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火を灯せ。Tinderの初期グロース戦略と目指す世界

マッチングアアプリ「Tinder」の創業者兼元CEOであるSean Rad (ショーン・ラッド)氏が過去のインタビューで語った内容から、今世界中で使われているTinderというプロダクトの根底にある思想や、初期のグロース戦略について見ていきたい。

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Tinderが解決したい課題

Q. じゃあ少しTinderについて教えてほしい。Tinderが何であるかを知らない人のためにも。

A. 基本的にTinderは、新しい人と知り合うことをすごく簡単にしてくれる。新しい人と知り合いたい時、恋愛だろうがビジネスだろうが、常にとあるチャレンジがある。それは、勇気を出して、自分をそこに放り出さないといけない。アプローチする方は、拒絶されるかもしれないと感じておののく。あるいは誰かが自分にアプローチをしてきたら、プレッシャーを感じるし、おののいてしまう。他人を拒絶しないといけないかもしれない。ここに摩擦がある。これを壊したくてTinderをはじめた。そこで、人の一覧が掲載されているリストだけを作って「どうやってその人たちと繋がるかは自分たちで考えてね!」というようなことはしたくなかった。新しい人と知り合う時に生じる壁を克服する方法を与えたかった。そして僕らのやり方はシンプルだ。自分が知り合いたい人が、同じく自分と知り合いたいと思っているかどうかを分かるようにする。それは、勇気を出して自分を放り込む必要がない。人は部屋に入って行き、部屋にいる人を見渡して、頭の中で無意識にイエスかノーとか考えている。そしてたまに部屋の向こう側にいる人を見た時に、その人が見返してきて、お互いに知り合いたいんだろうなと分かる。その瞬間は、圧をかける人はおらず、お互い興味があるだけだ。そしてそこから会話が生まれる。Tinderはこのような体験と非常に似たように機能する。

Tinderは世の中で一般的に"出会い系アプリ"と捉えられていると思うし、事実そうであると思う。ただそこでの出会いというのは、インターネットによって、自分が所属する現実世界のコミュニティ以外の人とも出会えるようになった、というだけの単純な話ではない。仮に同じコミュニティ、同じ空間にいて、物理的に話しかけることが可能ではあるけど、話しかけれらなかったような相手に対しても、プロダクトの仕組み、プロダクトの力を借りることで、話しかけられるようにしたのだ。Tinderが初期に投資家向けに見せた資料を見てみよう。

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マットという人を見てみよう。

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マットはパーティーで好みの女の子を見つけた。でも、僕たちの大半と同じように、マットは彼女のところに「Hello」と言いに行かない。

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マットは、僕ら大半と同じ問題を抱えている。それは、拒絶されることへの恐怖だ。

パーティーというリアルな世界で声をかけられなかったマットも、Tinderの力を借りて、話しかけられるようになるのだ。

Q. ここにいる観客にむけてアドバイスはある?マーケティング方法とか、伸びるプロダクトを作るのは難しいだろうけど、何かマーケティングのヒントやデザインのヒントがあれば。あなたはデザインに精通している人だよね。

A. 全ては何が課題であるかを理解するところから始まると思う。多くの人が会社をはじめるものの、何の課題を解決しようとしているのか、誰が顧客なのかを定義しない。とりあえずアプリを作ろう!ってなっている人が多く、一歩下がって、何の意味があるのか、何が目的なのかを考えない。それらを一度定義すると、優れた人材をリクルートすることができるし、観客に向けて信じるビジョンやValue Proposition(提供するコアな価値)を効果的に伝えることもできる。人々はそうゆうメッセージに惹かれる。

