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イングヴェイは異世界に転生してもやっぱり貴族、いや正確には伯爵でした (第一弦)

(このまま音楽サイトを細々と運営していても、仕事をサッパリ辞めてフランスの古城に移住などは夢のまた夢なので、ラノベで一発当てたいと思います。何卒、よろしくお願いいたします)

俺はイングヴェイ・ヨハン・マルムスティーン。貴族、いや正確には伯爵だ。世界最高のギタリストだった。だったというのには理由があって、ある日俺はステージで虚空にぶん投げたストラトキャスターがライアー!っと頭に刺さってマーチング・アウト。この世を去ってしまったんだ。俺だけは一生ネヴァー・ダイだと思っていたのに、信じられないね。ハッハー!

でも心配しないで欲しい。世界最高の才能は失われなかった。神様も俺の才能が世界から消え失せるのを見ていられなかったんだろうな。気がつくと異世界で、美少年だった12歳の姿に戻っていたんだ。たしかにほんの少し、ほんの少しだけ脂肪がついたとは感じていたから、むしろラッキーだったかもしれないな。当然、この世界でも貴族、いや正確には伯爵だよ。

異世界がどんなところかって?ここはマーシャル王国。文明の程度は中世にちょっと毛が生えたくらいだろうか。電気がまだないかわりに、魔法が生活の中心となっている。そして、その魔法は音楽を力の源としているんだ。だからこそ、俺がこの地に降臨したと言えるだろうな。

電気がないから当然エレキ・ギターなんて代物はない。だけど、ありがたいことにこの国ではリュートというギターによく似た弦楽器が主流を占めていて、魔法の力で音を増幅したり、変化させたりできるんだ。

「マルちゃーん!」

長い金髪に蒼い目、透けるように白い肌の美少女がこちらに駆けてくる。エリカ・ワゲニウス。幼馴染だ。俺は、12歳の誕生日に自分がイングヴェイ・ヨハン・マルムスティーンであることを思い出した。つまり、それまではこちらの名前であるインギー・マルムスティーン公子、伯爵家の長男として生きてきたんだ。

「おいおい、人前でマルちゃんはよせよ。一応、伯爵家の長男なんだぜ?」

子爵家の娘で、美貌。歌唱力も抜群で大きな魔力を秘めるエリカは、マーシャル王国一の名門シュラプネル王立学院でも絶大な人気を誇る。ファンクラブまであるらしい。ただし、俺以外の男子には完全に塩対応だ。ツンとおすましジューダス、ジューダス。幼馴染とはいえ、なぜか俺にだけベッタリ懐いている。

「だって〜。マルちゃんはマルちゃんだもん。今日から新学期だよ。一緒に学校行こ?」

上目遣いで体を密着させてくる。なんだかいいにおいがする。エリカほどの端整な美少女にこれをされて平気でいられる少年はまずいないだろう。寄せては返さない鋼のチッパイがたまに傷だが。

「仕方がない。エドマン、俺のフェラーリをまわしてくれ。最高のニンジンを与えておいてくれよ?」

12歳の誕生日に父上からいただいた真紅の馬車。俺は迷うことなく、そいつをフェラーリと名付けたのだ。

「おい、マル公!今日、音楽魔力測定があるのは知っているよな?さぞかし最高のレクイエムを奏でてくれるんだろうな?クーッフフフ」

学院に着くとすぐさまティモシー・トルキンが話しかけてきた。何かと俺に絡んでくる嫌なヤツだ。前の人生でも、似たような名前のヤツが小判鮫のように俺をパクっていやがったっけ。12歳の誕生日まで、俺はまったく音楽に目覚めていなかった。俺は美男子でヤツはブサイクだが、この世界は音楽と魔力がすべて。今日までヤツはその半端な才能で幅を利かせていやがった。まあ、それも今日で終わりだ。

「やめたまえティモシー、そんな雑草に構うのは。時間の無駄さ。結局、世界で一番速くリュートを弾けるのはこの僕、クリストファー・インペリテリーヌなんだからね」

クリストファー・インペリテリーヌ。キザなガリガリ野郎だ。やはり、前の人生で似たような名前のヤツが小判鮫のように端から端まで俺の音楽をパクっていたが放っておくことにしよう。どうせ二人の天下も今日で終わりなのだから。

