消費型Vtuber商売、とてもこわい

これは消費型のVtuber商売の難しさを解く記事である。
特定の企業、タレント、商品を批判するものではなく、一貫して広告・売り方の手法についてメリットデメリットを具体的に紹介する意図で書く。

書いていたらだいぶ長くなってしまったので、今Vtuberやっていてイベント型オーディションに参加しようという者は「消費型Vtuber商売とは -アンバサダー・イメージモデル系の場合-」の章まで飛ばしてくれ。

ごきげんよう、吸血鬼と人間のハイブリッドレディ。
バーチャルタレントの九条林檎だ。

我は所謂個人勢と呼ばれるバーチャルタレントだ。
バーチャルタレントという呼ばれ方に今の所強いこだわりがある訳ではないのでVtuberと呼んでもらってもバーチャルライバーと呼んでもらっても構わない。要はそういう類の人だ。

消費型Vtuber商売の先駆け

我は消費型Vtuber商売先駆けのファンファーレみたいな出来事でデビューした。
古いVtuberギークの皆様ならばピンとくるだろう、俗称「バーチャル蠱毒」だ。

知らない者の為に説明すると「バーチャル蠱毒」とは、
pixiv×TWIN PLANET×SHOWROOMの三社で構成されたAVATAR2.0 projectが主催する「最強バーチャルタレントオーディション~極~」(以下極と呼ぶ)の俗称であり、
5名のキャラクターのデビューをゴールとして、キャラクターごとに12~13名の候補者を公開、全員そのキャラクターとして配信させて視聴者が投げることが出来る配信サイトSHOWROOM内のポイントの多寡で最終面接に進む者を決めるというものである。
詳しいことが気になる方は是非とも「バーチャル蠱毒」で検索してみるといい、多くの事がまとめてあったNEVERまとめが消滅したとはいえまだまだネット上に沢山当時のことをまとめた記事がある。余裕で2時間は潰せるだろう。

その手のギークが同じ人がいっぱいと聞いて思い浮かぶものと言えばエヴァンゲリオンの綾波レイなどか。
その様の異様さと合格できなかった候補者はどんなにファンを集めても消滅するというルール、候補者の「消えたくない」というツイートがバズを起こし、「バーチャル蠱毒」は開始3日ほどでトレンド入りした。

丁度Vtuberとその演者の人権を中心とした権利問題が取り沙汰されていた時期だったのもあって界隈でまあ話題になった、デビューしたての知名度なんて当時はたかが知れているものだったが、当時Vtuberを齧っている者には「バーチャル蠱毒」の人と自己紹介すれば「ああ!あの!」と言ってもらえたものだ。実に稀有で得難い経験である。

消費型Vtuber商売とは -デビューオーディションの場合-

さてこれはわかりやすい消費型Vtuber商売の例だ。
この形のオーディションに共通する事柄として以下が上げられる。
ファンは自分の推し候補者を残す為にシステム上時間か金のいずれかを消費することを求められる。
演者は報酬のないままにオーディション期間のだいたい1週間~1か月ほど働き、合格できなければそのまま自分の実績にもできずに終わる。

こういった形態のオーディションは当たれば運営側は演者教育・プロデュース等のコストをかけず、ごくローコストでリターンを得ることが出来る。演者によってはごくまれだが一晩で100万円を売り上げることだってあるのだ。
極の場合は一流のイラストレーターに依頼し、半内製とはいえ3Dモデルを用意したので一概に全てのオーディションがコストをかけていないとは言えないがな。

実に17歳だった当時の我はこういったことはよく行われていて、それがわかりやすく表に出てきただけだと残した。
今でもこう思っているがしかし、昨今はあまりに表に出すぎているきらいも感じる。

配信サイト系の文化である、一人の演者が少数の投げ銭率の高いファンを抱えて短期間にはなりがちなもののローコストハイリターンを取る形とVtuberそれそのものの将来性と生ものとして尊ばれる文化が悪魔合体したものと言ってもいい。
これ自体はあくまで手法の一つであり、演者も運営も視聴者もメリットデメリットを把握して意図的に選んでいるのであれば問題はないと思うのだが、
どうも把握の輪からあぶれている者をよく見かけるので当事者のかたまりのような我からメリットデメリットを伝えたく思う。

