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ドリルを売るには「穴」を売れ? 成熟時代は、三方位から考えよう。

マーケティング界ではあまりに有名な「ドリルではなく穴を売れ」は、2020年の今でも通用するのでしょうか?

この理論、もう50年以上前にあみ出されたもので、いまだに「穴にフォーカスしていいのか?」と問題提起する必要があると思っています。

そして結論からいうと、市場成熟時代には、素直に穴を売ろうとする視点だけでは足りません。


「ドリルを買いにきた人が欲しいのは、ドリルではなく『穴』である」

これは、「顧客が真に欲しているモノは何か?」を考えるメタファー。馬鹿正直にお客さんが口にするニーズに振り回されてはいけない、という教訓でもあります。


でも実際のところは、単純に良いドリルを買いたい人もいれば、そもそも穴がいらないのにドリルを買いに来ている人っていないんでしょうか?

今日は、モノを売るためには、「抜け道思考」も大切だよって話をします。

「穴」を売るのは、王道プレイヤーの道

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ドリルを買いに来ている人たちが、「穴」を欲しているのは間違いありません(笑)

ただ、「穴」を求めている人に、穴へのこだわりがあると思いますか?

「ちゃんと均一に穴があけばいい。それくらいの品質さえ満たされていれば、ドリルはどれでもいい。」

これが、リアルな顧客心理ではないでしょうか?

穴にこだわりがない人たちに、穴を売るのって非常に難しいんです。一定水準以上の品質さえ満たされれば、差別化要素が「価格」だけになります。

そうすると、安くて良いモノを作れるプレイヤーが強くなるので、穴マーケット(そんなのあるのか?)は勝者総取りのゲームになります。

つまり穴にフォーカスして戦うのはレッドオーシャンで、実は差別化しづらいんですね。

「顧客が真に欲しているモノは■■ではない、▲▲だ!」というのは、成熟した市場であればあるほど、馬鹿正直に信じないほうが良いのかもしれません。

じゃあ、穴を売らずに何を売ればいいの?

馬鹿正直に「穴」を売っても勝てないのなら、一体何をお客さんに売ればいいのでしょうか? 

僕は、この2つの視点を考えることで、なにか勝ち筋が見えてくると思っています。

①愛着を持てるドリルを提供する
②新しい穴(ニーズ)を提供する

1は、ドリルそのものにニーズを生む方法ですね。意外と「カッコいいドリルが欲しい!」「部屋に置いていても違和感がない」そんなドリルニーズもあるんじゃないか?という話です。

2は、新しいドリルの使い方提案です。「穴をあける以外にも、こういう使い方があるぞ!」とお教えするのです。(ドリルの新しい使い方は、まったく思い浮かびませんが・・・w)

ここからは、馬鹿正直に穴を売ることなく、ドリルの売り方を変えて成功した事例を取り上げてみます。

それが、note、apple watch、ロウソクです。

①note:「noteでいい」から「noteがいい」へ

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 いまでこそnoteは一大プラットフォームですが、正直良い穴を提供して伸びたサービスではありません。むしろUI、UXともにまだまだな状態でありながら、大きく育ったプラットフォームです。

松本さんのこちらのツイートが分かりやすい(引用失礼いたします)。

今もそうですが、アプリとPCでは使える機能が違いますし、UIとしては不十分な面も多々あります。サークル機能なんて、使い勝手悪いですよね・・(笑)

しかもnoteローンチ当時、はてなブログやwordpressでの個人サイトが主流、プラットフォームとして大きな優位性はありませんでした(気軽に課金ができたのは、大きいと思います)。

それでも、noteがこれだけ愛されるようになったのは、「noteでいい」ではなく、「noteがいい」とご指名をいただけるようになったから。

しかも選ばれる理由は、サービス機能ではなく、noteが持つ思想やコミュニティ、雰囲気によるものだと思います。いわゆる、愛着ですね。

以下、上記のインタビュー記事抜粋です。

—— noteはコミュニティのような雰囲気もありますよね

加藤:ぼくたちは「街」という表現をよく使います。クリエイターの集まる街を作りたいんです。彼らのための街ができると、クリエイティブが流行って、クリエイターが創作活動をつづけられるだけの収入も得られるようになる。そのお金の一部で僕らは運営していければいいという考え方です。だからクリエイティブを何よりも大事にしています。

—— そういう運営方針に共感するのか、ライターや編集者さんのような方がnoteを書いてることも多いですよね。

加藤:共感してもらえているならうれしいですね。クリエイティブしている人たちは、お金も必要だと思いますが、いちばんの根本はやっぱり表現したいことがあってやっている。僕たちはその部分でいかに役立てるかということばかり考えています。きれい事に聞こえるかもしれませんが、そのうえでビジネスとしてもしっかり回るのが理想だと思うんです。

