メタバース温故知新

概要

イラスト

このセカンドライフの雑誌はだいぶ前に買ったのだが、雑誌の写真や内容をアップロードできないという都合からあまり触れてこなかった。(表紙は商品画像として公開されてるものなので原則OK)
初版発行は2008年4月25日と古い雑誌なのだが、2017年のVRChatブームから火がついたVRアバター文化や、Vtuber文化、そして最近もまだ新規にメタバースが勃興してる(NEOKET、ChilloutVR、Lavender、ConnectChat etc…)のを踏まえて読み返すと、見えてくる事も違うのかな?と思う。

で、今回の企画(?)はズバリ
セカンドライフの雑誌から逆引き検索して、Webに残ってる情報をサルベージしてみよう!だ。
最初、雑誌の記事を書こうにも著作権があって見送っていたが、ふと(企業のプレスリリースとかならサルベージできるのでは?)と思い、Webに公開されてるならいけるぞ!という事で執筆している。

やはり、スマートフォンを知るならPalm(PDA)の歴史を知るといったように、メタバースを知るならセカンドライフの歴史を知るといった所。
まぁ、セカンドライフは現在もサービスを継続してるし、wikiにAPIの仕様とか載っている。
が、おれが知りたいのは”仕様”ではなく、文化と、歴史と、未来なんだ…だから雑誌という形で文化がまとまった媒体からひもといてゆく。

雑誌のおおまかな内容

さすがに「雑誌の内容をそのまま書く」のはできないが、おおまかに何が載ってるか?は記しておく。ここは表紙にも記載されてたり目次でも確認できる。

内容としては…カフェ巡り、企業や自治体の活用例、テクスチャやペイントの新規サービスの告知、観光地めぐり、モデリングの方法、お店を出そう!、バーチャルライブ(音楽演奏)、ファッション、セカンドライフ関連事業の起業

なんだ、この言い知れぬムズがゆさは……
当時、セカンドライフをやっていたわけではないのに、(懐かしい、そんな事もあったよね)という共感ベースの感情を抱いてしまう。
というのも、2008年から10年以上たった今でもVRソーシャル上でほぼ似たような文化が形成されているからである。人間、メタバースでライブしがち。
結局、技術が進歩しても人間の根本的な欲求や文化は変わらないという事を改めて確認できた。すごく当然の事なんだけど、事実として確認できた。

ちなみに、この雑誌に書かれてる推奨スペックのパソコンは
CPU:Core 2 Duo E8500(3.16Ghz) / メモリー:2GB / GPU:GeForce8800GT(512MB) といった具合。
それから10年以上経って、VRAMは10GBとか積まれるようになった。それでも人類はビデオメモリが不足してる。不思議だね。

サルベージタイム

あった。目論見どおり、企業のプレスリリースは残っていた。
それでは、雑誌から逆引きできた当時の文化を紹介してゆく。

2007年12月22日
「セカンドライフ」にナルト、悟空、ルフィが登場

こちらの内容はジャンプフェスタに合わせてセカンドライフ上で集英社が行ったイベントである。
Vket5でもナルトの企業ブースはあったので、10年以上の時を経てVRソーシャル上で繰り返されてるという事になる。

2007年11月12日
日本初!セカンドライフ内に就職活動ができるポータルSIM『ポジカル島』グランドオープン  〜神戸製鋼・住友ゴムグループなど参画〜

こちらの内容は住友ゴムさんがセカンドライフ上で求人・説明会を行った事例である。
こう、VR上で面接!とかはセンセーショナルにとりあげられがちだが、メタバース上での求人はもう10年以上前に行われていた。
そういえば、あつまれ どうぶつの森で会社説明を行う企業がちょっと話題になった事もあった(あつ森の法人向けライセンスなんてない)
人類は今後もメタバース上で求人し続けるんだと思う。
もっとも、VRソーシャルが本格的に流行ったら、人気の町にはガチな求人ポスター/広告システム貼られるんだろうなぁ…と思う。
将来「副業!VR World add で稼ぎましょう!」みたいなのがYouTubeの広告として流れてくるようになったら世も末なのか。

