見出し画像

シリーズBの資金調達を終えて。 あるいはスタートアップの第一号社員として創業期にジョインしたCFOの独り言(シリーズA編)

まえがき

「続きは明日書きます」と言ってから、結局2週間が経ってしまい、なんと年を跨いでしまいました
本当にすみません

「HUNTER×HUNTER」の富樫先生、「ドリフターズ」の平野先生
続きを早く書いて欲しいと思ってしまい、本当にすみませんでした

何かモノを書くって、本当に大変ですね
どうも、モノグサというスタートアップでCFOをしています、細川と申します
前編にあたるシード期編はこちらをご参照ください

また、書き出してみると、前編を大幅に上回り、5,000字を超えてしまいました
長い割に前編以上に、あまり人様のお役に立てる内容ではないので、その点平にご容赦くださいませ

ちなみにトップ画像は、年末に行われたポケモンカードのシティーリーグ アディショナルシーズンで私が握ったムゲンダイナデッキのカードリストです
※本編にまったく関係ありません
 結果ですか?1勝3敗というボロボロの成績でした

ファイナンスに動き出す前

さて、2018年11月にシードファイナンスをクローズした後、次のファイナンスは2020年夏~秋頃を考えていました
理由はいたってシンプルで

  • 2020年末頃に資金が尽きることが分かっていたから

  • 「PMFした」と言えるARRに達するには一定の期間がかかると思っていたため(想定よりも早く進む可能性はあったが、五分五分の感覚でした)

  • 教育市場の特性上、学期単位でサービスの導入が決まるので、4月にならないと、それまでの事業活動の成果が見えないため

なので、基本的には2020年4月の実績を以て、投資家に向けてピッチを行い、半年後くらいにクローズというスケジュールを引いていました

また、シリーズAについては、明確に2つの条件を決めていました
「目標」ではなく、「条件」です

  • Top tierのVCであること

  • Deep Pocket(ファンドサイズが3桁億円以上)であること

簡単に言うと、実績・実力・ブランドがあって、投資余力が莫大にあるところから投資を受ける、ということです

こちらも理由は簡単で、日米どちらの市場を見ても、いわゆる成功したと言われるスタートアップの大半はTop tierのVCから出資を受けています

VCに目利き力があって、よいスタートアップに投資できているからなのか、優れたVCがバックについたことによって、スタートアップが成長できているのか、因果関係はどちらでもよく、歴史的事実としてそうなっているので、それに乗るべし、というのが私の見解です

また、スタートアップは大企業と比べて、堅牢性が著しく低いので、内/外の環境変化をもろに受けます
スタートアップ側に落ち度がないのに、環境変化によって一瞬で事業が吹き飛んでしまうリスクがスタートアップには内包されています
特に外部環境の変化に対してのリスクマネジメントは限界があります

そこで重要なのは、「お金」と「時間」です

スタートアップで働き始めて一番驚いたことは、人材の質が圧倒的に高いことです
能力、スタンス、情熱、どれをとっても一級品で、自分が2,3回転生したとしても、彼ら/彼女らの足元にも及ばないような素晴らしい人たちばかりです(仮に転生先として肉うどんを挟まなかったとしても)

であるならば、何か想定外の大きな変化が起きたとしても、ピボットするなりなんなりして、対応すればよい
言い方を変えると、対応できる人的資本がスタートアップにはあり、それが武器であると考えています

ただ、元の土俵まで上がってくるにはそれ相応の「時間」が必要であり、そのためには「お金」が必要、という整理です

その際、頭に入れておかなければならないことは、事業の成長が鈍化したタイミングで、新規の投資家から資金調達するのはめちゃめちゃ大変ということです
SASUKE 1stステージの反り立つ壁に到達した時点で、残り時間が5秒切ってる時くらいの難しさがあります

スタートアップ側はもちろん大変なのですが、投資家側も新規投資の際にはすごくパワーが必要なので、あえて逆張りの意思決定をするには相当の理由や条件がない限り難しいです
そして、それは往々にして創業者や既存投資家と折り合わないことが多いです

一方で、既存投資家からすると、すでに同じ船に乗っており、かつ会社の状況もよく分かっています
したがって、成長鈍化が一時的な要因であるならば、既存投資家からの追加出資を受けることは、新規投資家から出資を受けることと比較して、その難易度が天と地ほどに差があります
(もちろん、損切りするという選択肢も当然にありますが)