消費型デビューオーディションのメリット

まず運営側のメリットとしては比較的収益性が高く、しかも即効性があることだ。
推しをこれからも見ていたいという気持ちは何物にも代えがたく、オーディション全体の視聴者の母数が増えれば増える程競争で激化し、時間の消費だけでは追いつかなくなり、投げ銭での勝負に移行しやすい。
演者側から言うと早い段階で表に出られるので面接より実地パフォーマンスの方が得意な演者など普通のオーディションで見つけられないタイプの才能を発掘しやすい。
我は完全かつ不可逆的にこのタイプだ。我の能力とオーディションの特性がこれ以上ないくらい噛み合い、デビュー前にも関わらずフォロワー数は2000を越えた。本当に前歴なき噛み合い方をした。
これもまとめを探すとしこたま出てくるので暇な時にでも読んでみてくれ。

また個人的にあまり見かけないが実績にならないことが逆に演者にとって利点になる場合もある。
オーディションに受からなかったら綺麗さっぱり挑戦した記録ごとなかったことにしたい場合だな。大抵は最初のオーディションで落ちて諦めずに次に行く方が多いので、如何にファン集めようと落ちたという記録が本人に結びついていれば不利になる場合もあるだろう。

普通にやっても話題にならないことがオーディションになった途端話題性を獲得することもある。そういう意味では物事を救済する手段にもなり得るだろう。

さてこれらはメリットだが必ずもたらされるものではない。
消費型Vtuber商売の難しさとしてデメリットと共に確認していこう。

消費型デビューオーディションのデメリット

まず全体に言えることとして話題性を得られないと計画全体が駄目になる。
ローとはいえコストをかけている訳だから、誰にも注目されず各候補者配信中3名身に来ればいい方なんていういわゆる大爆死の状態に陥れば、リターンはゼロになる。

こういったオーディションで運営側が演者を演出することなんて稀だ。
例えばそれぞれの特技や魅力をまとめた記事を出して視聴者の入り口にするだとか、既にデビューしていて安定的に喋れる者とトークさせてみて一人喋りではわからない魅力を発掘してみたりだとかだ。
やったらきっと面白いと思うのだがこれはある程度投資も必要で、故にローコストの利点がなくなるから誰もやらん、それにやったら消費型とは言えなくなるだろう。

我はいつかオーディションの形でなくて全くもって構わないのでこういったことを一から我の手でやってみたい。極当時も言われていたが我はある程度裏方気質があるのでその時には演者としての自分を活用しつつ、皆々様が心よりわくわくできる展開作りというものに力注ぎたく思う。

話が逸れたな、運営側がそういう演出や教育をしないというのはコストカットできる利点もあるが逆に言えば100%演者任せになるということだ。
演者が全員プロデュース、つまり見たいと思わせる力が弱かったり、そのベクトルが噛み合わなかったりすればちゃんと失敗する。
我だって一番最初の候補者の「消えたくない」からトレンド入りという火種があったからこそ場を定義し、アジテーターとなれた訳だ。
トレンド入り前は全体ランキングでも下から4~6番目という有様、完全に1を10にする方が得意なパターンだ。

またこれでオーディション中投げ銭が分配されないことは多く、演者はその間無償労働になる。しかも最近はこういうオーディションが繰り返された結果演者視聴者双方に経験者が増え、完全に定石が出来上がってしまった。
そしてそれは一日の多くの時間を配信に費やすことが基本で、普通に働いていたりすると難しい場合が多く、会社員や学生には不利な内容となっている。
これの何が一番問題かというと定石に特化した者がデビューする可能性が高まり、長く配信すること、がむしゃらに配信すること以外の頑張り方を知らないVtuberとなってしまいやすいのだ。
もちろん長時間配信できるのもがむしゃらに頑張れるのも素晴らしい才能なのだが、似たVtuber増えればその分生き残るのは難しくなる。
後述するがそういうオーディションを主軸とした配信サイトのイベントでは定石は定石故に非常に強いので問題ないがその外に出れず、定石の性質故に転職したいと思った時のキャリア形成が難しくなったり、果ては健康問題にも発展することがある。

演者側の話でいけば完全なる原石型、一人で喋っても目を引かないが台本を貰うと急に面白くなるなどするタイプの才能、所謂プレイヤー型の場合この形のオーディションではまず見出されない。
不合格というのはその人が劣っていることでは絶対ないのだが、それでも自信というのは折られやすい。そこで「簡単に折られてしまうような器だった」などと根性論を出してくるのは完全な間違いで、我々は素晴らしい才能とそれから生まれるコンテンツを得る機会を半永久的に失ってしまったということなのだ。
だからといって全員にきちんとした演出をし、それを全部確認する暇なぞないというのも正しい。我はここは運だと考えている。
スターに必要な才能に根性は含まれていないが運は不可欠だ。そういう時代で、社会だ。

