ウマ娘のエロ同人を作ることの可否について(法律解説)

以前からですが、サイゲームズの「ウマ娘 プリティーダービー」は実在する競走馬をモデルにしていることもあり、ウマ娘の同人活動について、ツイッター上で騒ぎになることが多いです。

そこで本記事では、簡単に法律解説をし、また、やや突っ込んだ検討をしていきます。

1.問題のサイゲームズの注意喚起

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上記文書は株式会社Cygamesのウェブサイトから引用

これは2018年6月20日に出された文書ですが、サイゲームズから表現に配慮するよう注意喚起がなされました。

このような声明をだすこと自体が異例なこともあり、ツイッター上では、ウマ娘の同人活動、とくにエロ同人は許されないのではないかという騒ぎが起こりました。

ただ、法律を誤解した騒ぎ方もありましたので、以下、解説していきます。

2.ウマ娘の権利者は誰か

まずは権利関係を整理していきましょう。

「ウマ娘 プリティーダービー」はアニメにしろゲームにしろ、様々な人間が制作に携わっているので、そこには、物語(言語の著作物)や絵(美術の著作物)など様々な著作物が内包されていますが、ここでもっぱら問題になるのは絵です。

「ウマ娘」には多数のウマ娘がおり、これらのウマ娘はシンボリルドルフやトウカイテイオー、オグリキャップなどの実在の馬(もうすでに死亡した馬も多いですが)をモチーフにしています。

それでは、シンボリルドルフなど実在の競走馬をモチーフに絵を描いたら、馬主に著作権などの権利はなにか生じるのでしょうか。

答えは簡単、馬主に著作権など発生しません

「ウマ娘」の絵は、あくまでもそれをデザインした方の一次著作物であり、二次的著作物ではありません。

また、たいていこのようなゲームやアニメを作る場合には、原著作物となる絵を描いた方から著作権の譲渡を受けているのが一般的ですので、通常、ウマ娘の著作権は株式会社Cygamesに帰属し、馬主はこれに関わる権利など持たないのです。

3.馬のパブリシティ権(最高裁が否定)

では、パブリシティ権のほうはどうでしょうか。

パブリシティ権というのは、人の名称や肖像などが、商品販売等を促進する「顧客吸引力」を有する場合に、この「顧客吸引力」を排他的に利用する権利のことです。

たとえば、サッカー選手のメッシを想定してみましょう。

メッシの名前も肖像もすさまじいまでの顧客吸引力を有しています。

同じスニーカーがあったとします。これを単に「スニーカー」として販売する場合と「メッシモデルのスニーカー」として販売する場合、どっちが売れそうですか? もちろんメッシモデルでしょう(嫌いな人は買わないでしょうがそれ以上に多くのファンがいます)。

これが顧客吸引力です。

競走馬にしてもそうです、競走馬には顧客吸引力があります。

たとえば、「ウマ娘 プリティーダービー」のウマ娘たちが全員架空の競走馬だったらこれほどの人気を集めたでしょうか?

否、それはありえないでしょう。

実在の競走馬の名称とそれにまつわるエピソードがあったからこそ、これほどの人気を博したと言えます。

というわけで「ウマ娘 プリティーダービー」は競走馬の顧客吸引力を利用していることは間違いありませんが、じゃあ、このような競走馬の顧客吸引力は権利として保護されているのでしょうか。

答えは否、馬のパブリシティ権は明確に否定されています。

※少し細かい話なのでここからは読み飛ばしていただいても大丈夫です。

そもそもこのようなパブリシティ権というのは、人格権に由来する権利であると最高裁は判示しています(ピンク・レディー事件(最判平成24年2月2日・民集66巻2号89頁))。

馬は人ではないので人格権なんてものはありません。

このような馬のパブリシティ権をめぐっては過去に裁判所で争われています。

有名なゲーム「ダービースタリオン」について、馬主23人が、無断で馬名を使用されたとして訴訟を起こした事件がありましたが、東京地裁(東京地判平成13年8月27日・判タ1071号283頁)もその控訴審である東京高裁(東京高判平成14年9月12日・判タ1114号187頁)も、現行法上、物にパブリシティ権などないとして請求を退けました。

また、同じく有名なゲーム「ギャロップ・レーサー」でも、同様に競走馬の実名使用が問題とされましたが、最高裁(最判平成16年2月13日・判タ1156号101頁)は、「競走馬等の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできない」と判示し、競走馬のパブリシティ権について明確に否定しました。この判決をもって、物のパブリシティ権に関する議論には終止符が打たれました

つまりはゲーム中で競争馬の名称などを許可なく用いても違法ではないとされた(馬主の許可は不要)のです。

4.そもそもサイゲが全馬主から許可をとっているとは限らない(法的には許可不要なため)

上記の注意喚起の文書では、株式会社Cygamesは馬主から許諾をいただいていることが明記されています。

しかしながら、こういった許可はそもそも法的に不要なため、全馬主から許可をとっているとは限りません(馬主からの許可は、あくまでも円滑に事業を遂行するためのものでしょう)。

また、許可をとるにしても既に死亡している馬も多くいるので誰から許可をとればいいのかわからないとなります(最後の馬主でしょうか?それとも現役時代の馬主でしょうか?)。

さらに、株式会社Cygamesは優等生的にきちんと許可を得るようにされているようですが、上述の「ダービースタリオン事件」や「ギャロップ・レーサー事件」のように、そもそも、ゲーム制作会社と馬主とは同じ方向を向いているとは限らず、対立関係に立っているケースもあります。

サイゲの上記文書にも馬主から許諾を得ていることは書いてありますが、全馬主から許諾を得ているとは書いてありません。

5.じゃあウマ娘の二次創作は自由なの?