ローンチ1日目にやったこと

Q. じゃあショーン、時計の針を戻そうか。君たちはいつスタートしたのか。Tinderはいつ正式にマーケットにローンチされたのか。あと、ローンチのDay 1がどんな感じだったか教えてほしい。

A. 僕たちは2012年の8月にローンチした。僕らのローンチ方法は、その時に僕たちと一緒の部屋にいた人たち全員に対して、スマホを取り出して百人の友達にメッセージをするように指示した。そのあと僕らが見たものは凄かった。SNSや友達への口コミを通して、その日の夜には500人のユーザーがいた。その翌日、オーガニック(=広告などを使わずに自然に流入すること)な口コミを通して、1,000人のユーザーになった。そこで起きたことが、僕らの多くの友達が僕らのところにきて「びっくりしたよ、街でよく見かけるけど、誰なのかは全く知らなかった女の子と繋がった。実は君と共通の知り合いだったようだ。今夜その子とのデートに出かけることになった。」僕は「わお、すごい速かったな!」と思った。Tinderは機能した。そして24時間以内に同じような結果が、僕らの友達のグループ内のあちこちで起きることを見た。友情が形成され、恋愛関係が形成される。そして1週間後に同じグループを見てみると、99.5%のデイリー・リテンション(維持)率だった。だから、1週間後も全員が毎日1回アプリを開いていた。これで、僕らは何かを生み出しんだと分かった。ユーザーに届けているバリューがあった。

オーガニックな口コミ流入が最も貴重

A. Tinderのエッセンス、本質を保ち、人々が実際に使ってくれる、適した方法で使われる貴重なエコシステムにするためには、プロダクトをオーガニック(=広告などを使わずに自然に流入すること)に成長させる必要があることに気づいた。理由は二つある。

 一つ目は、友達からの口コミを通してオーガニックに流入するユーザーは(広告経由で入ってくるユーザーよりも)より貴重なユーザーだ。なぜならそのようなユーザーの方がより使ってくれる。もしユーザーが使ってくれない時、誰かがその人を右にスワイプした時になんのレスポンスも返ってこず、エコシステム全体のバリューが下がってしまう。なので、オーガニックなユーザー1人の増加は、エコシステムの価値を上げる。

二つ目は、Tinderを本当に理解するには、友達から教わらないといけない。そのようなユーザーはTinder上の体験の恩恵をフルに受けられるようになる。全てのエコシステムには独自の言語がある。マッチした時に何をするか、なんて言うか。あるいはスナップチャットで友達に何を送るか。これらはソーシャルを通じて作られていく。ソーシャルな規範、基準が作られていく。そして僕らはTinderでもそのようなものが作られる必要があり、それはオーガニックに起こることだと思った。実際、たくさんのユーザーをすぐに獲得できる多くのチャネルにアクセスがあったが、プラットフォームを自然に成長させる方法を選んだ。

Q. じゃあそうゆうチャネルを利用しなかったんだね。具体的にどんなチャネルがあったの?

A. 例えば、僕らの初期からの投資家/株主にIACがいる。彼らが持っているメールアドレスのリストは自由に使っていいよと言ってくれた。また、Tinderについてツイートしたい有名人もいたし、僕らの知り合いの有名人もいた。めちゃくちゃビッグな有名人だよ。アクセス、注目を瞬時にかき集められるようなレベル。僕たちはそれをやりたくなかった。補助輪を外す準備ができていなかった。エコシステムが自然に育ってほしかったし、ロケーション、場所に紐づいたプロダクトでしょ。人口密度が濃いところに行きたかった。 

大学から攻める / トップダウンで広がる

A. 次にやったことはこうだ。これが次の質問だろうからね(笑)本当の問題を解決しているかどうかをちゃんと検証するには、人々が新しい人に出会う機会がたくさんある、ソーシャルな環境にいく必要があった。他人への十分なアクセスがないような一個人を、人の一覧を作ることで助ける、ということをやろうしていたわけではない。僕らが解決したかった問題は、あなたが誰に話しかけたいか分かっているケース、生活を送り生きている中でたくさん話したい人がいるものの、彼らにアプローチして会話を始められるコンテキスト、文脈が無いことだ。それは多くの人類にとって課題だと感じた。それが本当に課題であるか、また、我々のソリューションに価値があるかどうかを本当に検証するために、大学に行った。なぜなら大学は似たような考えを持った個人がたくさんいて、ソーシャルに満たされている環境である。誰かのところに行って、挨拶をする機会がたくさんある。そのような文脈もある。同じクラスだよね。とか。そして、大学にたくさんのバリューを届けることができたら、大学以外の世界でも同じような課題があり、同じように解決できるはずだと思った。

