鶏林書笈≒ゆきやまイマ

韓国(朝鮮)の歴史と古典文学をもとにした物語を書いています。

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マガジン

  • [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命

    拉致されたことにより数奇な運命を歩むことになった日本人女性の物語です。 #特定失踪者全員奪還 #拉致被害者全員奪還

  • 日本史の手遊び

    Twitter企画“歴創版日本史ワンドロワンライ”で発表した掌編物語をまとめました。

  • 朝の国のものがたり

    韓国史をもとに創作した超短編物語集です。

最近の記事

2023年を振り返って(2)~その他編

 2024年も一ヶ月以上経つというのに、まだ、2023年を総括を終えていませんでした(^^;。まぁ旧暦ですと新年も始まったばかりですので、ここで振り返って見たいと思います。  既に一昨年になってしまいましたが、自分より年下の親しい人が相次いで世を去りました。  1人は既に癌で余命も限られていたのですが、もう一人は本当に突然亡くなってしまいました。訃報を知った時はショックで呆然としてしまいました。この方とはもう数十年前からの知り合いでしたが、一度も直に会ったことがありませんで

    • 2023年を振り返って(1)~創作編

       年頭恒例の一年の振り返り、昨年はいろいろありましたので、今回は創作編と諸事編の二つに分けて書くことに致します。 昨年(2023年)は、ほぼ毎日のようにパソコン・タブレットに向かって何かしら執筆していたように思います。  ツイノベ「木槿国の物語」は、平日はほとんど執筆し、「歴創版日本史ワンドロワンライ」もしょっちゅう遅刻していたものの、ほぼ完走出来ました。また月一企画の300字小説も完走しました。  その他の執筆活動については、例年のように月別で見ていきましょう。 1月:

      • 2022執筆活動を振り返って

         “コロナ”以降、イベント直参を控えるようになり、創作活動ももっぱらネットを通じたものになってしまいました。  ということで、今回、昨年(2022年)一年のネット投稿を振り返ってみたところ、予想外に書いていたことが分かりました。そこで、各月の創作状況をみてみますと― 1月 金社長の告白 (ノベルデイズ) 映画「めぐみへの誓い」二次創作です。映画に拉致の手伝いをした在日コリアン男性(故小松正夫氏が演じています)が登場しますが、彼が何故手伝いをしたのか語られていません。そのため

        • 執筆活動 反省と今後

           コロナで始まりコロナでおわった2021年。  それでも世の中は少しづつ平常に戻ろうとしていましたが、筆者は通勤と自宅周辺をうろつく(笑)程度でした。  さて、昨年、2021年にすべきこととして次の五項目を上げました。 ①電子書籍の刊行 ②noteの有料マガジン制作 ③記念出版 ④韓国史の勉強 ⑤未完作品「密会の森で」を完成する  結果はどうなったでしょう。  ①は出来ればという程度でしたので昨年は駄目でした。今年はなんとかしたいと思います。  ②、③、⑤も今年に繰り越しです

        2023年を振り返って(2)~その他編

        マガジン

        • [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命
          16本
        • 日本史の手遊び
          25本
        • 朝の国のものがたり
          10本

        記事

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(15)

          最終章(一) 「やっぱりインチキでしたか!」  ノックするのももどかしいように、荷田勲は特定失踪者問題研究会の事務所のドアを開けて入ってきた。  机と本棚、ファックス兼コピー機そして踏み台を兼ねた椅子しかない狭い事務室内に彼の声は響き渡った。 「おや、荷田先生」  いつものようにパソコンとにらめっこをしていた細江会長は視線を声のする方に移した。  荷田は勝手に椅子に座って言葉を継いだ。 「おかしいと思ったのですよ」  数日前、新聞の片隅に載った記事についてだった。彼がこの記

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(15)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(最終回)

          最終章(二)  日本に戻ってから既に十年以上経つが都心には未だに慣れない。街並みは日々変化し、地下鉄など出口を間違えれば目的地にたどり着け無い時もある。  だが、この街は違う。電車を降りて、アメ横やデパート側とは反対の出口を出て昭和通り方面に進む。大通りに出たら、そのまま秋葉原方面に歩いて行けば無事に目的地のビルに辿り着くことが出来る。  一日中客の絶えない一階の食事処とは別の入口から中に入りエレベーターで最上階である六階で降りた。  目の前には“ハヤシ食材(株)本部”のプ

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(最終回)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(14)

          第四章(三) 「五十鈴ちゃん、早く起きて。朝御飯が出来てるよ、一緒に食べよ」  ママさんの声だ。平壌に戻ったのかしら…。  ちょっと、なに馬鹿なことを言っているの!  自身を叱咤しながら星香は起き上がった。  ソウルに来てから随分経つというのに、今でも時々、ママさんの起こす声を聞くと平壌のあの集合住宅に居ると錯覚してしまう。もう何十年も前のことなのに。  繁子は再会してからもずっと星香のことを五十鈴ちゃんと呼んでいる。彼女もママさんと呼ぶ。そのせいかも知れない。  床を出て

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(14)

          愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(13)

          第四章(二)  ぼんやりとした意識の中で声が聞こえてきた。 “…いいか、よ~く聞け。俺は日本で一番有名な俳優なんだ。俺がいなくなったら、世間は大騒ぎさ。そしたら警察が動いてお前たちなんかすぐ捕まってしまうさ。日本の警察の検挙率は世界一なんだぞ…” ―どこかで聞いたことのある声…。あ、コメディアンのジンちゃんだ。先生は彼の演技はまだまだなんておっしゃっていたけど、今の演技は真に迫っているわ…。  コメディアンの声がするということは居間にいるのだろうか。テレビを見ながらねむって

          愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(13)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命 (12)

          第四章(一)  連休中でもないだろうに仁川国際空港は多くの日本人でごった返していた。いわゆる韓流のせいか女性それも中高年が多かった。  国家安全院の職員たちはその中の一人をずっとマークしていた。その女性が入国審査場の待機列に並ぼうとしたところで職員の一人が日本語で声を掛けた。 「榎本みずきさんですね」  女性が頷くと 「ご同行願います」  丁寧だが有無を言わせない口調にみずきは黙って従った。  人通りがほとんど無い廊下を抜けて外に出た一行四人は停まっていた乗用車に乗り込んだ

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命 (12)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(11)

          第三章(八)  その消息は突然、もたらされた。  蒜田監督夫妻の養女・星香が行方不明になってから五年くらい経った頃のことである。  ある朝、蒜田家の電話が鳴った。妻のはるこ夫人が大急ぎで受話器を取った。この日は家政婦さんが休みだったが、彼女の出勤日でも電話は必ずはるこ夫人か監督自身が取ることになっていた。娘からではないかと思うからである。  海辺で姿を消した娘の遺体は未だに発見されていない。そのため、夫妻は、娘は生きているのではないか、記憶を失くしたまま、日本の何処かで暮ら

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(11)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(10)

          第三章(七)  午前中に退院した俺は哲子さんに連れられて、新居となるマンションに行った。  哲子さんに案内された部屋は広く、家財道具が全て整えられていた。 「仕事があるので、これで戻るわね。夕方、哲生兄さんとまた来るわ」  こう言って哲子さんは部屋を出て行った。  一人残った俺は、取り敢えず、窓を開けて外を見た。高層階の部屋のせいか見晴らしがよかった。  そしてテレビをつけてみた。日本語の番組を見るのは久しぶりだった。画面に登場する人物も内容も馴染みのないものだったが、自分

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(10)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(9)

          第三章(六)  “青天の霹靂”というのはこういう状況なのだろうか。俺の頭の中は大混乱していた。 「疲れているところに、驚かせること言ってごめんなさいね」  哲子さんが申し訳なさそうに言うので、俺は反射的に 「とんでもありません」 と答えてしまった。そして話を続けるよう促した。  哲子さんは、父と自分たちの母親について話し始めた。  父は朝鮮半島南部つまり韓国の農村で生まれた。貧しい小作人の家庭で、兄弟姉妹が多かったため、十代の初めに働き口を求めて日本に渡って行った。当時、朝

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(9)

          [小説] 愛しき名前 ~ある特定失踪者少女の運命(8)

           第三章(五) 芸術団に戻った直後、父と会った。37号室勤務の時は時間の融通がきかず、思うように面会が出来なかった。  久し振りにあった父がまず伝えたのは本妻さんの死だった。  総盟の活動に熱心だった彼女は、過重労働の末に世を去ってしまったそうだ。だが、本人は本望だっただろうというのが父の思いだった。本妻さんの葬儀は総盟主催で行われ、とても立派なものだったそうだ。そして、遺骨は平壌の愛国功労者墓地に葬られた。全て本人が生前に望んでいたことだった。  ここまで話し終えた父は、

          [小説] 愛しき名前 ~ある特定失踪者少女の運命(8)

          [小説] 愛しき名前 ~ある特定失踪者少女の運命(7)

          第三章(四)  公演の翌日、団長は輝星を自身の執務室に呼び、37号室勤務になったことを告げた。彼女は「分かりました」と言って出て行った。  ちょうど団長の隣にいた俺は 「37号室って…」 と囁いた。それを聞きつけた団長は 「ああ、指導者同志直属の慰問組織さ。だが、輝星は芸術班の方の勤務だから、これまで同様女優をしていればいいんだ。ちなみに君も37号室勤務になっているよ」 とからかうような口調で応えるのだった。  どうやら団長は俺が輝星に気があるように思っているようだ。だが、

          [小説] 愛しき名前 ~ある特定失踪者少女の運命(7)

          [小説] 愛しき名前 ~ある特定失踪者少女の運命(6)

          第三章(三)  巡回公演に参加せず平壌に残っていた金輝星に子供向けのTV番組の出演依頼が来た。既に“上”の許可を得ていたようで話は簡単に決まった。  彼女が出演する番組は、子供向けのドラマで「少年 田禹治」というタイトルである。以前、彼女が出演した映画「洪吉童」と同じく活劇時代劇で、子供たちの喜びそうな特撮やアクションシーンの多い内容だった。また、この国特有の体制賛美等々が全く無い単純な勧善懲悪のドラマでもあった。日本では別に珍しくないが、この国でこうした作品は初めてではな

          [小説] 愛しき名前 ~ある特定失踪者少女の運命(6)

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(5)

          第三章(2)  久し振りに日本から父が訪ねてきた。この地で合弁事業をしている父は普通の帰国者の親族よりも頻繁に訪れることが出来る。通常は3ヶ月に一度くらいの割合で訪ねてくるが、今回は仕事の都合で間隔があいてしまったそうだ。俺の方も芸術団の仕事が立て込んでいたので差し支えなかったが。  父は来るたびに「すまない」と謝罪の言葉を口にする。父は俺が北に来ることに大反対だった。だが、当時の俺はこの選択以外に無いように思っていた。  俺は“嫡出子”ではない。母は父の“愛人”だった。母

          [小説]愛しき名前~ある特定失踪者少女の運命(5)