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Interview 黒田卓也『Fly Moon Die Soon』:デモしか作れないと思っていたけど、ついにメイン・プロダクションもそこまでのレベルにきた。その答えになっている。

黒田卓也は2014年の『Rising Son』の時に作曲のプロセスについて、まずデモ音源を作って、それを元にバンドに演奏してもらうと語っていた。2016年の『ZIGZAGGER』ではデモの精度が上がったことがアルバムのクオリティに貢献していると語ってくれた。

この2020年の『Fly Moon Die Soon』ではデモではなく、その自らがプログラミングで作ったビートを音源に採用し、バンドでの録音にこだわらず、自身のビートを軸にアルバムを作り込んだ。すべての楽曲にバンドメンバーがいて、生演奏が軸になっているが、黒田はビートだけでなく、キーボードやシンセベース、フェンダーローズ、パーカッションなど、自身が奏でた楽器を重ねて、それをバンドの演奏とブレンドさせている。ここでの黒田はトランぺッターや作曲家というよりは、プロデューサー/ビートメイカー的になっている。本作ではそれに伴いトランペット奏者としての彼の役割も変わっている。プロデューサー視点で自身のトランペットさえも素材のひとつとして扱った部分でも、トランペット奏者として技術的にもかなりチャレンジングな演奏をした前作とは大きく異なっている。

つまりこれまでの作品と本作は制作のプロセスから意図からあらゆる部分でが全く違うものということだ。ここではその新たなプロセスの詳細とそのプロセスがもたらしたもの、その意図を黒田に聞いた。

取材・編集・構成:柳樂光隆
取材協力:THE TRUMPET & ユニバーサル・ミュージック

プロデューサー視点で制作した『Fly Moon Die Soon』

――アルバムのコンセプトを教えてください。

サウンド・エンジニアリングに特化してますね。これまでは僕がDAWで作ったデモをバンドに落とし込んで作ってたので、デモはあくまでプリ・プロ(ダクション)だったのが、今回はプロダクションになったのがデカかったです。自分のビートはデモのレベルだと思っていたんですけど、2年前にエンジニアと僕だけでスタジオに入ったときに「この部分はそのまま行ける」「スネアの音は意外といい」とか、エンジニアが僕のビートメイクを後押ししてくれて。そこで自分とエンジニアの2人でもできるんじゃないかと思ったんです。

これまでもドラムのパターン、ベースライン、ピアノのコードにしても、基本的には全部自分で考えてきて、それをバンドメンバーに落とし込んでやってもらっていたので、結局は全部自分でやっていたんだってことがわかった。だったら、俺だけで出来ちゃうじゃんと。

それで2年前に自分への誕生日プレゼントとして3日間スタジオに入ったんですよ。トッド・カーターってエンジニアと僕でやってたら、2人だけでここまで出来るのかって感じで。「Fade」の前半部分のトラックに関してはほぼ僕なんです。僕が持って行ったビートのバスドラを置き換えたり、色んな音を足したり、シンセも自分で弾いてます。これがインスピレーションになって、今自分がやりたいのはこれやなって。この曲が今回のアルバムの入り口になりました。

――ビートを作ることに関してはどんなことをやりましたか?

僕はエイブルトンで作ってます。自分の家で出来ることは家でやってからバンカースタジオに行ってエンジニアと相談して、このベースドラムは変えてみようってなったり。俺が持って行ったベースドラムの音がいい音じゃないってことで、26インチのベースドラムだけ持ってきて、応援団みたいに俺がバーンって叩いたのをサンプリングしたり。そうやってサンプリングを自分自身でやったことによって、生感も出るし、自分の作ったビートのパターンは変わらない中で、音がどんどん良くなっていきました。

――前作『ジグザガー』の時も「デモのレベルが上がった」って話をされてましたよね。

あの時も自分の中ではイケてるよなって思ってたんですよ。でも、結局はスタジオでバンドで録ったんで、バンドが80%から90%くらい。今回は逆で80%は自分で作ったものを使ってます。

――ビートメイカー化もしくはプロデューサー化されたわけですが、『ジグザガー』以降って、トラックを作るってことに関してなにか変化はありましたか?

