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アイドルオタクが突然スポーツ(ラグビー)のオタクになった話

「スポーツ」という存在は、自分の中で一番遠くに在って、この先もきっと関わる事が無いのだろうな、と幼い頃から思っていました。
自分でもスポーツらしきものはやった事が無いし、周りにもやっている人が居ない。ルールが分かる競技も1個も無い。
女子校育ちで、日々忙しくアイドルを追っていたらスポーツというものに触れる機会が一切無かった、というのが実情でしょうか。
ニュースでスポーツの話題が流れると反射的にチャンネルを回してしまうような、そんな人間が突然ラグビーの沼にハマって、実感した事を書いてみたいと思います。


■ラグビーオタクとして第二の人生が始まった日

2017年の夏の終わり、私は人生で初めてスポーツ観戦という物を体験しました。
運動不足解消のため通っていたスポーツジムで知り合った男性が、学生時代ラグビーをやっていたと言い、
「身体の大きい人たちがぶつかり合うスポーツ」くらいの認識だったけれど、面白そうだったし、ちょうどその時リーグの真っ最中で試合があると言うので、誘われるがままに見に行く事に。
(※ラグビー界では2015年のワールドカップで日本が強豪・南アフリカを破る劇的な勝利があり、五郎丸選手の名前が一躍知れ渡ります。しかし競技自体はそこまで注目されず、2019年のワールドカップ日本大会に向けて業界が必死に盛り上げようと頑張っている、という時期でした。)
私は2015年にラグビーのワールドカップがあった事も知らず、かろうじて五郎丸選手の顔と名前くらいは分かる、といったレベル。ラグビーの試合がいつ、どんな場所でやっているのか想像も付かず、とりあえず集合場所の外苑前に行き、会場へ向かうのでした。
その日はちょうどトップリーグ(社会人のラグビーリーグ)のナイターの試合で、会場の秩父宮競技場に足を踏み入れると、まず驚いたのが観客の数。
秩父宮は2万7千人ほど入るのですが、その日は結構な強い雨の日で、観客も少なく5千人程度。
それでも、一般的なエンタメと比べるとかなりの数の人で、「スポーツってこんな規模でやってるんだ…もっとひっそりとやっているんだと思った…」と衝撃を受けたのを覚えています。
会場に着いた時、既に試合が始まっていて、観客の「ワーッ!!!」という歓声が会場に響く様子に、一気に「スポーツを見ている」という感覚に。
私をアテンドしてくれた知人が「試合を見る時は傘を差せない(前の人の視界の邪魔になる)からこれを着てね」とレインコートを渡してくれたけれど、レインコートを着ていても足元や鞄がびしょ濡れになり、「興味本位で来たものの、結構過酷だな…」と少しテンションが下がりながらの観戦スタートとなりました。

ルールも分からないし、そもそもスポーツを見るのが初めてで、どこを見れば良いのか分からない。とりあえずボールを追いかけるけれど、雨で暗く、視界も悪く、全然理解が出来ないまま試合が進む…
すると、私たちが観戦をしていた場所の目の前で選手達の動きが止まり、何か謎の儀式が始まりました。
それは、ペナルティが起きてからの再開のための「スクラム」だったのですが、その時は全く分からず。
ただ、めちゃくちゃ身体の大きい人たちが8人ずつ向かい合って、塊になって全力で押し合っている。
それを見た瞬間、今まで暗くてぼんやりとしていた視界が一気に開けて、自分の中で何かが始まる音がしました。
「この人たち、何やってんだろう…でもなんか凄いものを見ている気がする…」それは今までに見た事のない光景で、一瞬で心を奪われた事を覚えています。
スクラムを組む意味は今でも分からないし、多分組んでいる本人にも分からないと思うけれど笑、でもそこには何か底知れない物が潜んでいて、私はただじっとその光景を見つめていました。

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初めてスクラムを見た瞬間に「ラグビーオタクとして第二の人生が始まる」と直感した通り、その日から私は底なしのラグビー沼へ。しかし、そこには沢山の困難が待ち受けているのでした…

■ラグビーオタクとしての障壁
試合を見た帰り道、その足で渋谷の本屋に寄り、「ラグビー」と名の付く本を全て買ってみました。

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(これしか売ってなかった。右はたぶん違う。)

