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アメリカ国務省の「人身売買報告書」和訳してみた

前提:この報告書はぶ厚い

そもそも人身売買報告書とはなんぞやというと、毎年、アメリカ国務省が情報収集・勧告などの目的で作成・公開している資料です。日本だけでなく世界各国における現状を調査してまとめています。2021年版の日本に対する言及だけでも6000単語弱。肌感覚ですが、日本語にするとだいたいレポート20枚ぐらいだと思います。

2021 Trafficking in Persons Report: Japan

ところで、日本に関する報告は以下の6つのセクションに分かれています。(番号は私が勝手につけたものです。)

0. (冒頭:全体の要約・サマリー)
1. 日本に対する優先的推奨事項(PRIORITIZED RECOMMENDATIONS
2. 人身売買の犯罪取締・訴追における日本の取り組み(PROSECUTION
3. 人身売買の被害者保護における日本の取り組み(PROTECTION
4. 人身売買の予防策における日本の取り組み(PREVENTION
5. 日本国内の人身売買の現状(TRAFFICKING PROFILE

上記のうち、第0部の要約はすでに日本の各メディアが報道しています。

「搾取」の汚名負った外国人技能実習制度 米国務省の人身売買報告書が指摘(東京新聞2021年07月02日)

米人身売買報告書「外国人労働者搾取のために悪用」技能実習制度を問題視(日刊スポーツ2021年07月02日)

「技能実習 搾取のため悪用」 米人身売買報告書、日本を問題視(中日新聞2021年07月03日)

続いて、第1部は、制度の穴をいかにふさぐかというテクニカルな話。第2部から第4部は起訴件数や、既に出来た法律の運用の経緯、各種のケーススタディなど、これもテクニカルな話。もちろん全て重要には違いありませんが、第1部から第4部は内容が細かく、読むのはなかなか骨が折れます。(例えば裁判であったら、提出資料をひとつひとつ検討していくような作業に近いです)

日本の一般国民として大事なのは、まずもって事態をざっくり把握することではないか、と私は思います。つまり第5部の「現状」の話ですね。たとえ全て通読する場合でも、(この種の法律や制度に日頃から触れている方でない限り、)先に第5部を読んでから第1部〜第4部に戻るほうが効率的なように感じます。

そんなわけでキモの部分を訳してみた

そこで、第5部の「日本国内の人身売買の現状」の部分を日本語に直してみました。これなら900単語程度なので、レポート数枚ぐらい。

なお、私は業としての翻訳家ではありません(仕事に使う言語はほぼ全て英語です)。訳に何かお気づきの点があれば、お気軽に指摘していただけるとありがたいです。また、太字に関しては私の判断です。時間がない方のためのものですが、煩(うるさ)く見えてしまったら申し訳ありません。

それではどうぞ。

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日本国内の人身売買の現状(TRAFFICKING PROFILE)/ 2021 Trafficking in Persons Report: Japan

過去5年間の報告と変わらず、日本では国内や海外の男女が人身取引犯によって強制労働と性的搾取目的での人身売買にさらされている。性的搾取目的での人身売買に関しては、国内未成年の被害も多い。また、人身取引犯が東アジアや北米に被害者を送り込んで搾取する際の経由地としても日本が使われている。

人身取引犯は主にアジア出身の男女を強制労働に従事させており、この従事先には日本政府が管轄するTITP(訳注:Technical Intern Training Program, 技能実習制度の採用企業が含まれる。日本人男性が犠牲者のケースであれば、日本政府が2020年に特定したものは5件。1件を挙げると、被害者は日常的に暴力を受けた上で低賃金・長時間の労働を強制されていた。日本で急増している外国人留学生もまた、未熟練労働の分野で人身売買のリスクに晒されている。Work-Study規約(訳注:留学生の週あたり労働可能時間を典型とする各種の規制)は酷いもので、欺瞞的とすら言える。

北東アジア(訳注:この用法では日本や朝鮮半島・中国などを含むエリア)、東南アジア、南アジア、南米、アフリカなどの成年男女や未成年が、仕事や偽装結婚の目的で来日し、性的搾取目的での人身売買の対象になっている。人身取引犯は外国人女性を日本のバー・クラブ・性風俗店に送り込むために、彼女たちと日本人男性との結婚を偽装している。

人身取引犯はさまざまな手口を使って被害者を強制労働や売買春から逃げられなくする。借金を抱えさせる、暴力や強制送還をほのめかし脅迫する、パスポートその他を没収する、など。雇用主は大半の移民労働者から生活費や医療費を徴収しているため、被害者が借金から足抜けすることは難しい。さらに借金が膨らむのは、売春施設の経営者が、被害者が素行が悪いなどの理由で合法な契約に基づかない「罰金」を徴収しているケースだ。