2008年2月13日
日本初のバーチャルワールド・アワード、「Virtual World of the Year 2007」受賞結果発表のお知らせ

2007年にバーチャルワールドの発展に貢献した、企業・団体・個人を表彰するものらしい。残ってるのは表彰結果の概要までで、Virtual World of the Year 2007の特設ページ自体は消えている。

2007年10月17日
Linden Lab副社長が「Second Life」のグローバル戦略を語る

これは「バーチャルワールドサミット2007」からヒットした記事です。
当時の盛り上がり具合とか熱狂がいい感じに現れてていいなと思ったのでピックアップしました。
中でも、アクティブユーザー100万人はまだまだ小さい、最終的に全員がセカンドライフのユーザーになる予想しているというアツい記述がアツい。
結果だけみると、そこまでいかなかったけどセカンドライフは今だにユーザーが活動してるいいメタバースになったよ…。

でも、この頃から考えたら、もしかすると今のスマホ決済のオプションに電子マネーやクレカ決済にかわってリンデンドルで支払う可能性があった事も0じゃない。
だから、セカンドライフで稼いでる個人事業主とかが「為替レートの問題で買い物がつらい…」なんてツイートを見る未来もあったかもしれない。
そんな可能性と勢いを感じさせる記事。

その他のメタバース

閑話休題で、雑誌に掲載されていたその他のメタバースを紹介する。
VRChatが流行って後続のVRSNSが開発されたように、セカンドライフが流行って後続のメタバースが開発されるという流れ、10年前もやっとる。

meet-me

2008年4月8日サービス開始、2018年1月31日サービス終了
ニコニコ大百科によると、釣り、虫取り、レース、カードゲーム、家造り、アバター、雑談、迷路 等の要素があったらしい。
ざっと見た感じ、今のVRSNSにありがちな3Dモデル持ち込めて、コンポーネント貼り付けて、プログラムも書けるっていう感じよりは、もうちょっとカジュアルにゲームっぽく遊べたメタバースみたい。

splume

2007年3月からオープンαテスト開始、没年不明
和製Second Life?3D仮想空間「splume」
上記の記事に詳しく書かれている。
Webをベースにメタバースを構築しようというコンセプトはVRでいうところのSTYLYに近いのかもしれない。
この路線は継続していれば(UIが対応できれば)スマートフォンとシームレスにつながったかもしれない。
サービス終了した時期は軽く調べた限りでは出てこなかった。

ダレットワールド

2008年1月16日発表、2008年2月クローズドβ、2009年9月29日終了
ダレット、3Dコミュニティ「ダレットワールド」9月29日をもってサービス終了
印象的なのは、上記の記事の「採算性を含め、あらゆる面から総合的に判断した結果、サービス終了するという結論に至った」という一文である。
もちろん、採算意外の要因はあるにしろ、黒字で利益を出してたらクローズするほどでもない。開発費をかけているわけだし…。
やはりこういうメタバースモノで長く続ける要因は経済性なんだろう。
実際、経済性を前提として組み込んでるセカンドライフは今もサービス継続できてるし。

他にも Vizimontomo、prum、はてなワールド、ai sp@ce、キャッスルパーティー あたりもある。
人類、メタバース無限に作りがち。

当時と異なるポイント

一通りメタバースをさらったので、昔と今で大きく異る点をピックアップしてゆく。

身体性
昔は、当然ながらボイスチャットがないプラットホームも多かった。
VRのメタバースでは音声を使った表現のみならず、手足も動かせる。
当然だが、フィジカルに依存したコンテンツ(ダンス、VRゲーム等)は現代のみにある新規性のあるコンテンツである。