シンセを買って、ローズ・ピアノを買って、アープオデッセイを買いました。ヤマハDXは以前から持ってました。ローズがあれば自分でレコーディングが始められるんですよね。ソロ以外で大林武司を呼ばんでいいやんみたいな。例えば、「Rising Son」のテーマとか、猫でも弾けるじゃないすか。あんなんを自分で弾いてそのままレコーディングが始められる環境が欲しかったんですよ。上ネタとベースが弾けるようになったら、ドラムの腕もどんどん上がっていってパターンも面白くなっていったんですよね。

――なるほど。

自分とエンジニアだけでどんどん制作を進めて、時々メンバーを一人づつ呼び出したんですよね。バンドでやると、誰かが発したことに対して受け答えするように演奏して音楽をやるじゃないですか。それは素晴らしい能力があるからできることなんだけど、誰かが出した音楽に対して演奏するってことは5人いたら、誰かが間違ったやつに反応したら5人とも間違ったほうに行ってしまうこともある。でも、僕はその時の立場はトランぺッターとしていなあかんから、プロデューサーの立場にはなれないんですよね。だから、「これがバンドの音だ」ってところで落としどころを掴んでいたのが今までのアルバムでした。

今回はスタジオに一人づつ呼んで、僕がコントロールルームにいて演奏してもらったんですけど、そうしたらみんないい演奏するんですよ。他の要素は僕が作ったビートだけなんで、他のメンバーの演奏に邪魔されないんです。ドラムだったらこれを叩いてくれっていうのがはっきりわかるから、いい演奏をやりよるんですよ。そうやって少しづつ曲の部分部分を完成させていくことで、自分の理想に近づけることができました。もしかしたら自分の音楽はジャズミュージシャンを集めてレコーディングをするような作り方をする音楽じゃなかったのかもしれないとも思いましたね。

ライブではジャズ・ミュージシャンとしてソロも取りたいし、その場の瞬間のインタープレイで奇跡や爆発的なことを起こしたいと思いますけど、アルバムだと目指しているのはそっちなのかなと。

――黒田さんはもともとどういう方法で作曲するんですか?

以前はピアノで弾いて譜面に落とす感じでした。今は全てのレイヤーをシュミレーションしてます。4小節のループを作って、それを20分くらい流しながらなんかアイデアが出るまでいろんな音を叩きまくったり、カウンターラインに乗る場所、気持ちよくはまる場所があるはずだと、考えるみたいなやりかたですね。ゆっくり作ってる方だと思います。

”素材としてのトランペット”の奏でかた

――次は、トランペットについても聞かせてください。『ジグザガー』では敢えて難しい技術にもチャレンジしたと言ってましたし、実際にトランぺッターとしての魅力がかなり目立った作品でもありましたよね。今回は?

ライブを想定して曲を作ってなかったから、表現ってところだけを気にしてました。パートパートの中で、曲の中に自分がいるって感じで、自分が目立つために書いた曲がないんです。

――曲の「素材」としてトランペットを吹いたってことですよね。その素材をとるために使った奏法や工夫したこととかありますか?

サウンドデザインにこだわったので、マイクからめちゃくちゃ遠いところから吹いたりしました。あとはアップライト・ピアノの上を開けて、そこに向かってハーマン・ミュートを吹いて、ピアノが共鳴する音を録音しました。曲の雰囲気をカラフルにするためにサウンドのソニックな部分でいろんなことを試してます。他には自分の音を4回くらい重ねたりもしてますね。

――自分ひとりでいろいろ音を録ってビートを作るプロセスでアルバムを作る人って、ドラマーやキーボードだと増えてますけど、管楽器だとまだまだ少ないですよね。管楽器奏者って一人で完成させるためにいろんな音を録って重ねる際に、自分の楽器をどう使っていいか悩むところだと思うんです。黒田さんは今回、トランペットで素材を作るためにどんなことをしましたか?