A. どうやって大学にアプローチをかけていったか、が次の質問だね?(笑)

Q. その通り。ショーンは自分で自分にインタビューをやっているように感じてきた(笑)

A. 僕たちがやったことは、各大学、各地域でキーとなるインフルエンサーを特定していった。仲間うちで慕われていて、変化をもたらすことができるような人だ。多くの人が、(何かを広げる方法は)量的な問いであると考えがちであるが、実はそうではない。大学のキャンパスでトレンドがどのように始まるかをよく見てみると、多くの人が一斉に何かを使い始めるわけではない。100人、200人にアプローチして、このプロダクトを使ってほしい、友達にも教えてほしいと伝えても、習慣やトレンドというのは形成されない。習慣が形成されるのは、とあるグループが慕い、尊敬する、ある一人の人物がいて、その人物が何かをやり始める。トップダウン(上から下の方向)のマーケティングなんだ。そして他のみんなが追随する。すると、そのグループをフォローしている他のレイヤーがあって、そこからも広がっていく。なので、誰が患者(=ユーザー)ゼロなのかという話で、僕らはその患者0を見つけることについてたくさん思考した。そして僕らがラッキーだったのは、USC(University of Southern California/南カリフォルニア大学)、僕と僕のパートナーのJustinが通った大学では、その患者0は僕らが知っている人だった。基本的に、みんなが憧れているキャンパス上の有名な人を僕らは知っていた。その人は、他の大学のキャンパスで同じように有名な人と繋がっていたし、その人はまた違う人と繋がっている。このネットワークは国際化した。その人はフランスのパリに住んでいる友達がいる。そうやって大学から始まったものは、影響力を持つ個人を通して、より大きなエリア、都市などに広がっていった。そしてある時、毎日インフルエンサーが現れて、メディアも取り上げる。多くの人がTinderについて話している。それはどれも我々が促したものではなく、全てオーガニックだ。僕らの今のマーケティングの仕事は、人々にTinderについて話をさせるように働きかけることではなく、人々が(Tinderについて)正しく理解して伝えていっていることを確かめることにある。多くの人がTinderについて喋りたい時に、正しいLanguage(言葉、文脈)や我々のビジョンを提供してあげることが大事だ。それで彼らはそこにある実際のストーリーを理解できる。僕らが人々がプレスメディアで彼ら独自のストーリーを作って発信していくことを好まない。

大学生の組織に潜入 / パーティーを主催

Q. 詳細について深掘りしたい。どうやってみんなに、君たちのメッセージ(ストーリー)について話をさせることができたのか?彼らに何を与えたのか?ここにいる多くの人が何かのプロジェクト、何かのアプリに取り組んでいて、どうやって広げたらいいか、どうやってローンチしたらいいか、インフルエンサーを活用するなら彼らに対して具体的に何をすればいいのかを悩んでいると思う。みんなにメールを送って、Tinderについて(語るべき)ポイントについて教えているのか?すごく具体的に知りたい。

A. まず最初に、そして最もやったことは、Value Proposition(提供するコアな価値)についてシンプルに説明できる方法を与えた。彼らの友達から反響が得られるようなことを。彼らはプロダクトを見て、その恩恵を感じ、理解できるかもしれないけど、それを具体的に言語化することは科学だ。言語化して説明する効果的な方法を考え、そのような言葉、話を提供した。彼らが友達に、考えを言語化して説明できるようにする一番良い方法を教えて導いた。

それが具体的に何であるかは、あまり詳細に入りたくない。僕たちの秘密のタレを教えてしまうことになるからね(笑)でも、僕たちは大学のキャンパスではマニュアルみたいなものがあった。僕らのやり方のうち一つだけ教えよう。一つ具体例を教える。ソロリティとフラタニティは月曜日の夜にディナーがあった。