なので、出資を受けるファンド、特にリード投資家のファンドサイズはとても重要です

そして、なぜこんなにネガティブというかリスクヘッジ思考的にファイナンスの計画を立てていたかというと、私がペシミスト寄りのリアリストだから、ということに加えて

そうです、新型コロナウィルスという、ほとんど誰も予想していなかった危機が突如、世界中を襲ったからです

今でこそ、コロナ禍はSaaS系やDX系スタートアップにとって、何十年かに一度の追い風のように解釈をされていますが、当時はリーマンショック以来の経済危機だ、と言われていました

その時の私の心境としては、事業に一定手応えを感じていたところだったので、「よーし、いよいよ海に泳ぎだすゾ」と思っていた矢先に、場末の居酒屋の小汚いまな板の上に乗っけられた稚魚の気持ちでした
・・・例え下手でスイマセン

とにかく、ヤバいという気持ちでいっぱいでした(語彙力)

セオリーとしては、ヤバいと感じた瞬間に手元資金を厚くすべきなのですが、上述の通り、構造的に資金調達のタイミングは限られていたため、打てる手が限られていました

一方で、デジタル化やオンライン化が遅れていた教育市場が、学校や塾の長期休校措置という外圧によって、半ば強制的に変わらざるを得なくなったのもまた事実でした

なので、プランBは別途複数走らせつつも、この大きな環境変化が、事業的にはむしろプラスであると定義し、

「Monoxerは、きたるリモート教育時代における、家庭学習・遠隔指導も含めたトータル学習マネジメントサービスである」というストーリーでVCから資金調達することをプランAとして進めることを決めました

ファイナンスに動き出した後

導入見込みが概ね見えてきた、20年3月末頃から、投資家にサウンディングを始めました
ここで、2つほど誤算がありました

1つ目は思ったほど資金調達の環境が悪くなかったことです
大規模な財政出動と金融緩和によって、金融市場は流動性を取り戻しつつありました
実際に、3月下旬に株価は底を打ち、デジタル系の企業を中心に株価はV字回復しつつありました
ただ、まだワクチンの承認も降りていない頃で、予断を許さない状況でした
そのため、ファイナンスできないことはないが、条件は結構シビア、という印象でした

2つ目は「リモート教育時代の学習マネジメントサービス」というストーリーが、実際に自分で話してみるとしっくりこなかったことです
当時の潮流にも分かりやすく合致していたため、理解してもらいやすかったのですが、話の深みがまったくない感覚でした

どうしてもこの違和感を拭うことができず、本当は4月下旬から本格的に投資家周りをする予定をいったんストップし、改めてストーリーを整理することにしました
本来であれば一刻も早くファイナンスすべき状況ではあったのですが、仮にファイナンスできたとしても、このままでは後戻りできない分岐を通過してしまう気がしたので、恐怖に震えながらもストップする意思決定をしました

その後、CEOの竹内とユーザーやクライアントの課題や不安が何なのか議論を進めていく中で違和感の正体が分かりました

1つ目は(短期的には)リモート教育はメインストリームにならないということです
言い換えると、生徒も先生も保護者もリモート教育を望んでいなかった、ということです
もちろん、オプションや保険としてのリモート教育が重要であることは論をまたないのですが、「1つの場所にリアルで集まること」のニーズや重要性が、休校期間を経たことによって、浮き彫りになりました

2つ目は特に塾領域において、生徒や保護者、先生が一番不安に思っていたことは「成績が上がらないのではないか」ということでした
授業自体は現場の方々の尽力によって、リモートでも行えるようになっていましたが、授業前後の予復習や、学習進捗の把握が難しくなったことにより、一番重要な成績向上というゴールへの不安が生まれていました

3つ目はあれだけEdtechに追い風が吹いた中で、教育市場で一番事業を伸ばしたのはEdtechプレイヤーではなく、オンラインミーティングプラットフォームであるzoomだったことです
つまり、コロナ禍という緊急かつ異常な事態においても、教育事業者は教育サービスにお金を払いたいわけではなく、自分たちの具体的な課題を解決できるサービスにお金を払いたいのだ、という冷静に考えると当たり前の事実を身をもって知ることになりました

この気付きを経て、最終的なストーリーとしては、学習プロセスと理解と定着に分けた上で「成績向上に直結する定着支援のプラットフォーム」としてファイナンスを進めることにしました