まず自分の楽器の特性を知ることが重要ですね。僕の楽器はマウントバーノンバックなんですけど、このトランペットは音色に特化してて、パンチはないんです。それをエレクトリックが強い音楽の中でどう前に出すか、どういうエフェクトを使ったらいいかを考えてます。サブトーンの空気を含んだソフトな音をエレクトリックなサウンドが強いところでも前に出すために何回も何回も重ねたりとか、マイクのゲインを上げて離れて吹いたりしてます。
これは自慢なんですけど、音を重ねたら、エンジニアに「重ねてないやん」って言われたことがあるんですよ。2回吹いたのが全く一緒で重ねてるように聴こえなかった、と。いつもやってるから、重ねるのに慣れてるんです。最初のころは2回目のピッチが悪くなったり、むしろ苦手だったんですよ。トランペットってピッチ悪いと目立つ楽器なので重ねるのはシビアなんですよ。でも、それも何度もやって身体で覚えたというか。なぜ重ねるのが難しいかっていうと自分の音を聞きながら吹いた時点で遅いので、聴きながら吹いて合わせることってほぼ無理なんですね。なので、野球で同じスイングを毎回できるかと一緒で、身体が覚えてて同じことができるかどうかが重要ですね。

――管楽器を重ねる手法で印象的な人っていますか?

ロイ・ハーグローヴですね。マーキス・ヒルのアルバムでもロイに捧げた曲があって、思いっきりロイの感じでしたけど、重ね録りで雰囲気を出すっていうのはディアンジェロの時のロイが先駆者ですね。

ーー影響受けたロイの重ね録りってどの曲ですか?

ディアンジェロ「Playa Playa」Take 6「Someone to Watch Over Me」ですね。

――他にトランペットで作った面白いサウンドってありますか?

「Fade」では、バルブで空気だけ出してヘリコプターの音みたいな音を鳴らしてるんですけど、それをドラムみたいに使ったりしてますね。よく聴くと下にずーっと鳴ってます。

――それは珍しいですね。実験音楽的な場所ではありそうな手法な気もしますが、黒田さんみたいなタイプの音楽では見かけない。

そうですね、しかも、敢えてビートのひとつとして使うというか。リズム的にもちょうど16分になってたんで。

ーーなるほど。

トランペットに関しては「ABC」「Sweet Sticky Things」はいつも使ってマウントバーノンバックじゃなくてセルマーを吹いてるんですよ。去年ちょっとだけセルマーに浮気したことがあって。このアルバムを作ってるときもそうだったんですけど、日によってめっちゃ調子が悪いときがあって、バックは終わりかなと思って、今後のためにもと新しい楽器を探してて、去年の6月にサンディエゴでセルマーK-MODIFIEDを見つけて買ったんです。パンチのある音なんで、「ABC」を聴いてもらえるとわかるんですけど、今までにないフレーズが出るなって思って気に入ってたんです。もちろんサブトーンが出るようなダークな音ではあるんですけど、もっとパンチがあって、ぐっと詰まった音が鳴る楽器だったので、バックではできないフレーズがたまに出るんです。楽器が変わるから、息次の場所が変わったりとか、セルマーはラージボアやったんで楽器の大きさ自体も違ったし。それが楽しかったのもあって、新しい自分の表現になるんじゃないかって思って、「ABC」「Sweet Sticky Things」のソロはセルマーでやってるから、自分で聴いても面白いなと思いました。

――その違いは面白いですね。

ただ、そのセルマーも古くて、ガタが来ていたんで、ノナカ・ミュージックハウス沼田さんってリペアマンをスカパラのNARGOさんに紹介してもらったんです。彼がすっげー丁寧に調整してくれて、こんなリペアマン会ったことないってくらい感動したんです。ほんのすこしづつ調整しては「吹いてください」また調整して「吹いてください」って、「どうですか?」「まだここだめですね」みたいな感じでやったら、すごく調子が良く吹けるようになって。そこでバックが調子悪くなったって話をしたら「今度持ってきてください」って言われて、今年の1月に持って行ったら「これ壊れてますね。唾抜きのところ外れてます。これはタイヤ三つで走ってる車みたいなもんです」って言われて、その場で直してくれて、パッと吹いたらパーンって鳴って、沼田さんも「セルマーよりこっちのほうがいいですね」ってなって、今はまたバックを吹いてます(笑)

――なるほど。

沼田さんは僕が目指すことを考えていじってくれたんですよ。「黒田さんの音を聞いたんですけど、上でキャンキャン吹く人じゃなくて、抜いた感じが欲しいんでしょ」って。「あまり直さないほうがいいかも」とか、「ここを締め過ぎたら鳴るようになるけど、黒田さんが好きなところが無くなっちゃうかも」とか。そういう細かいことを一緒にやってくれたんですよ。