(※解説:アメリカの大学にはメンバー性の組織、クラブがある。日本のサークルと違って特定のスポーツや趣味のカテゴリーがあるわけではないが、強い結束で結びつく。基本的には同性による組織であり、女子学生が集まる方の組織をソロリティ、男子学生が集まる方の組織をフラタニティと呼ぶ。)

そのディナーには、基本的にソロリティ、あるいはフラタニティに所属するメンバーが全員集まり、そこで様々な告知や発表があった。僕らは大学生のふりをして、そのソロリティやフラタニティに潜入した。

Q. (笑)大学のパーカーとか、全身大学生の格好の服を着たの?(笑) 

A. 僕じゃない(笑)僕のチームと、僕のパートナーだね。

Q. それは楽しい宿題だね(笑)その宿題をやるためだけにTinderチームにジョインしたかったよ(笑)

A. そこにまつわる面白い話はいっぱいあるよ。でも基本的には僕らはソロリティに行って、「フラタニティの男らがちょうど今Tinderでスワイプしてるらしい。みんなもやったほうがいい」と伝え、逆にソロリティの方でも同じことをした。女の子には男の子の方(フラタニティ)に訪問させて、男の子には女の子の方(ソロリティ)に訪問させた。それでTinderについての騒ぎを起こさせた。これをやるたびに、瞬時に150ユーザー、300ユーザーの増加があった。Tinderが多くの大学キャンパスで使われているいま、これは多い数に聞こえないかもしれないが、当時ローンチしたての時に200,300のユーザーは大きかった。そこからはイベントやパーティーを主催した。適した観客がいて、適したインフルエンサーがいると助けになる。スマホにTinderが入っていないと参加できないパーティーをたくさん開いた。クラブの警備員に、Tinderでアクティブであることを実際に見せさせた。

瞬発的なグロースを求めてはいけない

そしてそこから起きたことは、これがTipping Point(転換点)だったのだが、去年(2013年)の1月に20,000ユーザーに到達した。そこでみんな大学の休暇期間に入った。冬休みに、実家に帰り、友達に教え始めた。お兄ちゃん、弟、妹、いろんな人に教え始めた。1月1日に20,000ユーザーだったのが、1月30日には500,000ユーザーに膨れ上がった。そしてこれは全部オーガニックだった。僕らの宣伝をしてくれる人を特定し、促し、患者0を見つけ、自分たちを表現する手伝いをした以外、我々がやったことは何もない。君たちみんなも、プロダクトについて誰が顧客なのかを本当に理解していれば、重要なインフルエンサーが誰であるかを特定することの助けとなる。それは有名人である必要はない。マスに認知されている人じゃなくていい。コアなユーザー層の一部のグループに認知されている人ならいい。そこで影響力がある人ならいい。そしてその人にプロダクトを宣伝してもらい、プロダクトを信じ込んでもらうこと。もちろん、プロダクト自体が良くてちゃんと機能しないといけないけど。その特定の人がいることは、貴重なフィードバックをもたらすし、違いを生み出してくれる。少なくともTinderにとっては全てそこからきた。また、(瞬間的な)グロースや量的な話じゃない。いっきにトップ10のアプリになって、翌日消えるアプリが山ほどある。実は有名なアプリがあって、もう名前を言っちゃおう、Slingshotというアプリだね。(Facebookが2014年に出したSnapchatのコピーアプリ。今日アプリストアを見ていて、Slingshotは一体どこに行った?と思った。見つけることさえできなかった。トップ10だったアプリが、トップ200にも入っていない。良い例だと思わない?僕たちのグロースを見ると、そこまで上がり下がりがなかった。僕らは常に継続してトップ100に入っていたし、その次は継続してトップ75入りして、その次は継続してトップ50入りした。DAU(Daily Active User / 日次アクティブユーザー)やMAU(月間アクティブユーザー)率を見ても、めちゃくちゃ強い。エンゲージメント(どのくらい使ってくれているか)を見ると、毎日平均して77分アプリを使っている。10億ものスワイプがあり、1,200万以上のマッチを創出している。これは、何10億ものメールアドレスをもらって、宣伝のメールをしたとしても、僕らが今いるとこには決してたどりつけなかった。(アプリ内で)ソーシャルなしきたり、慣習が発達しないといけないと思うし、プロダクトはオーガニックに成長しないといけない。時間をかけて作られる言語があり、これらをどうローンチして届けるかは非常に重要だ。