「マルムスティーン君、では課題曲から」

ブラックムーア先生に呼ばれた瞬間、俺は間髪入れずにこう返した。

「先生。俺のオリジナル・ソングでも構わないでしょうか?」

ザワザワ。ザワザワ。教室全体がどよめくのが伝わる。当然だろう。昨年まで、課題曲すらマトモにこなせなかった俺がオリジナル・ソングなどと強気に出たのだから。しかし、ブラックムーア先生は顔色一つ変えず、まっすぐにこちらを見据えて一言こういった。

「構いませんよ。オリジナル・ソングは魔力を高める上で避けては通れない関門ですから」

リュートの名手で、王家とも繋がりがあるなどと噂されているが謎の多い先生だ。俺は美しき愛器ストラトリュートリウス (当然、指板はスキャロップド加工を施してある) を手に取り、おもむろに慣れ親しんだ、しかしこの世界では初めて披露する必殺のあの曲を奏ではじめた。魔力がたまっていないので、最初は生音で。タタタターン。タタタターン。そう、"Far Beyond The Sun"だ。

さながらベートーベンの "運命" のようにドラマティックな幕開けで、教室の雰囲気は一変した。おしゃべりに興じていた全生徒の注目が俺に集まる。左手のロレックスに魔力がどんどん注ぎ込まれる。雷が轟き暗闇を切り裂く。前にも感じたことのある、しかしこの世界では初めての感覚。これが "ライジング・フォース" なのだろうか?

この世界では、音楽か生む "感動" が多いほど強大な魔力が生まれ、その魔力は左手に装着した時計に似た装置に溜めることができる。俺は迷わずそいつをロレックスと命名したんだ。勇壮で美麗な旋律とともに金色のオーラを増すロレックス。あまりにも神々しい。刹那、俺はロレックスに溜まった魔力を解放して、マーシャルの壁を築き、オーロラの景色を投影する。津波のように増していく音量、リュートの歪みは完全にオーバー・ドライブだ。

嵐のようなソロ・パートで興奮は最高潮に。左手は神を、右手は光を捕まえる。固唾をのんで見守っていたクラスメイトの歓声が弾ける。苦虫を噛み潰したようなティモとクリス以外は、だが。俺はリュートリウスをくるくると回して歓声に応える。さあ、クライマックスだ。ターンターン、ターンターン、タタカタタカタン、ジャッジャーン。メジャーコードの響きとともに、俺は魔法で教室にどでかい花火を打ち上げた。鳴り止まぬ拍手と喝采。ブラックムーア先生は、嬉しそうな、しかし少し困ったような笑顔で俺を迎えた。

「おっほん。マルムスティーン君、天井がまる焦げの花火は少しやりすぎですが、素晴らしい演奏でしたよ。私の "Child in Time" にも匹敵するスリル、私の "Catch the Rainbow" にも負けない美しさ。驚きました。感動しました。完璧です!」

駆け寄るエリカを制して、素早く俺のふところに飛び込んできたのはイヴェッタ・ヤングだ。

「すごいすごーい!マルくん、こんなにリュート上手かったんだ!ボク、興奮しちゃったよ。イヴェにもリュート、教えて欲しいニャー。なんだったら、他のこともいっしょに教えてくれてもいいんだよ?」

アジア系のキュートな顔立ちにサラサラの黒髪。ヤンチャでしかし素直な性格。そしてボク猫。三種の神器が揃っている。だけどこう見えて、歌もリュートも、鍵盤楽器までこなせる才女だ。