アバターとメタバースの依存度
2007年~2010年頃のメタバースは、メタバースとアバターが依存関係にあった。
現在はVRMに対応していればメタバースに限らず、どのツールでも自分のアバターを使うことができるし、VRM非対応で独自のSDKでアップロードしなおしになったとしても、現在主流である3Dデータを販売する形式であれば、3Dデータを持ってる限りは同じアバターを使うことができる。
メタバースは無くなっても、アバターがなくなる事はない。
同様に、家具とかワールドとかも、メタバースに依存する事なく所有する時代になってる。

マシンの性能
当然だが、マシンの性能もあがってる。
大きな変革としては、ガジェットであるPC以外にも生活必需品であるスマホが普及していて、スマホでもそこそこなら3Dが表示可能という点だ。
スタンドアローンVR(Quest2)も、最適化されたVRコンテンツであれば意識的に比較しなければ見栄えのするグラフィックになったと思う。

まとめと未来

「経済」の重要性
今、VRSNSやアバターのメタバースの勃興があるように、過去にも3D空間のメタバースの勃興があった。
そして、上記に挙げたメタバースで今も残ってるのはセカンドライフだけだった。セカンドライフが残ったのは、システムが作り込まれてるとか、最初に人が居たからとか、APIの設計がいいからとか、色々な理由が言えると思うけど、今でも続く決定打は「経済」という要素なんじゃないかと思う。
やはり、プラットホームの提供者としても、そこで活動する人にしても、経済的に苦しくなればやめざるを得ない。
同様に、YouTubeが成功してるのも「YouTubeに投稿してるだけで生きてゆける」という「経済」によるものだと言えるんじゃないかと思う。

遅かれ早かれVRSNSは何かしらうまく経済のシステムを取り込む必要に迫られてくる。
(当然、稼ぐことが全てじゃないし、活動方針はクリエイターそれぞれの自由だし、価値観の強要はできない)
ただ、事実として「経済」を採用しているメタバース/プラットホームが生き残りやすいという事は過去の歴史から言えるんじゃないかと思う。
ただし、その経済がECサイトと連携することが答えなのかどうか?というのはまだ答えが出てないと思う。
ちなみに、バーチャルキャストはVR内決済が既にできてるけどあまり知られてなさそう……。

「3D/2Dアバター文化」は消えない。
仮にメタバースが全て滅ぼたとしても(それはなさそうだけど)、アバターとアバターを使ってコミュニケーションするのは楽しいよねっていう文化はなくならなそう。これはVtuberもしかり。
フィジカル(手足声)をもってして、なりきりチャットが進化した感じがする。

スマホとかも同様の事が起こっていて、IRIAMさんとかREALITYさんもそういう感じ。
(あれは「所謂、配信アプリ」というより「1:n型のアバターコミュニティ」の意味合いが強うそうだなと個人的に思う、スマホ上で形成されてるアバターのメタバース的な…)
ただ、2DにおけるVRMのような共通規格(強いて言えばLive2Dのファイルそのもの?)はまだなく、Live2D社さんあたりから外部からランタイムロードしてLive2Dアバター使うような何かって出ないのかな?って個人的には思ってる。

iモードやパソコン通信のテキストコミュニティから、画像共有のイラストSNSから、動画で顔出しするコミュニティから、3Dのアバターへ という階段を上がっている。これは解像度と扱えるデータ容量の増加によって、コンテンツが変容していった結果だ。

まとめ
VRSNSないし、アバターのメタバースはまだまだはじまったばかりだと思います。
求められるものは何なのか?とか、ユーザーの新陳代謝とか、コミュニティのローカルルールとか、PCVRとかいうてもオタクにしか流行らないよな…とか、課題、色々…。
いまいちど、過去の生き証人を連れてきて、何故飽きたのか?どこに不満があったのか?どうなったら良かったと思うのか?そういう事を聞き出すタイミングが来てるのかもしれない。
未来の答えは過去にあるのかも?
そんな事を、セカンドライフマガジンを読みながら思った。

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