Tinderが中長期で考えていること

Q. Tinderの5年スパンのビジョン(※インタビューは2017年のため、2022年)と、それより先の長期ビジョンについて知りたい。

A. 5年先の目標は、シングル(パートナーがいない人)に全員Tinderを使ってもらうことだ(笑)人々が思っているより大きなマーケットなんだ。スマホユーザーでシングルな人は6億人もいる。Tinderがリーダーであり続けるには革新し続けないといけない。既にある規模を活用すると共に、AIは大事になってくる。多くの人がAI自体がプロダクト、あるいはValue Propositionであるように語るが、新しいValue Propositionを生み出す力を与えるくれる、手伝ってくれるものだ。AIはデートの仕方を変えるかもしれない。

Q. それはどうゆう体験になる?AIを注入したときに。

A. 今はスマホを開いたとき、あまりに多くの選択肢があり氾濫してしまう。それらのノイズをフィルタリングしていき、自分と関係のある大事なことに行き着くことがユーザー体験において必要になってくる。5年後は、今とは異なる方法でデバイスと関わると思う。スクロールして探したりスワイプするのではなく、デバイスが賢くなり、答えを教えてくれる。Tinderはめちゃくちゃ良くなり、Siriみたいなものと連携され、「Siri、今夜はなんかある?」と聞いたら"Tinder Voice"が出てきて「街の通りにこんな人がいて、ショーンはきっと魅力を感じる相手だし、相手もショーンに惹かれているよ。たくさん共通点があるよ。どうやら彼女は明日の夜空いているみたいだよ。二人ともインディー系のバンドが好きみたいだけど、その演奏があるよ、チケット買っといてあげようか?」と。Tinderが君のために全ての仕事をやってくれる。ちょっと怖いかもしれないけど、そうなると思う(笑)

Q. AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などのツールが将来Tinderの一部になる可能性はあるか聞きたい。

A. メインストリームで受け入れられるデバイスがまだないけど、それが出てきたときは、避けられない。ユーザーの行動や体験に多大な影響を及ぼす。Tinderを始めたとき、同じ部屋にいても勇気がなくて声をかけれないことは機会損失だと思ったし、Tinderはある意味、匿名でウインクができて、相手も自分を気に入ったら会話が始まる。ARによって、そのような体験が実際の部屋でリアルタイムに起こる可能性がある。

Q. 人々がテクノロジーを人間関係やコミュニケーションを促すためのツールとして使う時に、(テクノロジーをどこまで利用するべきか、)健全なバランスをどう取ればいいと思う?

A. Tinderのいいところは、スマホを置いて、現実世界での、意味のある関係をもたらし、人生をより豊かにしてくれる、そんな数少ないアプリだ。僕らは常に注意をそらされている。それは社会的な問題になっていると思う。人生で何かの問題にでくわしたら、それに向き合い、友人に相談し、僕らは成長した。学習した。今は、それらの問題を簡単に無視することができる。スマホが常に鳴っていて、注意を他のところにそらされる。向き合うべき問題からさえ注意を奪うことがある。AIなどのテクノロジーは、それを解決できる。僕たちにいつ割り込むか、いつ貴重な情報を与えるかについてより賢くなる。

