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ぼくらの存在意義

「着たい服がなかったから」
「服作りが好きだったから」
「ファッションで儲けたいから」

ブランドやファッションビジネスを立ち上げる理由はひとそれぞれ。

最初のnoteにも書きましたが、ぼくが石橋を誘ってKUONを立ち上げた理由は「世界に出るため」。

今回はKUONの誕生からこの先のことまでをnoteにしてみたいと思います。
※ぼく=藤原。KUONを運営している、株式会社MOONSHOTの代表です。

ぼくがファッションビジネスをはじめた理由

ぼくは2011年2月に自らがデザイナーの1sinというブランドをスタートさせました。準備をはじめたのが2010年の夏頃からなので今年で10年目。32歳の時でした。

ぼくは今でもなのですが、法律に携わる仕事もしています。

20代のぼくはファッションがものすごく好きだったのですが、あまりにも自分の仕事の世界と違いすぎて、自らブランドをはじめようとは考えたこともなかったです。ファッションはあくまでお客さんとして楽しむもの。

法律の業界というのは「基本的に困っている人がお客様」なので、めっちゃハッピー!というお客様はあまりいません。

30歳になった頃だったと思います。

「良いことをすると良いことが返ってきて、悪いことをすると悪いことが返ってくる」

小さな頃から親や学校でずっと聞かされてきた道徳ですね。正直ぼくも頭では理解していましたが、忘れていました。それが社会人になり、法律の業界でたくさんのお客様と接する内に、この考え方というか道徳が、自分の芯に、スンっ。と降りてきました。道徳とかそういうことではなく、データとして、統計として。「ああ、なんか世の中ってこうして回っているのね」と。

それから、ぼくは「自分でももう少し世の中の役に立つことがしたい」と思うようになりました。仕事を辞めることは考えなかったので「自分の余暇時間を使ってできるソーシャルビジネスで起業したい」と考えました。

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当時のぼくは365日24時間ファッションのことを考えていても苦にはならなかったので、ファッションをツールにしたソーシャルビジネスで起業をしようと思い1sinを立ち上げました。いまこうして会社が少しだけ成長して「お金を右から左に流すだけのおじさん」になると、10分もファッションのことを考えているとしんどくて(笑)、当時の自分を褒めてあげたくもあり、このバカチンが!とビンタしたくもなるくらいです。

つまりぼくは、「ソーシャルビジネスをするためにファッションブランドをはじめました」。

KUONの誕生

1sinをはじめた当初は本当にまったくの素人で、専門的な知識はゼロでした。そこで、まずはぼくが大好きな帽子を3型つくるところからはじめました。当時、唯一ファッション業界での知り合いが、時しらずやWISMなどを立ち上げた市之瀬さん。なんとかお願いして帽子のサンプルをつくることができました。そしてその3型を持って手売りで卸先営業を行いました。

1sin_1st_1番右がドロップ

(写真は1stのサンプル、1番右は最終的にドロップ)
アパレル未経験でしたので、モノづくりから営業までなにも分からず、ひとまず自分で動いてみる。というスタンスでした。

東京、大阪、神戸、名古屋などをまわりましたね〜

飛び込み営業でお取引していただけるお店はありませんでしたが、どこのお店の方も素人のぼくの話をよく聞いてくれたなと思います。素人感が良かったのか、少しずつですがお取扱いをしてくれる店が増え、調子に乗ったぼくは帽子以外のアイテムもつくるようになり、2015年頃には売上も2000万円程になるようになりました。

ただ、同時にその頃には残念ながら自分の中に限界というか天井が見えていました。

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結局ぼくのつくるものは「サンプリング」なのです。

専門的な知識や技術、圧倒的なセンスもっているわけではないので、自分が好きだったブランドや古着をベースにするサンプリングに自分自身が限界を感じていました。つくるほどにオリジナルとの力量差を感じていきました。