――そのプレイヤーのやりたい音楽に合わせた調整をしてくれると。

それって大事じゃないですか。正解はひとつじゃないって言ってくれる人というか。

――管楽器ならではの話かもしれないですね。ただ直すんじゃなくて、その人の音楽にあった直し方があると。

特に僕はややこしいじゃないですか。シビアなハイノートを求めているわけじゃないし、メロディーをふわっと抜いた感じで吹きたいし。

サブトーンって楽器で言うとベストな状態じゃないらしいんですよ。ゆるく設定してるからああいう音が出るだけであって、普通はタイトにして、パーンって鳴るのがトランペットの常識。だから「黒田さんの音はわざとゆるくしてあるから鳴ってるんですよ」って、それと同時に「でも、パーンって行きたいときは行きたいんですよね」って。修理のために僕のYouTubeを全部見たらしくて。最初の修理でセルマーを持って行ったら、その後YouTubeを見て「(あの動画は)セルマーじゃないですよね」って話をしてくれて。YouTubeは全部バックだったんですよ。それって愛じゃないですか。そこまでしてくれる人には会ったことがなかったから、感激したんですよ。

バンドではなく、ひとりで音楽を作ること

――いい話だ… Covid-19状況下のこういうご時世なんでみんな一人で作らなきゃ音楽を発表できなくなくなったりもしてるわけですよね。ここでは自分ひとりでいろんな楽器を演奏して、自分ひとりで音楽を作るって話をしたいんです。その中でも、あまり得意じゃない楽器を含めて自分で演奏するってことについて聞きたいです。

このアルバムに関してはエンジニアがいてくれなかったらここまではできなかったとは思います。でも、今後、この比重は増えるんじゃないかと思いますね。

その一人でいろんな楽器を演奏する能力は自分が演奏するときにも役に立つ感覚がありますね。全ての楽器のパターンや楽器の特性の理解につながるし、そこから現代ならではのハイブリッド感が出るんじゃないかと思いますね。昔からマルチプレイヤーはいっぱいいて、いろんな楽器を演奏する人はうじゃうじゃいる。でも、制作に取り掛かってプロデューサーになるまで進むのは根性がいるとは思うんですよ。「何でもできる=プロデュース」ではないと思うんです。全体像を見られるのはまた違う能力なのかなと解釈をしてます。

例えば、キーボーディストって何でもできるじゃないですか。左手でベースは弾けるし、コードも弾けるし、音色さえ変えたらどんな楽器にもなるし、ドラムのパターンさえ覚えたら指で打てばいいし、彼らは最強なわけですよ。かといって彼らが作るものがいつも音楽的なのかとか、プロデュース面でいいかどうかはまた別じゃないですか。「楽器を演奏するが高い能力=素晴らしい音楽」かというと絶対違う。むしろ下手だからできる音楽もあって、ミニマムだからこそ伝わるものもいっぱいある。その落としどころを決めるのはプロデューサーだと思うんです。自分がプロデューサーであるのか、マルチプレイヤーであるのかは常に切り離したいとは思ってます。それが両方できる人も世の中にはたくさんいるんですけど、その中でいいトラックに繋がるためにはいろんな音楽を聴かなきゃいけないし、いろんなことにチャレンジしなきゃいけないと思う。誰々っぽいものをいくら作ってもダメだと思うし、そこでも試される。ヴィジョンあっての器用さが必要だし、ジャッジもできないといけない。

――なるほど。

テクノロジーが進んで誰にでもチャンスがある中でジャッジがどんどん厳しくなっていくのかなって思ってます。だから、生(演奏)が上手な人は生でやってたらいいんじゃないかとは僕は思ってます。楽器ができない人がこういう場所をどんどんやっていて、ヒット作品を出している理由はそういうところにあると思うんですよ。ジャズ・ミュージシャンとして演奏の腕の立つ人が突然その能力を得たからって大ヒットが出たら苦労ないですよね。その辺の住み分けや解釈の差はあってほしいとは思います。そうじゃないと面白くないじゃないですか。

――黒田さんはMISIAJUJUなど、Jポップの仕事もしています。そのヴィジョンを持てたり、ジャッジができるようになったこととポップスの仕事をしていたことは関係はありますか?