「ダメよ、イヴェッタ!マルちゃんはわたしと組んでバンドをやるんだから!ずっといっしょなの!わたしの幼馴染なんだからね!」

すかさずエリカがイヴェッタのラブラブビームを防御にかかる。俺は美少女とのメイキン・ラブの魅力に贖いながら、やれやれと二人をなだめる。

「お嬢さんたち。俺はルックスは悪くないし、貴族だし、天才だし、金持ちだし、有名だ。だけど、そんな表面的な部分だけで判断する子猫ちゃんはお断りだぜ?」

一気にシュンとしたエリカとイヴェッタ。俺はすかさず二人の頭を撫でながらこう言った。

「わかってくれればいいんだよ。さあ、ランチに行こう」

三人で教室を出ようと扉を開けると、筋肉の壁が立ちはだかっていた。

「アニキー、インギー兄貴ー、我輩、感動したっスー。大感動っスー、一生ついて行くっスー」

ザッキー・ワイルドだ。山のような大男で筋肉バカだが、なぜか幼いころから俺を慕ってくれている。リュートを握った瞬間破壊するような筋肉バカだが、心はまっすぐで朴訥。ペンタトニック一辺倒ながら、その旋律には光るものがある。

「マルムスティーン公子、素晴らしい演奏でございました。遂にその秘められた実力を開花あそばせなさいましたね!」

もう一人の筋肉、ジョアンナ・ペトルーチカだ。こちらは筋肉は筋肉でもインテリ筋肉だ。そして凄まじい巨乳の持ち主。相当な美人の部類だろうが、すべてがビッグ。D (ドリーム) カップと影であだ名されている。賢いので先生に気に入られていて、なにかと俺を気にかけてくれる。知性が迸るリュートの腕も相当なもの。それにしても、ザッキーとジョアンナが並ぶと本当に巨大な壁が立ちはだかっているようだ。

「ありがとう、二人とも。だけど、自分らしいといわれてきたエッセンスをすべて集結し、まとめあげてみただけなんだ。まあこれが、100%インギー・マルムスティーンってわけさ」

泣きじゃくるザッキーと、拝みまくるジョアンナを置いて俺たちは食堂に向かった。木材と石材で造られた学院だが、王国では最高のモダン建築。食堂はバルコニーに面していて、四季折々を愛でながら食事を楽しめるお気に入りの場所だ。当然、大好物のしゃぶしゃぶを注文し、三人でつつく。ワインを嗜みたいところだが、さすがに未成年なのでブドウジュースで代用だ。

「マルちゃん!ちゃんとお野菜も食べないとダメだよ?おなかが出てきちゃうんだよ?」

エリカがまるで古女房のように世話を焼く。だが、俺は野菜は食べない。あんなものはその辺の草に毛が生えたようなものだからな。

「あはははー、マルくんはぜんぜん野菜食べないねー!でもボクは野菜食べなくても気にしないよーかわりにボクを食べてくれたらニャー?」

イヴェッタの発言で食卓にまた暗雲が垂れ込める。それにしても、椅子に体育座りはやめてくれ、イヴェッタ。俺は伯爵だから決して見たりはしないが、シマシマパンティが俺の伯爵を刺激する。そんな時だった。

「ご一緒してもよろしいでしょうか?ヒッヒッヒ」

ジェフリー・テイトウワだ。学院最高のテノールの一人で、生徒会副会長も務める権力者。

「あなたの名演、魔力。噂はすでに生徒会まで伝わっていますよ。実はこの度、スラッシュ学園との対抗戦がありましてね。人手が足りなくて困っているんですよ。ひとつ、ご出場いただけないでしょうかね?ヒッヒッヒ」

ニヤニヤ笑いが癪に障る。これまで俺を歯牙にもかけなかったくせに。何か裏もありそうだ。しかし断ったら断ったで、俺は大丈夫だがエリカやイヴェッタに迷惑がかかるかもしれない。

「構わないぜ。どうすればいいんだ?」

「バンド形態での対抗戦ですので、まずはメンバーを集めていただくことになりますね。ヒッヒッヒ。スラッシュ学園は粗暴な人も多いとのこと。なにぶんお気をつけくださいませ。ヒッヒッヒ」

いけ好かない野郎だ。しかし選択肢はない。心配そうに見守るエリカとイヴェッタ。

「問題ない。結局、俺以外のヤツはみんなカスだからな」

「それは頼もしい限りでございます。では、登録しておきますので、ヒッヒッヒ」

まったく面倒なことになった。まずはメンバー集めから始めなければ。一人、ドラマーの心当たりはあるんだが。おそらく、アイツも転生者だ。しかも俺と深い因縁のあるアイツ…(To Be Continued)







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