正直しんどかったです。

売上は副業としてやるには十分だったのですが、この先10年と自分が楽しめることをしたいという想いが強く、1sinではできない新しいブランドを立ち上げたいという気持ちがムクムクと湧き出してきました。

そこで誕生したのがKUONです。

KUONは、ぼくとデザイナーの石橋が「世界に出るため」に、2016年春夏に設立したブランドです。

石橋との出会いは、1sinでブレザーをつくりたいと思い、それまでお願いしていたパタンナーさんがカジュアル畑の方だったので、もう少しカチッとしたパターンをお願いできる人を探していたところ、共通の知人を通じて知り合いました。当時の石橋はkolorを退職しフリーのパタンナーとして活動をはじめた頃でした。

ブレザーをつくりたいと伝えると、テキパキと色々な質問をされ、「分かりました」と一言。そして、なんと翌日にはトワルができあがり、しかも左右の袖がそれぞれ別の形で「藤原さんの好みはこちらだと思うのですが、もしかしたらこちらの袖の方が綺麗かもしれないと思って」と。パターンは完璧、しかも最短でかつ自身のアレンジもいい塩梅で提案してくる。

このエピソードは今でも強烈に覚えています。

当時の石橋はまだ20代でしたが、経験している場数が違うなと唸りました。その後も何型かつくってもらいましたが、どれも素晴らしい仕上がりでほとんど全てが完売でした。

石橋ブレザー

(石橋に依頼したブレザー)

「世界に出る」。そしてその先にある「世界で戦う」ための戦略を考えた時に、コンセプトなどは僕がつくることができても、ブランドの核となるデザイナーには技術とセンスをもった人物が必要不可欠だと考えていたので、当時のぼくに強烈なインパクトを残した石橋に一緒にやろう。と誘いました。おそらく彼にも当時自分なりのプランがあったのでしょうが、コンセプトなどを気に入ってくれてデザイナーとして参加をしてくれることになりました。

あれから約5年、おかげさまで直営店舗をオープンするところまでこれました。(直営店舗のオープンについては前回のnote「ボクらが店を出す理由」をぜひご覧ください)

直営店舗のオープンに際にしてメディアなどにいくつか取材をいただくなかで、皆さんが「すごく順調に成長してきましたね」と驚き、褒めてくれることが多かったのですが、まあ実際は色々と大変でした。ねー、バシくん。


KUONのこれから

「メゾン」になりたいです。

ぼくらの考える「メゾン」とは、少なくとも、「企画、サンプル、PR、セールス、店舗」を社内に内包すること。できれば「生地や付属の開発、量産の工場や教育の場からメディア」までも内包したいです。誰でもつくれる、何でもつくれる時代だからこそ、「自分たちでつくって、届ける」はとても強いと思っています。

「デザインは問題を解決するための適切な解答でなければならない」

チャールズ・イーズムの言葉です。

10年くらい前からでしょうか、「デザイン思考」という考えが注目されるようになりましたが、ぼくたちにもデザイン思考の影響があります。

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いわゆるファッションでの表面的なデザインは「スタイリング」であり、本来のデザインは目的を達成するために企画、立案することです。企画をすることろからお客様が着てくれて生活するところまでを考えるのがデザインの本質だと思っています。

ファッションにおいて「流行り」「トレンド」を表現することはとても大事ですが、それを着てくれるお客様の生活を豊かにし、それだけでなく、生産に関わる人たちの生活やファッション産業全体をより良くすることがぼくらの目指すデザインなのだろうと考えます。
だからこそ、自分たちで責任を持ってお客様に届けることのできる体制になりたい。