グローバルについて考えていること

Q. Tinderが伸びている国、インドとか。どの国でグロースが見られて、それについてどう思っているか教えてほしい。

A. Tinderはとてもシンプルだから、世界中で普遍的に使える。どこにいても理解できるし、先天的な課題を解決する。でも、文化的なニュアンスというものがあり、我々は考え方を変える必要に迫られることがある。インドが良い例だ。インドでの結婚や恋愛関係というのは家族の紹介を通して行われる。それが社会的に許容される規範にのっとる出会い方であり、そうでなければ社会的に白い目で見られる。そのような文化的なニュアンスを取り込み、プロダクトに反映させる必要がある。あるいは、マーケティングへの影響が変わるかもしれない。このように、グローバルに考えられるようになった。すごく難しいけど、やりがいがある。この会社を始めたときは、アメリカの会社、ロサンセルス(LA)の内輪な会社だと思っていたが、今では何をやるにしても、まずグローバルでの文脈を考える。今はグローバル・ファーストな会社だ。このシフトには時間がかかったけど、最高だよ。

言語のローカリゼーションも大事だ。シンプルなことと思うかもしれないけど。マーケティングのメッセージを正確に伝えたいと思った時に、社会的に意味がある、人々に響く言語・文脈を使うことは大きな違いを生み出す。人々は分かる。僕がチームによく言うのは、どこの国だろうと、その国にTinderの本社があり、Tinderがその国で生み出されたプロダクトだと人々が思うようになったら、グローバルカンパニーを作ることに成功したと言える。

また、特定のマーケットで大事になってくる機能とかイノベーションの話がある。例えば韓国のグループデートの文化はすごく大きく、許容されている。韓国ではいいけど、他の国ではダメかもしれない。

Q. 会社、事業を維持する上で一番良かった決断は?

A. Tinderについての大きなビジョンやどこに向かわせるかというアイデアが最初から当然あったけど、それでも、Day1から、ユーザーに耳を傾けた。ユーザーが何を言っているのかを紐解くと、自分が思ってもなかった場所に行かせてくれる。我々はバイラル・ハックを通して成長したわけではない。ヒューマン・ハックを通して成長した。それは、実際にバリューを届け、実際に赴いて、道路を舗装した。世界中の一つ一つのマーケットに行って、適したグループのところに行き、Tinderが何であるかというアイデアを吹き込んだ。そのような方法は時にコストがかかるかもしれないし、人気のあるやり方ではない。スケールしないから。世界中にチームを張り巡らせて道路を舗装するのはスケールしない。でもそのようなアイデアや実験によって、今のTinderになることができた。

ここはスタートアップ界隈で有名なY Combinator ポール・グラハムの「スケールしないことをせよ」という話とも通じる。また、適した場所や人を見つけ出し、適した文脈で語ってもらうというやり方は、ローンチしたDay 1から、グローバルなプロダクトになった今でも変わっていないようだ。

Q. Tinderは他のデーティングアプリと比べると、Hook-upのためのアプリだという評判があると思う。(Hook-up=付き合っていない人と一夜限り?でイチャイチャする関係) 。80%以上の人がそのような目的以外に使っているというユーザーデータがあることも知っているけど、そのような評判に対してどう対処してきたか、グローバルに拡大していく上で何か影響を受けたか。

A. 僕らは僕らの会社をIntroduction Company(紹介をする会社)だと見ている。誰か会う人を見つけることを簡単にする。その多くが結婚、友情、デート、Hookupに結びついた。それはレストランや友達を通して誰かに出会うこととなんら変わらない。自分が人生のどの段階にいるのか、何を求めているかによって、Hook upして終わるかもしれないし、結婚しないこともあるかもしれない。僕らは、人が出会った後に何が起こるかという文脈では考えていない。それは僕らが口出す領域ではない。誰か新しい人に会うための仕事、相手を知れるようになるための仕事をどう減らせるかを考えている。

面白いのが、数百年かけて、人との出会いかたは変化してきた。18世紀のフランスに戻ると、気に入った人がいたら、その人にカードを渡す。そのカードは自分のレジュメのような役割を果たした。ほぼTinderの原型と言える。相手も自分を気に入ってくれたら、カードを返してくれる。そこから、家族を通した紹介というのが社会的に許容されるようになり、そのあとはフォーマルな学校教育が普及し、彼氏、彼女、旦那さん、奥さんと、学校を通して知り合った。それはさらに進化し、クラブやバーで出会えるようになり、そしてTinder、オンラインデートになった。次の進化も僕たちがリードしていると願いたい。