つまり、創業の時から掲げている会社のミッションである「記憶のプラットフォームをつくる」という原点に回帰しました

ちなみにこの結論に至ったのは、すでに投資家のアポ取りがほぼ完了し、ピッチを開始する約2週間前でした

WiL久保田さんとの出会い

最終的に10社弱の投資家の方とお話させていただくことになるのですが、そこでWiLの久保田さんと出会うことになります

WiLはメルカリ、ラクスル、Asana、SmartHRを始めとしてとして、多くの素晴らしいスタートアップに投資・支援している、日本でもトップクラスのVCです

またファンドサイズも600億円という破格の大きさで、私が掲げていた条件にピッタリとマッチする投資家でした

なので、アポを絞った中でも、特に重要視していた投資家の1社でした

そして、初回面談のタイミングで初めてWiLの久保田さんと会うわけなのですが、実際に会って話をしてみて、それは確信に変わりました

久保田さんは他の投資家の方と何が違ったか

それは、こちらのピッチ後すぐに、Monoxerが中長期で目指している世界観やそこに至る戦略を、とある米国のスタートアップを例に取りながら、ご自身の言葉で再整理されたことです

Edtechが脚光を浴びている状況であったので、足元の業績や“類似企業”との差異などについて質問をいただくことが多かった中、それはとても新鮮な体験であり、私自身の解像度も一段上がりました

なので、その話を聞いた直後から「WiLの久保田さんから出資を受けたい!」と思いました
ちなみに、もう1社、初回面談後に「この人から出資を受けたい!」と思った投資家がいらっしゃいます
それが、後にシリーズBでリード投資家となっていただくこととなる、グローバル・ブレインの立岡さんです

詳細は大幅に割愛してしまうのですが、その後DDを経て、無事WiLから一番早くタームシートを頂き、そのままシリーズAのリード投資家として出資をいただく運びとなりました

シリーズAのその後

シリーズAがクローズした時の達成感や安堵感は、2018年にジョインしてから2022年現在に至るまでで、一番かもしれません

  • 経済、特に金融市場が不透明であったこと

  • 新規VCから出資を受ける以外の選択肢がほぼなかったこと

  • シード期と異なり、リファラル以外での採用も進んでおり、雇用を守らなければならないという意識が強かったこと

  • リファラルではない投資家から出資を受けられたこと

  • 自分が設定した高い条件をすべてクリアーできたこと

もちろん、シードのタイミングでは資金調達そのものが初めての経験でしたし、シリーズBは文字通り一桁違う規模でのファイナンスなので、それぞれの難しさはあるのですが、100点をあげてよい仕事だったと思っていました

話は少し飛ぶのですが、私のファイナンスの師匠は3人おりまして、その内の1人はリクルート時代の大先輩で、現在とある上場企業のCFOをされている方です

何か大きなイベントや悩みがあると、その方に相談や報告をしていました

実際にコロナで情勢が不透明になった時に、いち早く相談に乗ってもらい、前に進む勇気をいただきました

なので、シリーズAがクローズしたタイミングで、報告と御礼を兼ねて2人で飲みに行くことになりました

コロナが落ち着いた時期でもあったため、和やかな雰囲気で進み、私の仕事についてもとても褒めていただきました

宴もたけなわなタイミングで、その方から「それで、次はどう考えてるんだ?」と質問を頂いたので

「おそらく事業はXXくらいの規模感になっていると思うので、来年の今頃にValuationはXXくらいで、XX円くらいのファイナンスを考えています」

と答えました

ちなみに私が回答した規模感は、同様のステージのスタートアップであれば結構ストレッチした目標でした

私の回答を聞いた師匠は、一瞬で鬼の形相に変化し、

「てめぇ、俺の前でそんな腑抜けたこと言うんじゃねぇ!次にそんなこと言ったら、このビールを頭からブッかけるぞ!!」

と怒鳴られました

その時の私の心境ですか?

それは恐怖でもなく、怒りでもなく、「痛いところ突かれたなぁ」という反省の気持ちでした

どういうことかと言うと、シードもシリーズAのファイナンスも、内容的に会社にとってベストウェイであり、かつ自分にとってはギリギリ届くかもしれないという、極めて高い目標でした

一方で、その時私が回答した内容は、相場観としては高い目標である一方、会社にとっての必然性はあまりなく、目標達成の難易度も6~7割くらいの確率でいけるレベルであり、そこに真剣さがなかったことを即座に見抜かれてしまったのです

ホッと一息ついたのも束の間、次のステージに向けて、会社にとって、自分にとって目指すべきものは何なのか、また模索する旅が始まりました

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?