だいぶ遅いスタートのため、とりあえず現場経験を積まなくてはと、そこから見られる試合は出来るだけ足を運ぶ事に。運の良い事に、その時はちょうどシーズンが始まる時期で、トップリーグと大学リーグの両方が開催されていました。
社会人と大学では客層もちょっとだけ違ったりするのだけれど、まず一番に感じたのは「年齢層が高い」。
私くらいの年齢でも余裕でピンチケ扱いされるレベル。
特に大学では古参おじさんが沢山いて、大体みんなお酒を飲みながら野次的な何かを飛ばしている。
めちゃくちゃ平和なアイドル現場で温かい人たちに囲まれて来たので、初っ端から面を喰らいます。
大学生たちこんな一生懸命試合してるのに、なんで野次飛ばされなきゃいけないんだ…と悲しくなりながらも、
(これは今でも根絶するべきと思っているけど)みんながどんな応援をしているのかウォッチ。
高そうなカメラを持ったカメコが結構居る。あとは野次ではなく、応援の声を送る人も多く、
(かの有名な)「スクラム押せ押せおじさん」だったり、あとはレフェリーに向かって「オフサーイド!!」と反則系をアピールする「オフサイドおじさん(勝手に命名)」など多種多様な応援スタイルがあった。
私は普段ライブを見ていても声を出したりするタイプじゃないので、他人事のように見ていたけれど、結構早い段階で「大事に大事に~!!(ゴール前の攻防に対して)」と声を出す「ノーペナおばさん」へ駆け上がって行きました。

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オタクとしては試合以外の情報も全て把握したいと、TwitterやInstagramで情報を集めようと片っ端から検索するも、その当時、インターネットに全く情報が落ちていない。
選手の中でも広報目的でSNSを使っているのは片手で数えられるくらいで、あとは皆プライベート用に鍵をかけて使っていたり、チームの公式に至っては「〇月〇日、〇〇の番組(イベント)に〇〇選手が出演しました」と事後報告のお知らせをするような状態。(これ何の意味があるん…)あとは地元の情報誌やローカルでしか拾えないイベント情報も存在するという恐ろしさ。これはかなりハードルが高いぞ…と最初の壁を感じるのでした。

そんな中で初めて参加したイベントは、ラゾーナ川崎で行われたワールドカップ関連のイベント。
今や多方面で活躍する元日本代表の廣瀬選手を中心に、東芝の選手が試合の見所のトークをしたり、ラグビーイベントではお馴染みの「ラインアウトを体験する」「タックルを受けてみる」というような催しがありました。

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すると終演後に「選手と集合写真を撮りたい方はこちらに並んでくださーい」というアナウンスが。
え…?集合写真…?
そして、誰も仕切る事無く、なんとなく自然発生的に列が出来る。
ただ撮りたい人が列に並び、同伴者にシャッターを押して貰う。(撮影係がそもそも居ない)
みんな当たり前のようにその流れで動いて、軽く衝撃を受ける。
無銭で撮らせて貰って良いのか…?と思いつつ、私もとりあえず列に並んでみます。
が、ぼっちオタクのため、誰も撮ってくれる人が居らず、選手の皆さんのみの集合写真を撮る。
選手の皆さんが気を遣って「一緒に映りましょうよ」と言ってくれるも、同伴者が居ない事に気づき、気まずい雰囲気に。
後ろに並んでいた方が撮ってくれたけれど、皆さんにいらない気を遣わせてしまって申し訳なかった…

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(選手と撮った写真はこれが最初で最後)

アイドルでは当たり前の文化である(そして収益の中心である)「サイン」と「2ショット」。
これはラグビーでは誰にも仕切られることが無く、無法地帯的に存在している。
多くは試合後、スタンドの前方に降りて行って、バックヤードに帰って行く選手に声をかけ、サインを貰ったり自撮りで2ショットを撮ったりする。(または試合後出待ちをしてバスに乗る前の選手に声をかける)
いや、ハードル高すぎだろ…
このシステムを初めて知った時、愕然とした。私のようなコミュ障のオタクは一生前に行けない。自分から声をかけるなんて無理過ぎる。ラグビー(スポーツ)というのはそういう事が当たり前に出来る人達が楽しむものなのだと、大きな挫折を味わうのでありました。

(一方でこれは2019ワールドカップ以降観客数が増えたり、コロナウイルスの感染拡大によって度々問題視されているという現状もあり、いち早く整備にとりかからないといけない問題だと思っているのだけれど)

そして、ハードルの高さは接触の面だけではありません。
それぞれのチームが催すイベントもオタクからしたらとんでもなく険しいものが多い。
例えばあるチームは「選手とファンの皆さんで一緒に運動会イベントを行います!」と。
私も運動会イベントは何度もアイドルで開いた事があるしここまでは問題無いです。楽しいですよね運動会。
問題はこの先で、「お昼タイムも設けますが、飲食店などは無いので、お弁当などを持参してください。レジャーシートを芝生に敷いて、皆で食べましょう!運動会の後は、選手が植えた芋を皆で掘る企画もあります!」
…いや、ハードル高!!!
そもそもアイドル現場とは違い、ラグビーがターゲットにしているのはファミリー層。向けている人達が違うのだから、その人たちに合ったイベントが開催されるのも当たり前の事なのだけれど、なかなかに心が折れる。
妙齢の女子が1人で来て、全力で運動会に参加し、1人でレジャーシートで手作りの弁当を食べ、芋を掘る。ホラーやん。
客観的に見てヤバ過ぎるなと思い、結局この日は参加を見送りました。(私にもまだ常識があった)