まあそういった場合、特に直近不合格を出されたサークル、あるいは企業Vtuber志望の皆々様は一回オーディション形式がまるきり違うものを重点的に探すのをお勧めしよう。
もちろんチャンスが沢山あるに越したことはないので今不合格に負けぬ気持ちがあるなら出てきたもので条件がきちんとしているもの全部受けよう。
チャンスは努力によって最大化できるぞ。

消費型Vtuber商売とは -賞品・アンバサダー系の場合-

熾烈なデビューオーディションを越え、デビューしたVtuber。
消費型の場合特にプロデュースは入らないことがほとんどだ。動画を出すことも稀で、ではどうやってやっていくのかというと配信サイトでやっているイベントの戦いに身を投じていく場合が多い。我も実際デビューして1~2年はそういった感じだった。

イベントとは賞品型出演型の二つに大別される配信者向けのオーディションになる。
賞品型は良い結果を残せば何か賞品、例えばAmazonギフト券がもらえたり、人気なものはMV作成、楽曲制作などして貰える。
出演型は飲食店などにイメージモデルとして立て看板を立ててもらえたり、番組への出演権を得たりするものだ。

そういうオーディションで消費型かそうでないかの個人的な分岐点は
①公開型である
②報酬は出ない
③視聴者・演者の時間か金、インフルエンサーとしての価値を消費するものである
これ全部を満たすものが消費型だと定義している。
つまり形式にもよるが極論二次選考以降の参加者全員に参加賞があってそれが演者・視聴者にとって価値あるもの、だとかであれば消費型でないといっていいと思う。場合によるところあるがな。

これもデビューオーディション同様かそれ以上に真のメリットデメリットが知られていない。
特に最近イベント型の配信サイト以外でこういうイベントが行われることが増えた。

最近で大きいところだとドワンゴのVTuber Fes Japan 2022関連だろうか。これはVTuber Fes Japan 2022への出演権を得る「出ようぜ!VTuber Fes」(以下"出ようぜ")が有名だがつい先日VTuber Fes Japan 2022 アンバサダーオーディションが公開された。
これが気になって調べてみたら違う方式のようだが"出ようぜ"同様また消費型だったのでこの記事を書く動機となった。

イベント終了直前に集中させるだとか、システムに合わせた配信時間の開け方だとかいう定石を知らなかったりするイベント型オーディションの経験なき者がVTuber Fes関連に限らずイベント全般にメリットデメリットを知らないままに参加し、意図せぬデメリットの食らい方をしない為にも、メリットデメリットな紹介出来ればと思う。

消費型賞品・アンバサダー系オーディションのメリット

店舗側がこれを配信サイトで開催する時の一番のメリットはほとんどコストをかけずにナノ・マイクロインフルエンサー複数人に宣伝してもらえる点で、場合によってはイベント中の投げ銭を分配、つまりコストがかかるどころか収益が発生するかもしれないというのもある。
わかりやすくドワンゴの"出ようぜ"で言うと参加者のファンは全員本体のVTuber Fesのことを知ることになるし、ニコ生ポイントでも争うことになるのでさらに本体のドワンゴが潤うという方式である。

参加する側のメリットは兎角コネクションをもっていないものに出たり、作ってもらうチャンスが生まれるという点だ、これに尽きる。
また本体が大きければ残念ながら優勝逃したとしても決勝に残れたことが場合によっては実績に出来る。
また活動の緩急をつけるのにも役立つ場合があるな。長くやっていると活動がマンネリ化することもあろう、そういった場合に一つイベントをゴールとしてファン共々一致団結することで普段の積み重ねがより映えるというものだ。実際記念にもなるしMVやグッズ、実績などがより思い出深いものになる。
これは視聴者、演者共に何物にも代えがたい感動になる。

また場合によってコネクションも生まれる、普通に活動していて交わらないような人の名刺をもらえる。何かそのジャンルで今後やりたいが相談窓口がないなんていうことになった時その名刺に書いてあるメールアドレスへメールが出来るのだ。
これはだいぶ大事なことなのでメリットとしては比較的大きいと思う。

視聴者としても推しがイメージモデルとなった飲食店に行ったり、新しいMVが見れるというのはなんとも嬉しいものだ。
そのイベントによって細々あるが大きなメリットとしてはこんな感じだろうか。