競合について / 機能の根底にあるもの

Q. 競合とどう向き合っているか聞きたい。Tinderに似ているアプリがたくさん、長いこと市場に存在している。これらの競争をどう克服つもりか?

A. 正直、こんにちまで、僕は自信を持って、競合なんてどうでもいいと思っている。なぜなら僕らは自分たちがどこに向かいたいかというビジョンがあり、競合が何をやっているかは無関係だからだ。僕らはロードマップ(プロダクトなどについての時系列の計画)がある。僕は成し遂げたいことのとても長いリストがある。それを会社のみんなのところに持っていくと、みんなも自分たちのリストを持っている。それらを組み合わせ優先順位をつけ、僕らのビジョンにより近付くためのロードマップを作っている。そして競合というのは、たまに彼らの経験から学べることもある。ただ、最終的には、素晴らしい会社を作るのは、素晴らしい人たちによる、どこに向かいたくて、そのためのタスクはなんなのかという共通の理解だ。そのようなステップについて思考し、時間とエネルギーを注ぐ人がたくさんいるし、我々が何をやったかをも分析することもある。たまに自覚せずに行っていることもあり、それが今の我々が立っている場所にもたらしてくれたということもある。僕らが持つ情熱や、ビジョンにたどり着くための投資というのは、コピー・キャット(模倣する人)がやってこなかった投資だ。だから競合はハエのようにすぐ落ちていく。

そして僕はまだ有力な競合を待っている。それは、カードの束を用意して、そこに人を入れて、スワイプさせるような連中では無い。なぜならそれはTinderでは無いからだ。フードの下にはそれよりも、もっとたくさんの科学があるのに、表面的なことだけをやろうとする競合がたくさんいる。僕は、Tinderについて考えているのではなく、解決したい課題について考えていて、ユニークな解決策を生み出す人を待っている。僕が話をしたいのはそんな相手だ。問題を特定すること。僕らのソリューションは一つのソリューションに過ぎない。僕らが向き合っている課題を解決する方法は100通りくらいあるだろう。会社を作るのは、全員がビジョンについて一致団結し、顧客に届けようとするモノがなんなのかという点だ。そして僕らはそれをよく分かっている。それが僕らの競合優位性だ。プロダクトやユーザー数ではなく、自分たちが何をやっているのかを分かっている「チーム」が競合優位性である。

カードに人の写真がついていて、それを右左にスワイプするのがTinderでは無い。それは機能であり、プロダクトの機能の背後にはより深い思想、解決したい課題、ミッションがある。

ちょうど昨日(9/12)からSwipe NightというのがTinder上で始まって話題になっていた。これは運営側がエンタメ寄りの動画を用意し、ユーザーが主人公視点で次に取る行動をスワイプ形式で選択でき、この選択によってストーリーのシナリオが分岐していくというものだ。

自分と同じ選択を取り同じ結末を迎えたユーザー同士はマッチングしやすくなり、自分のプロフィールにも自分が取った選択が可視化されるのだという。マッチした相手とは、その動画のストーリーについて言及すればいいので、最初の一言、なんて言おうか悩んでいたような人も、会話のネタができる仕組みだ。

人と人が知り合うハードルを下げることが解決したい課題であり、そのための解決策を、Swipe Nightのようにどんどん提供していくのがTinderというプロダクトだ。

なお、競合については別インタビューでは下記のように語っている。

YikYakはコミュニティを育て、人に発言力を与え、みんなから聞いてもらえるようにする。Joberは仕事に基づいて人をつなげる。Tinderのビジネス版もある。Snapchatは最近大学に紐づく「Stories」の動画を出している。これから数年でそうゆう会社が増えると思う。

