルディスタンスは解かれている。しかも、統計分析によると交通利用者数が伸びても感染は広がっていない」

――ライブハウスを安全に営業するためには。

藤井「観客も出演者も、とにかく目鼻口を触らない。マスクを奨励する。30分に1度は換気する、それを徹底すればライブハウスでの感染はない。100%ないとは言い切れないけれど、99.99%はない。ただし、実は一番ヤバいのは、帰りに打ち上げで酒を飲んで、大騒ぎして喋ること。イタリヤやスペインでも、チャンピオンズリーグの大一番でイタリアのチームが勝って、そこで一晩中大騒ぎしたことがきっかけになっている。武漢でも宴会から広がった。ライブハウスのライブそのものの安全性は非常に高い。ただその前後の飲み会は危ない」

加藤梅造(LOFT PROJECT代表)「実際にクラスターが生じたライブハウスを調べたら、どこも終わったあとの握手会や物販で接触ビジネスをやっていたところだった。そこを気をつければ大丈夫だったかもしれない」

藤井「宮沢先生の監修で、僕らが提言している環境下で、町田のライブハウスで、それなりにお客さんが入った満員に近い状況でやってみようと思っています。現地も視察して、換気もできる環境で、安全に営業する。あと大事なのは食事を出さないこと。お菓子などであっても、口を触ってしまう。飲み物はボトルのドリンクで注意して出す」

藤井「公共交通の状況が社会的に是認されているのは、そこで感染が拡大していない実態があるから。つまり、宮沢先生の監修のもとでライブハウスを営業して、どういう意味で安全なのかということをちゃんと話をする。それをメディアでしっかり報道する。業界の関係者にも伝えて、そこと同じような形で別のライブハウスが営業する。そこで感染が広がらないということを広めていけば、そこにあわせて厚労省のガイドラインがバージョンアップされると思います。そこが一歩前進になる。そうやって変えていけば、1年後には採算ラインを超えるようなライブを営業することは可能。感染者を出さない形でライブを再開する未来は作れる。道があるので、そこを歩むしかない」

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