自分のマーケットしか知らなかった僕に色んなものを見せてくれましたよね。音楽的価値観の違い、需要と供給が全く違うのは勉強になりました。僕がいるマーケットではいいと思うものがいいんだけど、それはこっちのマーケットでは需要がないと。それは潔く見るべきだと思うし、その需要と供給が僕の活動で広がればとも思いますけどね。

――以前、ハイエイタス・カイヨーテのドラマーのペリン・モスにインタビューしたことがあるんです。彼も黒田さんと同じように自分で様々な楽器を演奏して重ねて音楽を作るソロ・プロジェクト“クレヴァ―・オースティン”をやっています。そのプロジェクトについての話をしていた時に「自分が決して上手くは弾けない楽器でも、自分で弾いたほうが自分にしかないストーリーが出る。」って話をしてくれました。ここでは黒田さんもトランペット以外を演奏してますが、黒田さんもそういうことを感じますか?

めちゃくちゃ賛成します。ジャッジができてはじめてそれが言えるんじゃないですか。いいものがどれなのかがわかって初めて言えるわけじゃないですか。飯でも全部高級なもので作った方がうまいんかって言ったら、天一のほうがうまいなってときもあるじゃないですか。今はあれが食いたいねん、みたいな。ミシュラン取ったシェフを天一のキッチンに立たせて高級食材で作られても、いや別に今の俺はこれが食いたいわけちゃうねんなって。そこからですよね。食べたいものが決まってたら、ふさわしくないシェフを呼んだり、高級食材を用意する必要はないと思うんですよ。

音楽でも一緒なんです。それはアフロビートをやってるからよけいに思うんですけど、アフロビートってちょっとピッチが悪かったっていいんですよ。むしろきれいなアフロビートなんか全然良くないじゃないですか。アフロビートなのにホーンが5人並んで、ぴっちり合ってたらキモいんですよ。ガチャガチャやってた方がいいし、きったないトランペットでびや~~んとかやってた方がかっこいいんですよ。僕はアフロビート好きやからみんなに聴かせるじゃないですか。人によっては「フェラ・クティのソロは聴かれへん。下手なおっさんやん」っていう人もおるんですよ。そういう人は少なくないと思うんですよ。僕もそうも思いますから(笑)でも、「ごめんな。あの人が作った音楽やからあれが物差しやねん」って。「下手やけど、あれが答えやねん」と僕は思うんですよ。

どの観点から物を見ているかってすっごい大事なことなんですよね。セルゲイ・チャカラコフがうまいのは猫も杓子もわかる。でも、あれが一位かって言ったら、そうとは限らないですよね。

――僕もアフロビート大好きですけど、フェラ・クティもシェウン・クティも器楽奏者としては下手ですよね。でも好きなんですよね。

下手ですよ。ロングトーンとか全然しないですからね。でも、あれがいいんですよ。

――で、このアルバムに繋げると、鍵盤のスペシャリストの大林武司さんも泉川貴広さんも呼んでいるのに、ほとんどの鍵盤を黒田さんが自分で弾いてるところですよ。

彼らに申し訳ないんですけど、ソロ以外は、どれが自分でどれが彼らはわからないんですよ(笑)。「ここ俺やったっけな?」とか。大林くんやと思ってるのが僕やったり、何なら歌ってんのもコーリー・キングやと思ってたら僕やったりしますからね。カラー的な役割の声はほとんど僕ですよ。皆さんには申し訳ないなと、夢を壊してしまって(笑)

――でも、ヴィジョンがあってジャッジができれば、そういうことができると。

「これは下手やから黒田やな」って思われたらダメですけど、誰がやってるかわからないのがベストじゃないですか。今までの悩みが払しょくされたんですよ。僕にはデモしか作れないと思っていたけど、ついにメイン・プロダクションもそこまでのレベルに来た。(本作は)その答えになった気がしますね。

――ところで、ジャケはふざけました?

いやいやめっちゃ真剣ですよ。

――なんなんですか、これは?

ウルトラマンです。写真家の友達のやつにアイデアないかって聞いたら「卓也くん、ゴールドだよ。曲を聴いてたらゴールドが見えた」って、そいつの言うままに撮りました。ジャケットは仮装大賞やね。これはシリーズ化ですよ。

――これのテーマはみんな考えるところですよ。僕が思ったのは北斗の拳。世紀末覇王かな、みたいな。

でも、光り輝いていますから。ファンキーですよ。宇宙船の船長ですよ。フューチャーレトロていうか。音像的に2050年とか、2100年にレトロに聴こえる曲のイメージなので。


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