※ YikYakはスマホ用の匿名の掲示板チャットサービスとして非常に有名であったが2017年にクローズしている。

また、2020年の今、他人と知り合うことができる要素が強い競合はきっとゲームも含まれてくる。その辺のことはフォートナイトの記事でも触れた。

実際にTinderの広報担当者がフォートナイトを意識しているらしいという記事もある。

(オンラインゲームの)『Fortnite(フォートナイト)』や『あつまれ どうぶつの森』はとても意識しています。(面白いコンテンツがあることで)人々が自然に集い、同じ体験ができる空間がつくれれば」(Tinder 広報担当者)

TinderはSNSの一つ?

Q. 君たちはモバイルで、写真に依拠していて、今の流行りのチェックボックスを全て埋めているように思う。(※インタビュー当時2014年)。今のマーケットに何を見ていて、君をワクワクさせる、これから大きくなる領域は?

A. これから言うことは(Tinderを運営しているから)利己的に聞こえるかもしれないがそうではない。これまでの10年間(※2007-2017)はソーシャル・グラフを定義することだった。SNS上で友達を探し、彼らとコミュニケーションを取れるようになった。何人フォロワーがいるかで自分たちを定義するようにもなった。次のソーシャルの10年(※2017-2027)は、それらを使い、ソーシャル・グラフを拡大し、既存のグループの外へ冒険することになる。ユーザーがこのようなことを欲している。新しい人と知り合い、交流を広げ、ソーシャルな体験がしたい。Tinderのような会社がそのようなムーブメントの先頭を走れるように願う。

Q. Tinderがデートや恋愛のためだけじゃないと人々をどう説得する?

A. 他人と知り合いたい理由はたくさんある。恋愛したいからというのは大きな理由の一つだけど、恋愛だけが全てではない。他の領域にも適用できる。今のところ何かをすぐにローンチする予定はないけど、僕たちはTinderの長期ビジョンについて常に考えている。この講演会の部屋にだって、誰かしら会ってみたい人がいるだろう。ここにいる全員をスワイプできて、その人についての情報がちょっと知れて、実際に知り合いたいかどうか決められるってなったらどれだけクールか。Tinderが恋愛領域で解決しようとしている課題は、他の一般的な出会いにだって存在する。この部屋にも存在するし、たくさんの領域に適用できる。生涯を一緒に過ごす相手を探すためだけにいるのではなく、ソーシャライズしていろんなことをするために生きている。僕らは、恋愛だけではなく、全ての人間関係の最前線に立ちたい。

ここで、Seanが他の記事で言及した、Tinderの会社のビジョンを見てみよう。

We want to break down barriers and bring the world together

バリア(壁)を壊し、世界を近づけたい。

続いて、Facebookのビジョンも見てみよう。

Give people the power to build community and bring the world closer together.

世界を近づけたい。

TinderとFacebookのビジョンは似ている。人と人が繋がることや、人と人が知り合うこと、コミュニケーションを取り始めることの敷居を下げたのがTinderであり、これは広義のSNS、もっと大げさに言うと、人間関係やコミュニケーションに一つの革命をもたらしたとさえ言えるかもしれない。

ところで、Tinderとはどうゆう意味だろう。Cambridge辞書を覗いてみよう。

Small pieces of something dry that burns easily, used for lighting fires

火を付けるために使われる、燃えやすい、小さい乾燥した材料など。

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"Tinder"とは火そのものではなく、着火するのを助ける木屑などの材料を意味する。人と人が知り合うこと、そこに火が灯されることを助ける黒子の役目を果たすのがTinderなのかもしれない。

(おわり)

Twitterでもいろんなプロダクトについてツイートしてます。(@ishicorodayo

※ インタビューのソースは下記に載せておきます。複数の動画から関連する箇所をバラバラに抽出し組み合わせているので、一つの動画内容だけではこのnoteのQ&A通りにはなっていないことはご了承ください。

↓こちらの動画は高揚します。僕も数年前にアプリ開発しながらこれをBGMにしてモチベーションをあげていましたw

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