ワールドカップに向けての企画だったり、地域活性化のためのイベントだったり、そういう物の対象にぼっちオタクは入っていないのだという事をひたすらに痛感する日々が続きます。
大きなイベントだけでなく、例えばハロウィンの時だったら「会場で仮装をしたスタッフに『トリックオアトリート!』と声をかけてくれたらオリジナルグッズをプレゼント!」だったり、コロナ禍では「選手のみんなと一緒にZOOMでエクササイズ対決をしましょう!」だったり、参加型の企画がほとんどで、たとえばほんのちょっとだけ視点をズラして、「参加したくない人は見ているだけでも良いですよ」という事を言ってくれる人が居たらだいぶ違うのにな、と思っていました。
悪い方にオタクが発動してしまい、「陽の圧力」みたいなものを感じてしまうような。
どうか、どうか課金をするから全員同じ条件で特典が受けられるようにしてくれ…コミュ障でも楽しめる場を…と切に思ったのでした。

でもこれは、冗談だけれど、半分本気で思っている事でもあり。
ラグビーは、チーム作りや競技性において、とてもダイバーシティで先進的なマインドを持っているなと思うので、観戦においてももっとダイバーシティであって欲しいなと。
観客にも色んな人が居て、色んな楽しみ方が出来るのが一番だし、誰も苦痛に感じる事なく、それぞれのスタンスで応援が出来たら良いなと。特に2019年のワールドカップを経て、私のように今までスポーツを見た事が無かった人もファンになったりしたと思うので、今まで当たり前になっていた事を見直す時期でもあるのかな、なんて。
逆もしかりで、こうやって普段足を踏み入れない場に足を運ぶと、自分の業界も見直せる良い機会だなと思うのでした。

■ラグビーオタクは車に課金するべきか
現状、日本のラグビーは基本的に企業や地域の予算で運営が成り立っているため、売り上げを上げるという概念がほぼ無いように思います。
チケットも2000円~2500円程度と破格の安さで、グッズの種類もそれほど無い。
(グッズは基本、身に纏って応援するためのもので、そういうタイプでは無い私はあまり買う事が無い)
お金を使う所が無いんですよね…アイドルオタクって、お金を使う事でより対象に対して愛が深まって行く、みたいな部分があるかと思うのですが、一向にお金を使う場面が現れない。
選手やチームを支えてる感を実感するタイミングがあまりありません。(オタクに支えられんでも大企業に支えられているしな…)
多少お金を使うとしたら、地方の試合を見る遠征の費用くらいでしょうか。

遠征と言えば、アイドルには無かったスポーツ特有のイベントで「合宿」という物がありました。
選手たちは様々なカテゴリーで合宿を行うのですが、その日本各地で行われる合宿の中で練習が見学可能になっている物が多くあります。
最初、その実態がよく分からず、「あぁ、野球のニュースとかでよく『〇〇のキャンプの様子が公開されました』と言ってるやつか」とぼんやりと想像をしつつ、とりあえず参加してみる事に。
ラグビー沼にハマった翌年、日本代表の合宿が春に沖縄で、秋に宮崎であったので、両方行ってみました。
すると、、、
遠征をして来るオタクが誰も居ない。
練習は地元の人達がちょっと見に来るくらいで、地方から来るファンなんでほとんど居ません。野球のキャンプとかってファンが沢山押し寄せてるイメージだったのにな…と思いつつ、
あまりにも人が居ないから観光客と間違えられて選手に話しかけられたりして気まずくなり、遠目から練習を見つつ観光を楽しんで帰るという謎の結果になりました。

そして合宿と言えば、ラグビーでは合宿の聖地「菅平」が。
私は全てのカテゴリーを見た結果、最終的に大学ラグビーのオタクに落ち着くのですが、夏の菅平では全国の高校・大学の合宿が行われます。
長野の山奥が夏の間だけ、ラグビーの街に変わるーきっと学生たちにとっては地獄のような場所なのでしょうが、私にとっては天国でした。とりあえず夏の菅平に一週間ほど滞在してみる事に。

