大量検査で行動制限から逃げ切ろうとした結末 / 結果が出ている早期限定ロックダウン路線

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この冬、イギリスは新型コロナウイルスの(当国における)第三波に見舞われている。他の国と同様、感染者数だけで見るとこの第三波が最も大きくなっている。イギリスは人口当たりの被害が世界で最も高い国になりつつある。

さて、そのイギリスは夏ごろ「大量検査が根絶の鍵」として位置づけ検査能力を大増強していたことはご存じだろうか。

ジョンソン首相は大量検査の実施を「最優先事項」と位置づけています。「新型コロナウイルス・ワクチンの大量接種が可能になる前に2度目の全国一斉の都市封鎖(ロックダウン)を回避する唯一の希望」とも述べているそうです。
「ジョンソン首相によって発表された(ワクチンの)代替計画のような無症状者を見つけるための定期的な全員検査を含む大量スクリーニング計画だけが新型コロナウイルスを制御下に保ち、最終的にその根絶につなげることができます」

――木村正人『コロナ検査1日1000万件の衝撃 ジョンソン英首相の「ムーンショット作戦」は荒唐無稽か』2020/9/10

これは決して口先だけではなく、イギリスは夏ごろに1回目のロックダウンを終え感染者が散発的ななった状況で、検査陽性率(検査数に対する感染者数)は0.3%を割るほどまで下げていて世界の中でも良好な数字だったし、秋口以降は世界最高クラスの大量検査能力を有する。それでも今の結末となっている。いわゆる「変異株」は47週目(11月中旬)でも10%に過ぎず、これは対策の無力さの言い訳に使われている感もある。

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Our World In Data Coronavirus (COVID-19) Testing 2020/7/6のデータ。斜めの線が陽性率を示す。

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Our World In Data Coronavirus (COVID-19) Testing

大量検査で感染を防ぐというアイデアは初期にハーバード大学の倫理学のグループが発表したものから、査読あり未査読のもの、国内発ではKuniya & Inaba (2020)こちらのコラムで論拠になっている論文)などがあるが、潜伏感染の多さから「陽性者を全員隔離」という程度の方針では半分程度取り逃がしてしまい、1サイクルの全員検査では倍化時間1回分を遅らせる程度にとどまるため再生産数を目に見えて減らすには桁違いに多くの検査が必要になることが指摘される。

これらの論文では概ね毎日住民の10%前後が検査を受ければ実行再生産数が下がる見込みを示しているが、イギリスが実現不可能に近いと言う意味合いでムーンショットと呼んでいる計画はその10分の1程度にとどまっている。デンマークは2020年11月よりその水準を超える毎日住民の1.5%の検査数にに到達しているが、両国とも感染の拡大を防ぐことはできず、デンマークは12月から、イギリスは1月からロックダウンとなっている。両国とも実現しうる中では最高クラスの検査数だが、やはりこのレベルでは厳しいということだろう。

欧州の例を見る限り、人口の1%/日程度の検査数は感染制御の十分条件にはなりえない。また、感染を制御していると言える台湾は日本よりはるかに少ない人口当たり検査数であり、NZも人口当たりでは日本と[対数軸で]同程度である。よって、単純な検査数だけみれば、必要条件ですらない。今の所、検査に関する数字は感染率の「結果」であって感染率を制御する「原因」にはなっていない。

現在のところ確実に縮小に追い込める手段は行動制限のみであり、早期限定ロックダウンなどの制御をしていれば、検査できる数は多ければそれに越したことはないものの、今の日本並みの検査キャパシティでも抑えきれないということはないだろう。

このことは夏ごろに記事を書いているが、結局その通りの推移を示したというのが私の感想である。

早期限定ロックダウン路線

さて、現在封じ込めに成功しているオーストラリア、ニュージーランド、中国、台湾などでは、以前も書いた通りではあるが、非常に広範囲の接触者追跡を行う、または感染者が見つかるごとに地域単位の限定ロックダウンをかけるという方針の所が多い。どちらにしても、感染者が見つかったら広範囲に網をかける作戦であり、広義の「クラスター対策」のウルトラ強化版と言ったものである。この方法が有効ではないか、ということはに何度か記事を書かせてもらっている。

「根絶」策を支持する方は「一度根絶に追い込めばもう対策はいらない」というように主張される方がいるが、検査でのあぶり出しが難しい潜在性がこのウイルスの厄介なところであり、真の根絶は非常に難しい。現実的に言うと中国や豪州などある程度人口のある国では1か月に1度はどこかしらでロックダウンをかけるような方法で制御している。例えば中国は7月に新彊と遼寧省、9月に雲南省、11月に内モンゴル、12月に黒竜江省、1月は河北省(北京付近)でロックダウンがされているし、その間武漢(2回目)や青島などでも小規模のロックダウンが行われている。豪州は12月にシドニー1月にブリスベンでロックダウンがされており、11月には嘘で170万人が行動制限を受けているほど厳しい。この点も、春先に書いた記事(A, B)で予想していた通りである。

その意味で早期ロックダウン路線を取っても行動制限が続くことには変わりはない。鳥インフルエンザに対して養鶏場の鶏を全部処分とか、あるいは江戸時代の火消しのように火事が出たら周りの建物を根こそぎ倒して延焼を防ぐという方法に近く、防火建物=ワクチンや消防車=治療薬に比べると原始的だが、それがない以上それくらいしか方策がない、と言う所である。

少なくともこの方法は、病院への負担は小さくて済むし、住民の心理的負担も小さい。この路線に持ち込む政治的合意が取れるのであれば、この路線に行くのは私としては納得できるところである。ただ、これが出来ている国は共産党独裁の中国やベトナムであったり、人口が少なく政治的同意が取りやすい、あるいは都市間の距離が離れていて県や州ごとに意思決定できるニュージーランドやオーストラリアであったりするので、人口が多く通勤圏が複数都道府県にまたがり政治的同意の取りづらい日本ではなかなか難しいかもしれない。法律時報、判例時報などの法律雑誌に出た論説では「科学的根拠がなければ行動制限はしてはならない」が原則としているが、嘘でロックダウンがかかってしまうような薄い証拠での規制策は難しいかもしれない。

検査が感染制御に与える影響は

ただ、私がここで言いたいのは、検査は無意味だという話ではない。定量的に評価したとき、感染抑止効果はみんなが期待するほどではないし、少なくとも全世界で検査を感染抑止の主力、律速要因とできた国はない、ということである。

ただ、「早期限定ロックダウン」の地域の限定するメッシュの目を細かくする、といった点であれば検査が増えることによりそれを細かくできる可能性はある(ただし、通勤など人の移動の範囲に影響を受ける。日本の首都圏などではメッシュを細かくするのは簡単ではないと思われる)。

現在の所単独で感染を収束させられるほどの強力な効果があるのは行動制限のみで、その意味で「主」にはなれないが、「従」ないし「あったほうがいい手段」として扱うならそれは健全だろう、というお話である。

(手洗い奨励は常にとれるが、それでもそれ単独で感染制御を賄えるほど強くはない)


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