ブランドもそうありたいと思います。

KUONの存在意義とソーシャルビジネス

KUONの存在意義のひとつは「世界に出るため」、「世界と戦うため」。

そしてもうひとつが、KUONのフィロソフィーである、「デザインによる社会的課題の解決」をすることです。

冒頭でお話しした、ぼくがファッションビジネスをはじめた理由、「ソーシャルビジネス」をやりたいということにつながります。

《具体的な取り組み》
KUONでは東日本大震災で被災した岩手県大槌町の女性たちが中心となり、復興と自立を目的とする「大槌復興刺し子プロジェクト」と、同じく岩手県盛岡市で障がい者の自立支援をサポートする「幸呼来ジャパン」と協業しています。

「大槌復興刺し子プロジェクト」では現地の女性たち30人ほどのグループと刺し子によるボロの補修や端切れなどをパッチワークにするアップサイクルなどに取り組んでいます。

「幸呼来ジャパン」では東北地方に古くから伝わる伝統技術「裂き織り」の制作、生産に取り組んでいます。

ぼくたちの定義するサスティナビリティプロジェクトとは、社会的な課題に取り組んでいる人や企業と協業して、ファッションビジネスやデザインによってそれらの解決に取り組むことです。

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2015年7月-2016年6月:362,109円
2016年7月-2017年6月:729,629円
2017年7月-2018年6月:1,444,632円
2018年7月-2019年6月:3,549,743円
2019年7月-2020年6月:6,236,791円

これまでにKUONが彼らと協業し、仕事として発注をした金額です。

初年度の17倍ほどになりました。商品総額とするとけっこうな金額となります。発注金額が増えているのは、KUONの売上が伸びているということであり、それは即ち、ものづくりのクオリティーが向上し、商品力が上がっていることをマーケットが評価していることになります。彼ら自身の技術が向上することで、彼らのビジネスが安定します。

サスティナビリティも一般のビジネスも根っこは同じ。やっていることは同じです。

デザイナーの石橋はぼくによく言います。
「藤原さんは大槌や幸呼来をサスティナビリティと強調するけど、ウチがこれまで掘り起こしてきた、他の産地や埋もれて消えそうな技術も同じじゃないですか?それはサスティナビリティじゃないのですか?」と。
そうなのです。本質は同じです。ぼくはビジネストレンド的な文脈で強調しているだけかもしれません。
本来は石橋の言うように、KUONのほとんどのものづくりをサスティナビリティ と言い切ってしまってもいいのかもしれませんが、昨今のブームとも言えるサスティナビリティの乱発とぼくたちの取り組みを分けるために、特徴的で分かりやすい事例のみを分けています。

サスティナビリティの日本語訳は持続可能性。
未来に向けて、続けていくことのできるシステムやプロセスのことです。

だからぼくたちはスタートから一貫して、それがブランドビジネスのコアな部分となるように企画、設計、実行をしてきました。

今では「刺し子」や「裂き織り」はブランドの顔となっているし、これらのプロジェクトはKUON のクリエイティブを支えています。

ソーシャルビジネス、サスティナビリティ 、SDGsなど、Eコマースと並びファッション業界の二大トレンドワードになっていますが、ポイントはそれが事業として成立するか。だと思います。

ただ、ウチのような小さな会社やブランドが声高に主張すると、意図していないブランディングになることがあるので注意しています。

ぼくらはファッションブランドなので。
ファッションは楽しむもの、そこに絶対的な正義はないと思っています。

・目的は社会的課題の解決に取り組むこと
・それをデザインの力で解決する
・ツールはファッション

それがもうひとつの存在意義です。

これからのMOONSHOT

最後にKUONの話題とは少しズレるのですが、KUONの運営会社であるぼくたちの会社、MOONSHOTのこれからについて少し。

ここまで起業からKUONの誕生から今までを振り返ってみましたが、前半はファッションの素人が1sinを立ち上げて手売りから売上2000万円に到達まで
(2010年-2015年期)、後半はKUONを立ち上げて海外に進出、直営店舗オープンまで(2015年-2020年期)と、ファッション情報商材になりそうな怪しさ満点のような内容にもなってしまいました、、、笑。