その前に、ここまでラグビーのオタクをしてみて痛感したのが、ラグビー(たぶんスポーツ全般)のオタクをするのに「車が運転出来ない」というのは致命傷だという事。
私は免許はあるものの、取ってから一切運転をする事が無く、完全なペーパードライバーでした。
ラグビーが行われる場所(グラウンドがある場所)というのは基本的には郊外なわけで、公共の交通機関で行くと物凄くアクセスが悪い。
宮崎や沖縄でも、車が無い事でグラウンドに併設されたホテルに閉じこもるような状態になったし、静岡の磐田のグラウンドに練習を見に行った時は、日が暮れた帰り、タクシーを求めて彷徨い、山の中で遭難しかけた事もありました。

そしてここ菅平でも、新幹線の上田駅からバスで山の上に降り立ったあとは、全て自分の足で歩く事に。
課金する場面が無い分、車を買えという事なのか…トヨタやHondaの車を買えば遠回しに推しに課金してる事になるしな…?と思ったり。
ただ、菅平のグラウンドを歩いて回るのは結構好きで、なんだかんだ毎年楽しんでいます。

菅平の中心部には夏の間だけ現れるラグビーショップがあり、その店先のホワイトボードに、その日の試合の予定が書きこまれます。(これはお店の人がいちいち調べて書いてくれているという温かさ…)

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朝、このボードを確認し、どうしても見たい試合と、その間に回せそうな試合をスケジューリングする。
頑張れば1日6現場くらいは回せるので、あとは移動時間次第。
地図を見ながらグラウンドの場所を確認し、一番近いルートを通る。
遠いグラウンド同士の移動だと片道40分くらいかかるので結構な運動だし、基本菅平に来る保護者やOBは車で来るので、かなり不審な感じになりながら歩いています。
陽が出ている時は丸焦げになるし、菅平は山なので天気が変わりやすく、突然どしゃ降りになったりもする。
全身ずぶ濡れになりながら山道を歩き、なんとかグラウンドに着いたら雨&霧で試合が中止になっていたりする事もあり、険しさを実感する事も…
でも予定変更はTwitterやSNSには落ちていないなから、ひたすら足を使って現場に行くしかないのです。
初めてラグビーを見た日、雨に濡れてテンションが激落ちしていたのが、翌年には全身ずぶ濡れになって楽しく山道を歩いているとは人生分からないものですね。

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(ゴールポストととうもろこし畑)


■エンタメには無いスポーツ独自の魅力

そんなこんなで、ラグビーに出会って1年ほどの間に感じた事を思い出してみました。
この後私は2019年のワールドカップや、その他沢山の大事な試合を経験してまた色々な事を感じて行くのですが、一番最初にスポーツの魅力として感じたのは「勝ち負けがある」という事でした。
こんなの、スポーツを見ている人にとっては「当たり前だろ」となるかと思いますが、エンターテインメント(や音楽)の世界に居ると、明確な勝ち負けがありません。
それぞれがそれぞれのスタンスで自分の魅力を届けて、ファンはそれが続いたり、規模が大きくなる事を応援するような形の構造なので、アーティスト同士仲が良い、ライバル、のような関係があっても結局は個人商店というか、独立したの世界のような気がします。
だから、「勝利」という絶対的な目標に向かって努力する姿を応援する事や、試合結果に一喜一憂したりする事がとても新鮮でした。
トーナメント(特に学生の)などを見ていると、勝負というのはとても残酷で、でもその儚さの中に輝きがあるのだなぁとも思ったり。
あとは、負ける人が居るから勝つ人が居て、良いライバルが居なければ強い者は生まれないし、「戦う」という事で全てが成り立っているんだという事を初めて実感しました。
「勝つ」「負ける」ってめちゃくちゃ単純で、どちらか2つしか無いけれど、その中に色んなものが詰まっていて、それが見ている人、競技をしている人を熱くさせるんだなという事を実際に見てみてやっと気づく事が出来ました。
負けた想いが世代を超えて繋がって、チームを強くしたり、試合に出られない人達の想いを背負ってグラウンドに立ったりする姿を見たりして、私も胸が熱くなりました。

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(私の中の思い出の2試合)

きっと同じチームを応援し続けていたら、ファンの中でも「負ける」「勝つ」というものはずっと続いて行って、「この試合を一緒に見た仲間」とか「負けたこの場所で」とか、そういうものが沢山積み重なって行くんだろうなぁと思ったり。そういうのも楽しそうですね。


私はたまたまきっかけがあってスポーツを見る事が出来たけれど、本当に全く触れる事が無く終わる人たちも沢山居るだろうなと思います。ラグビーを見始めた時に感じた(今も感じている)「敷居の高さ」というのが、もっと無くなって、どんな人でも気軽に応援が出来る、応援し続けられるような環境になると良いなと思うし、微力ながら私もそのハードルを下げられるような事が出来たら良いなと最近は思ったりするのでした。

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