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性的搾取目的での人身売買のターゲットとしては、日本その他の少年少女で、家出をしている十代も挙げられる。「援助交際」なる金銭受け渡しを含むデートビジネス(訳注:原文は Enjo Kosai or "compensated dating" services)、それから「JK」ビジネスの亜種は、組織犯罪とつながっていることも多い。依然として日本の少年少女が性的搾取目的での人身売買に晒され続けているのだが、調査によれば中国、韓国、ラオス、フィリピン、シンガポール、ベトナム出身の未成年もこれらのビジネスで搾取されている。

コロナ禍によって失業とDVが急増したことで、日本の女性・少女、とりわけ家出した子どもが、「援助交際」に足を踏み入れるリスクが増している。NGOの指摘によれば、人身取引犯が彼女たちとコンタクトを取る手段としてSNSが利用されるケースが増えている。

「JK」バーのオーナーの一部は、未成年の少年少女を水商売に強制的に従事させている可能性が高い。この被害者にはLGBTQI+(訳注:ここでは「性的マイノリティ」のこと)の若者も含まれる。

セックス産業は高度に組織化されており、弱い立場の日本女性・少女をターゲットにしている。貧困や認知障害を抱えて生きている女性・少女が狙われることが多い。地下鉄、若者のたまり場、学校といったパブリックスペース、そしてオンラインに(セックス産業の)網が張られている。彼女たちはたいてい借金で縛られたあと、性風俗店や小型のライブハウス、商業施設、リフレ店などで売春させられる。

一部の人身取引犯は、モデル・女優事務所のスカウトという体裁を取る。詐欺的な手口を使って、日本の男女および少年少女に曖昧な契約にサインさせる。そして法的措置をちらつかせ、あるいは不名誉な写真などを使って脅し、アダルトビデオへの出演を強制する。

トランスジェンダーの若者の中には、性別適合のケア(訳注:原語はgender-affirming care, 説明は難しいので割愛します)を受ける資金を稼ぐため、法の監視が届きにくい都会の歓楽街で仕事を探す者もいる。彼らも売春や強制労働にさらされている。

日本の民間の仲介業者は、日系フィリピン人の子どもやその母親の日本での市民権獲得を斡旋し、多額の手数料を取っている。母親は多額の借金を抱えるケースが多い。入国すると母親や子どもは借金返済のために性的搾取目的の人身売買を行う。反社会的組織もまた、仲介業者を装って活動している。詐欺的な触れ込みで家族を日本に誘い、夜の産業で強制労働と性的な人身売買に従事させている。

日本人男性は、依然としてアジアの他の国々で児童売春ツアーの買い手であり続けている。

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強制労働の事例は日本政府管轄のTITP(技能実習制度)において発生している。この制度はもともと、外国人労働者の基礎的な技能を育成するべく設計されたものだった。いまは事実上、外国人臨時労働者受け入れ制度となっている。

技能実習制度参加者の出身国はバングラデシュ、ブータン、ビルマ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、モンゴル、パキスタン、フィリピン、タイ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナム。

実習生は母国の送り出し機関に、負担金、保証金、曖昧な「手数料」などの形で、数千ドルに及ぶ過度な金銭を支払わされている。日本と送り出し国との二国間協定においてこういう商慣行は規制すると定めたにも関わらず、である。これらの手数料は、日本の漁業、食品加工、貝類養殖、造船、建設、繊維生産、それから電子部品・自動車・その他大型機械の製造業で実習生が職を得るための対価である。

技能実習制度の趣旨とは正反対に、日本の雇用主は彼ら実習生を技能など学べない仕事に従事させている。事前に合意した義務と異なる仕事に従事させる雇用主もいる。実習生の中には、移動や通信の自由を制限された者がいる。パスポートその他の法的書類を没収された者もいる。強制送還や、家族への被害で脅された者もいる。身体的な暴力、劣悪な生活環境、(裁判所の許諾を得ない)賃金の差し押さえ、その他の強制労働を示唆する条件を押し付けられた者もいる。

送り出し機関の中には、実習生に「罰則同意書」なるものに署名させている機関がある。実習生が労働契約を履行できなかった際に、数千ドルに及ぶ罰金を支払わされるという内容だ。

契約した技能実習の仕事を辞めてしまった実習生は、在留資格を失う。その後、一部が強制労働や性的搾取目的での人身売買に従事させられていることが報告された。

特定技能での在留資格(元・技能実習生もこれに含まれる)を持つ外国人労働者の一部は、人身売買のリスクに晒されている可能性がある。あるNGOによれば、現在この特定技能での在留資格を持つ外国人労働者の90%以上が、2019年以前はこの隙だらけの制度での実習生であったとのことだ。

(以上、翻訳終了)



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