消費型賞品・アンバサダー系オーディションのデメリット

沢山のイベントの開催と終了を見てきたが、実施店舗の閉店率が凄まじい。
感染症が流行する前からの話なので推測するに宣伝に金を掛けられない経営状況、あるいはそもそも掛けない経営、ナノ・マイクロインフルエンサーへの期待でイベントを開催する場合が多いのではなかろうか。
残念ながらイベントではTwitterやTikTok、インスタグラムでバズるような大きな効果はあまり望めないのが実情だ。
もちろんそのVtuberゆかりの地としてVtuberのファンが定常的に訪れてくれたり、イベント後しばらく売上が上がったりはあるそうだ。
ここまで話しておきながら店舗側の明確なデメリットというのもない。
しかしそれだけに頼ったり起死回生の案にするのはあまりお勧めしない、あくまでも主軸がしっかりしていてそれをブーストできるのがイベントと捉えてもらえたら幸いだ。

アンバサダー系で参加側のデメリットで一番大きなものは、一言で言えば「次の仕事に繋がらない」だ。
大抵の場合はブランディング力高めたり広告効果を出す為にアンバサダー系に参加すると思う。
我もいくつかそういったものに参加したがそれを活かして今後の土台になるほどバズれるのはごくごく稀だ。一時の話題にできることもあるがこれもレアケースであるしほとんどが一過性だ。
これは広告効果を見込んで参加したイベントではないので別に良いのだが、我自身も大きな有名な都心の街頭広告をイベントで勝ち取ったことあるし、カフェのイメージモデルになったこともあるが、TikTokを始めた時の方が余程YouTube配信の視聴者数が増えた。

しかしまあそれでもバズのチャンスが全くないよりはいいので様々なデメリットと天秤にかけて自分の中でメリットが勝ったら是非挑戦して欲しい。

そしてなにより問題なのが「タダで働いてくれる人」になってしまうことだ。

配信サイトでやっているアンバサダー系は合格したとて報酬が出ることほとんどない、グッズを作って分配を貰えればいい方だ。
人間というのはわざわざコストをかけようとする人はいないことはないがなかなか稀有で、また同じことをやるとなったら前回アンバサダーをしてくれた人に声をかけるのではなく、また新しくイベントをやって新しい優勝者をアンバサダーにする。
そして参加した者に同じようなアンバサダーの仕事が来る訳でもない。実績には出来るが我はあまりわかりやすく役に立ったことはないぞ。

理由はほかにもファンが摩耗しすぎるとか長時間の配信が日常生活に差支えがあるとか色々あるがその中で、
そういうことを続けているとそのうちイベントで勝ち取らないと、無料じゃないと出演できない人になってしまうのではないかとそう思って我は配信サイトのイベントに定常的に参加するのをやめた。

もちろん無償だとしてもメリットの方が大きい出演などはある。
個人的に大きなこととして、イベントに長い時間かけて無償で出演するより、イベントにかける時間をコンテンツ作りや有償労働にかけた方がコンテンツの質は高まると判断した。しかし未経験の方などは意外とイベント参加時に自分の費用対効果が見えていないことがあったので我の考えとさせてもらった。

費用の部分で言えば最初に上げた消費型分岐点③のインフルエンサーとしての価値の消費も大きい。
SNSは何投稿しても伸びるということはない、もちろん過去やSNS外での積み重ねで日常の投稿が伸びるということはある。
がしかし"出ようぜ"の例で行くと該当のタグをつけたツイートのRT数での審査などがあった。
Twitterのフォロワーというのは宣伝というものを嫌がる傾向にある。Vtuberのフォロワー(必ずしもファンではない)のVtuberに対しての気持ちを消費し、VtuberのファンのRT先のフォロワーの気持ちを消費する。
こうなるとどうなるかというと伸びてほしい自分のコンテンツ伸びにくくなるのだ。
これをしても揺るがないブランド力が既にあるならば問題ないが不安があるならばあまりおすすめはできない、次の仕事に繋がる保証もないので尚更だ。

普通Vtuberにツイートしてもらうというのはお金がかかることだ。どんなVtuberでもそれは変わりない。
それら踏まえて無料で宣伝する価値があるか判断し、あると思ったら参加してその力存分に振るってほしい。

あとこれは起こりがちなデメリットなんだが、賞品型は損をしていることがある。
街頭広告権獲得イベントがあったとしよう、イベントでは投げ銭が50万飛んでぎりぎり勝ち取れなかった、しかしその街頭広告調べてみれば20万円で1週間放映してくれるらしい。
これは悲しいことにジャンル問わず意外とよくある話なのでどうか気をつけてもらえたら幸いだ。
参加側に予算がなく、ファンから予算を集めるのも不可能な場合だとか思い出作りにしたい場合は勿論そのまま参加してもらえたらと思う。


まとめ

「若いうちの苦労は買ってでもせよ」と言うのはだいたい苦労を売る側の人間だ。
勘定に自分の将来性を入れるのを忘れずによく考えて、
自分で買う価値のある苦労だと思った時買ってくれ。