 目新しさがあるわけでもない発信プラットフォームで、noteを使う「意味」を開発側がていねいに発信してきた、だからこそ今のnoteがあるんだと思います。

というわけで、noteは、愛着を持ってもらうことでドリルを選んでもらう、そんな素晴らしい一例です

②apple watch:時間を知りたくて時計を買っている人なんかいない

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次にapple watch。時計市場は、もともとあった穴は完全に塞がりました。

顧客が真に求めているのは、時計ではなく「時間を知ること」であれば、みんな百均の時計で済ませているはずです

でも、実際には、10万円も20万円もする時計が売れています。

たとえば、バカ売れしているapple watch。

-ご指名買いを生む愛着心
-ヘルスケアにこそ役立つ
-高級時計を追い求めなくてすむ、新しい価値

などなど、愛着を生むドリルと、新しい穴(ニーズ)を同時に提供して成功しています。

apple watchのスゴイところは、「appleだから買いたい」というニーズに加えて、なんやかんや新しい価値も提供しているところです。

日本で売られているapple watchには搭載されていませんが、米国で売られているモノにはすでに心電図機能が実装されていて、ヘルスケアサポート的ない一面も兼ね備えています。

そう遠くない将来、apple watchは時計の形をした、人体サポートグッズになるのかなぁと思ったりしています(笑)

③ロウソク:穴(ニーズ)の定義を変えて、急成長した

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もうひとつ面白い話が、ロウソクです。

50年前、ロウソクの機能は「明かりを灯すこと」でした

ドリル-穴理論に置き換えると、「顧客が買いに来たのはロウソクではない、明かりを求めているんだ!」ですね。

そんなロウソクマーケットは、2000年前後に大きな分岐点を迎えます。明かりなんて電気でいくらでも賄える時代に、市場が大きく拡大したんです。

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アイディアが溢れかえる世界における意味あるイノベーションより転載

「明かり」を売るから、「ぬくもり」を売るへ

穴(ニーズ)の定義を変え、市場がさらに大きくなったんですね。

2020年の今日、キャンドルは、雰囲気を楽しんだり、リラックスするために香りを焚くものですよね。

この転換期に、伝統的なキャンドルメーカーPrice`s Candlesは、あえて明るすぎないロウソクを売る会社を「あんなキャンドル、売れるわけがない。明かりを灯さないなら、ロウソクの意味がない」と言っていたらしいです。

しかしながら、ニーズが変わる過程で、世界最大のロウソクメーカーだったPrice`s Candlesは潰れ、香りや雰囲気を売るキャンドルメーカーは大きく伸びたそう。

未来から転換期を振り返ると、どちらがナンセンスだったかハッキリわかりますが、渦中にいるとなかなか気づけないモノ。とはいえ、ここから学べることもあるはずです。

このロウソク市場の変化から得られる教訓とは、

成熟した市場、機能では他の商材に負けてしまう市場では、穴の定義を変えたほうが勝ち筋が見つかりやすいということ。

つまり、ドリルの機能で差がつかなくなればなるほど、「意味を売れ」って話です。

イタリア人のロベルトベルガンディは、これを「意味のイノベーション」と言っています。

ロウソクの話以外にも、たくさんの意味のイノベーション事例が詰まっているで、よかったら読んでみてください(笑)

ドリルを売るには、三方位から考えてみること

今日は、ほんとうに「ドリルを売るには穴を売ればいいのか?」について考えてみました。

僕の結論は、3つの視点からドリル商売を考えることです。

①穴を売る(従来のやり方)
②愛着を持てるドリルを提供する
③新しい穴(意味)を提供する

今の時代、モノが溢れ、価格競争も熾烈になり、単純に「良い穴」を提供していても、なかなか売れない環境になってきています。

だからこそ、

・「このドリルじゃないとダメ」と思われるような、愛着のある商品を作れないか?

・新しいドリルの使い方ってないのかな? 穴以外にも売れる方法はないのかな?

と、馬鹿正直に穴を売るだけではなく、三方位から考えることが、今のマーケターには求められているのだと思います。成熟市場であればあるほど、②と③の価値が高まっているのは間違いありません。

ということで、「今の時代、ドリルを売るにはドリルをそのまま売ったほうがいいんじゃないか?」というnoteでした。

結局は、「役に立つ」から「意味がある」へのシフトって話ですね(笑)

余談:

今年一番「意味のイノベーション」が起きるのは、マスク市場だと思います。ウイルスの感染防止が本来のマスクの役目ですが、その機能を超えて、「可愛いから」「見栄えが良いから」「使い心地が良いから」といった理由で、多くの新しいマスクが誕生するのではないか?とみています。

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