その中で、ぼくが意識してきたのは「再現性」です。

サスティナビリティプロジェクトも含めて常にこれを意識してきました。

先日も取材で聞かれた質問なのですが、これからもし次のブランドやプロジェクトを立ち上げたらおそらく半分の時間で今のところまでこれると思います。ビジネスとしてより大きなインパクトを残すためには「再現性」がなくては持続するのは難しいです。

ぼくにはノウハウ、専門知識も、コネクションもなかったのですが、ブランドや会社が成長する原動力として「人材」「チーム」が常にありました。おそらくこの規模のブランドとしては非常に優秀なチームができあがっています。

ブランドの立ち上げから、海外進出、店舗設計などのフォーマットができました。これらは再現が可能です。

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来年からはこのチームの力を活かしたコンサルティングの領域にも展開していきます。これまでもいくつかお話をいただき小さくやったりはしてきたのですが、本格的に進めていこうと考えています。(今のところクライアントもいませんので興味のある企業様などいましたらぜひ!)

法律の仕事ではコンサルティングに携わることもあるのですが、まずは自分でリスクを負ってやってみないと嫌だ、という性格なので、この10年はそこを勉強してきました。

経営者としてはダメなのかもしれないのですが、今のところスケールとか上場とかそういうのは割とどうでもいいです。それよりはこのチームで次に何ができるだろう。と考えるのがワクワクします。

ぼくたちの会社の名前、ムーンショット。

1960年代にケネディ大統領がアポロ計画を発表し、人類が月に到着したことから。壮大な目標を掲げてイノベーションを起こして達成することを「ムーンショット」と呼ぶようになりました。いまではGoogleをはじめ日本でも使われることが増えました。

KUONの目指すところはメゾン、MOONSHOTの目指すところもメゾンです。

法律の仕事、1sinの立ち上げ、KUONのサスティナビリティプロジェクトを通じてたくさんの人たちと出会いました。
現状では解決できないような課題や問題にも直面してきました。むしろほとんどがそうです。これを解決するにはぼくらがマルッと責任をもてる規模感になるのが1番早いと思いました。

ここまでお読みいただいた皆さんは、もしかしたらぼくを「いい人」「優しい人」とイメージするかもしれませんが、決してそれだけではありません。
これまでサスティナビリティプロジェクトでは何件も失敗しましたし、痛い目も見てきました。そこで学んだのは、ぼくたちもビジネスとして成立させるという強い決意と相手にもそれに応える強い覚悟が必要だということです。
だからぼくたちはチャリティやボランティアは一切行いませんし、お取り組み相手には当たり前ですが成果を求めます。その上でお互いが全力を尽くしてより良いものを世界に発信する。

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ぼくらの会社には理想像があります。例えば、社内には障がい者の人たちや、シングルマザーの人たちなどが安心して働ける環境があり、彼らが自分たちの能力を発揮できる多様性がある。みんなが自分たちの生活を選択する余裕がある。そしてそこで働く人たちの子供たちが自分の将来を自由に選択できるだけの環境があり、その子供たちがたくさんを学び、経験をして、またMOONSHOTに戻ってきてくれて、それがまた次の未来につながっていく。というメゾンです。
残念ながら今のぼくたちには想像しかできていないですが。

アントワープやセントマーチンでデザインを学んだり、ハーバードやMITでビジネスを学んだ子供たちがつくるファッションブランドとか考えるだけでワクワクしちゃいます。
その頃にはおそらく僕はいないと思うけど、今年入社した新人やこれからチームに加わってくれる誰かに引き継いでいけたらムーンショットだなと思っています。

※TOKIONにてKUON代表の藤原へのインタビューがご覧いただけます。
今回のnoteに書いた藤原の想いをAFFECTUS新井さんの視点でまとめていただきました。ブランドやデザイナーではなく、ブランド経営にフォーカスした珍しくも面白い内容となってます。是非ご覧ください。


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