このように、馬主からの許可うんぬんは不要ですが、ウマ娘の二次創作はすべて合法で自由というわけではありません。

ウマ娘の二次創作をする場合には、ウマ娘の容姿や服装などの基本設定をもとに作画していくことになります。

このような二次創作は株式会社Cygamesの著作権を侵害することになりますので、違法と言わざるを得ません。

そして、エロいからダメというわけではなく、合法違法の問題でいえば、エロかろうがエロくなかろうが絵を伴うものは全て違法と判断されるでしょう

※以下、すごい専門的な話です。今回のテーマとは関係ないので読み飛ばしてOKです。

知財高判令和2年10月6日の判決がひとり歩きして、全同人誌が合法みたいに思われている方がいるように思われますので念のためここでふれます。

(1)キャラクターは抽象的概念なので、キャラクターの概念そのものに著作権はない(これは従来通りです)

(2)アニメの翻案であることを主張する場合には、どのシーンの翻案なのかを特定しないといけない(単に登場人物の容姿や服装などの基本設定が一緒でオリジナルストーリーを展開しているというだけではダメ)

(3)登場人物の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分を許可なく描いたら複製権侵害になりうる

(2)の、翻案に関しての判示のみが独り歩きして、あたかもどのシーンなのかを特定しなければならないし、それを翻案したと言えなければ著作権侵害にならないかのようにみられていますが、著作権侵害は翻案だけではありません。複製権侵害がありますのでやはり同人漫画を描くことはほとんど違法となると見たほうが良いです。

6.馬主怖い理論について

ネット上では、馬主は怖いぞー、馬主は大金持ちだからな、馬主を怒らせたら同人活動なんてできなくなるぞというトンデモ理論がささやかれています。

相手が権力者だから従うけど、相手が弱かったら権利を踏みにじるつもりなのでしょうか。

これについては今まで解説したとおりです。

そもそも馬主が同人活動に口を出す権利はない

馬主は怒って訴訟をしたけど、見事に最高裁で完全敗北してます

敗訴したから物のパブリシティ権を立法しようという国会での動きもありません

・そもそも同人活動の多くは馬主が動くまでもなく、現状多くが違法です

これをさらに弾圧しようとするなら、著作権侵害の非親告罪化などが考えられますがフェアユースの法理も認めずにこれをやると日本の同人文化は全て瓦解します。

こういった文化をすべて破壊するような行為を政治家がしようとするなら、それに従うのではなく断固として戦うのが筋ではないでしょうか。

また、馬主とすると同人活動うんぬんよりも馬のパブリシティ権のほうが重要なので、働きかけるのであれば同人ではなく馬のパブリシティ権のほうになるでしょう。

7.サイゲは実際に著作権侵害で動くか?

※こっから私の感想です。

馬主が何か言うとすると、法律うんぬんではなくて、株式会社Cygamesに対して直接クレームをいれるくらいでしょう。

つまりは、株式会社Cygamesに対して、「この同人誌は許せないからやめさせろ」という話です。

株式会社Cygamesは当然、著作権を持っているので、同人作家に対して複製権侵害であるとして警告を発したり、損害賠償請求訴訟を提起したり、あるいは刑事告訴するなんて手段もあります。

じゃあ、実際にそこまでやるかと言われると、私見とすると、そこまでやらんだろうと思料します。

これはフェアユースの議論にも通じるのですが、サイゲの商売に関して、同人活動がプラスの影響を与えるのかどうかが大きいです。

株式会社Cygamesのグラブルやプリコネといった人気作品は、同人誌が非常に多いですが、これに対して著作権侵害で訴えたという話は聞きません。同人誌の中にはキャラクターイメージを著しく損なうようなものもありますが、黙認状態です。

同人誌はプラスの面もあればマイナスの面もありますが、グラブルやプリコネの同人誌は同ゲームの知名度をあげ、また、ユーザーをゲームから離れさせないというプラスの面が大きいので、黙認しているものと思われます。

もちろん株式会社Cygamesとしても個別にこれはやめてほしいという同人誌はあるでしょうが、仮に株式会社Cygamesが訴訟提起などの大鉈を振るえば、同社の作品全体の同人活動に萎縮効果が生じるおそれがあるので、この伝家の宝刀はめったに抜けません。

ただ、株式会社Cygamesは不要であるにも関わらず、馬主から許諾を得るなどしたため、馬主から強い要求があればやむを得ず動くこともあるかもしれません(同人活動弾圧による萎縮というリスクと馬主からの要求という板挟みになるので悪手だったのではないかと思料します)。

また、同人活動については著作権侵害でいきなり訴訟というのは多くなく、たいていはまず警告が来ますので、警告が来たらあらためるという選択もありかもしれません。

8.まとめ

・「ウマ娘 プリティーダービー」の同人誌は他の作品の二次創作と同様、違法になりうるが実在の競走馬が絡んでるからといって、他の二次作品以上に保護されているわけではない

・馬主が文句を言う権利はない

・本来馬主に権利などないが、サイゲは馬主から許諾を得たため、馬主から強く言われれば、サイゲが著作権侵害で動くことがあるかもしれない(その意味で他の作品よりもリスクは高い)

追記

ここでは同人誌について解説していますが、ウマ娘に限らず、自分たちの商売を阻害するようなおそれのある同人活動は普通に著作権侵害でやられますよ。

自社でも販売する可能性があるグッズ類とか工場まで使って同人グッズの範疇超えるレベルに流通させようとしてるものとか。

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