見出し画像

NOT WONK 「dimen」アートワークについて

 2019年12月24日札幌三越のDiorでグレーのマニキュアを買った。1年かけて準備したイベントも終え、全て許されたような気分になっていた私は、自分のパートナーとクリスマスプレゼントを買いに出かけた。堂々と飾られるマニキュアがなんだか非常にかっこよく見えたのでむしろ自分のためにその場で買った。店員さんには優しい彼ですねなんて褒められたけれど、それは俺のマニキュアだ。それから何するにでもしばらくそれを塗って生活してみていた。そうするとふとした瞬間に自分の視界に入る爪先に色が乗っているということが文字通り生活に彩りを与え、細かな所作がいつもより愛おしく感じられるような素晴らしい体験になった。それが習慣になった。これは最高だ。どちらかと言えばゴツっとした自分の手は嫌いではなかったんだけど、それが見違えるようでどちらかと言えば好きになった。

 適切な言葉がなかなかみつからず、少し回りくどいのだけれど、この頃から女性の方が身に付けていることが多い物や、慣例的に昔から女性の方がよく行っているようなことや視点がとても魅力的に感じるようになった。これはそのままの意味で自分にないものに憧れていたのだと思う。けれど、「女性的なものが好き」だとか「男性性から離れたい」だとか、「ユニセックスなものにしたい」というのもどれも違う。そんなことを言いたいのではないと感じていたし、それがどれほど厚顔無恥な言葉遣いであるかとも思っていたのでうまく自分の中でも答えを出すことができずにいた。翌年、2020年に入ってから音より先にアートワークの制作に取り掛かった。なんとも説明のつかない歯切れの悪い感覚について考えていたかった。自分の中で決まっていたことはネイルアートを施した自分の手の写真ということだった。

画像3

 ネイルアーティストのミヤカワミホさんと写真家の池野詩織さんのことが一番最初に思い浮かんだ。単に女性と一緒に何かものづくりをしてみたいという気持ちより、言葉にもできない自分が感じたことを丁寧に具現化するにはきっとこの2人しかいないだろうと感じた。ミヤカワさんとは全く面識がなかったけれど、彼女のInstagramにアップされる未編集の手の写真が飄々としていつもクールに見えて、札幌三越でマニキュアを見たときに感じた昂揚があった。経緯を説明しメールでオファーすると快く引き受けてくださって、同じようなことを考えていると返信をいただいた。ネイルアーティストであるミヤカワさんも個人にとってのリアリティと一言で言い表さない複雑性を大事にしているという趣旨のメールだった。詩織ちゃんは数年前からの知り合いで、彼女の撮るポジティブで超パワフルで細やかな色を持っている写真が詩織ちゃん自体を如実に表していて大好きだった。彼女が好きなもののことをどれほど好きなのか、ということを一発で伝えてくれる感じがしている。詩織ちゃんにもメールを送ると即答で快諾してくれた。グダグダと答えのないような煮え切らない自分の思いを2人ともその感じわかるよ!と言ってくれたのが何より嬉しかった。この時点で少し思っていたのだけど、女性だとか男性だとかという前に俺は少しのことを丁寧に考えていたかっただけなのかも。

 思い返してみると、メンバーは男3人、当時レーベルのスタッフやマネージャーも全員男でしかもスタッフは全員40代以上という環境は少し異常だと感じた。単に思考が偏ってしまうことと、気づかぬうちにホモソーシャルが深みを増していくことで私たちが最悪の集団になる可能性もあると薄らと危機感すら感じ始めていた。バンドという形やロックとホモソーシャルはある種相性が良すぎる。無自覚でいることでどれほどの多くの人を傷つけてきただろう。2015年にファーストアルバムを出した頃はジューク、ハタチの若者って感じ?で若い振りもしていられたのかもしれないけれど、NOT WONKもいい加減25,6歳の大人のしかも男なので自分より若い世代や女性に年上・男が故の害を与えていることがあったかもしれない、と急に不安になっていた。なぜなら俺はそういうのが一番大嫌いでクソファックオフでシニアだと大声で歌ってきた。だから写真の中身ももちろん大事なのだけれど、ミヤカワさん、詩織ちゃんとの関わりについて丁寧に考えることが男性としての僕個人として、更にいうと男ばかりのNOT WONKとそのチームの仕切り役としてのテーマになっていた。自分だけではなく少なくともNOT WONKと名の付くところを最悪の集団にさせてはならんなと責任を感じる。

画像2

 そういったことを率直にミヤカワさん、詩織ちゃん、そしてアートディレクターのヨッケさんに伝えて入念に色や構図を話し合った。「女性的」、「ユニセックス」は禁止で複雑なものを複雑なものとして考えたかった。ありのままや等身大という言葉はどうも安っぽくて嫌いだけれど、ないまぜになったものをないまぜのまま形にしたかった。安易にネイルアートを”女性的”だと捉え、敢えてそれをゴツッと"男っぽ"くてゴツっとした”男性的”な私の手に施し、そのギャップがなんかいい感じでカッコかわいくてお洒落だよね、というのが一番最悪な結末。対極であると思う。そうなった瞬間にゴミ箱にブチ込むべきものになってた。

画像3

 出来上がった一枚の写真をみて、人がどう感じるかは私の範疇ではないので、この写真に対しての俺の気持ちなんかは特に判断材料にしてもらわなくていい。出来上がったものが何を語るかは、必ずしも作った人間の意思と一致しない。あらゆる作品はいろんな言葉でいろんな場所で自由に語られる土俵にある。自由に考えたり考えなかったり、言葉にしたりしなかったり、してほしいなと思う。
 このジャケットを作るにあたって、私や私たちがそれぞれ考えたことや交わした言葉や関係こそが一枚の写真に収めたかったことではあるけれど、この写真が何を語っているのかまだわからない。このアルバムが何を語っているのか、実は僕もまだ考えている。

画像4

NOT WONK 4th Album 「dimen」cover art

Nail Art : Miho Miyakawa
Photo : Shiori Ikeno
Design : Yosuke Tsuchida
Styling : Hiroaki Iriyama

2021/1/27 out

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?